第107話 邂逅する俺

 扉が開くとアルマが顔を見せた。クルッと見渡すと誰かを部屋の中に引き入れた。

 女性のようだが顔を布で覆っているので良くわからない。あれだあれ。イスラム教圏の女性がしてるような……ベール? ブルカ? ヒジャブ? なんかそんなの。

 そして、ボディラインを隠すような一枚物の服で青白くシルクの光沢を放った物を着ている。

 露出した部分が目元と手だけだが、手肌の張りを見ると若そうな感じがする。


 アルマが廊下を一瞥すると扉を閉め、連れてきた女性に向かって跪く。

 座るところが無いのでどうするか。俺はベッドに座れば良いけど、見知らぬ女性をベッドに座らせるのは如何なものか。


「苦労を掛けたわね」


 どうしたものか迷っていると女性が顔を隠す布ブルカを脱ぎながら声を掛けてきた。


――女性が脱いでいるシーンってなんか妖艶な感じだよね。それに美人だな。


 見惚れていると女性は手櫛で髪を整えると俺の顔を真っ直ぐ見つめてきた。


「色々と不愉快な思いをさせてしまってごめんなさい。私は教皇の地位についてるルクサーナよ」

「はぁ。 ……その。初めまして。シンゴです。なんか俺の事をお呼びになられたとか……」

「初めましてね。……そう初めて会うけど初めてじゃないの」


 はぁ? 何言ってんだこいつ? フレンドリーなのか偉そうなのか。その口調は辞めて欲しい。でも、美人はなんでも許せちゃうから困る。


「どう言う意味ですかね?」

「……昔、癌に侵されて亡くなった少女がいたわ。その少女は転生してある祝福を授かり組織の長に祭り上げられた。そして、転生する前の幼馴染の魂が現世に転移したことを知った少女はその地位を利用して呼び寄せたって話が合ったら信じる?」


 顔が強張る。


 ……俺はその話を誰にもしてないよな。混乱してきた。

 念の為に聞いてみるか。


「……その少女の名前は?」


 ルクサーナは整った顔立ちを崩すと、堪え切れないように笑った。


「信吾。私のこと忘れちゃったかしら。まあ、転生したから姿形も違うし、貴方の時間間隔で20年? それぐらい前だから仕方ないか。私、優子よ。お久しぶりね」

「……嘘。嘘だろ。こんなところにいるわけない!」


 ルクサーナに怒鳴り睨みつけるが、全く動じていない。

 

「信じられない? まあ、そうよね。いきなり知らない人間にこんなことを言われても、ハイそうですか。とは言えないわよね。私も貴方も肉体の器が変わってて姿形も違うし。」


 ルクサーナは俺と優子しか知らないエピソードを2、3上げる。主に俺が赤面するようなエピソードで優子が爆笑しながら話をしているが、俺はイライラが募るばかりで俺自身も感情を持て余し気味になってきた。

 そんな雰囲気を感じ取ったのかルクサーナはふと真面目な顔に戻った。


「ごめんなさい。あなたの事を思い出してちょっと調子にのっちゃったわ」

「……それでなんで俺を呼び出したんだ? 旧交を温めるつもりだったのか?」

「そうね。それもあるわ。それとちょっと協力してもらえると嬉しいかな」

「協力? 勢力争いのか?」

「そ。ご明察。後ろ盾のない小娘が神輿に祀り上げられるのも大変なんだから」

「あまり手を出したくないな」

「……私には味方が少ないのよ。司教枢機卿に会ったでしょ? あのデブ。私の事を手篭めにしようとしたり、拒否したりすると今度は暗殺して隣国の仕業にして聖戦を吹っ掛けようとしたり。碌なこことにならないのよ。私の祝福も万能じゃないのよ」

「俺が味方してもできることは少ないし、そもそも俺は穏やかに暮らしたい」

「ふふ。貴方は変わらないわよね」

「君は変わったようだな」

「君なんて言わないで優子って呼んで。……まあ周囲に人がいるときにはマズイかもしれないけど」

「……立ってないで座ったらどうだ?」


 ルクサーナは立ちっ放しでいたのでベッドに座らす。

 アルマはどうするか。アルマもベッドに座らせようとしたが拒否された。襲わないよ?

 まあいいか。


 ルクサーナは優子って言い張ってるけど本当に優子なのか?

 確かに俺の昔のことも知っているし、端々に出てくる仕草なんかもそっくりだ。

 奇想天外な話を聞かされても首肯することができない。


――まあ、俺がこの世界に飛ばされて来たのも大概だけどね。


 そもそもどうして俺がこの世界に飛ばされて来たのをルクサーナが知ってるんだ?


「なあ。俺をどうしてこの世界にいるって知ったんだ? 隠れ住んでいたのにどうして突き止めたんだ? 」

「……私の祝福のことは知ってる? そこから話をしないとね」

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