第103話 鬱々とする俺
隠れ家に使っている部屋には俺とアルマしかいない。サーリムは扉の外で番をしている。俺がアルマを害して逃げ出すことを考えないのだろうか。
「お前さんは女には無闇に手を出さないそうだからな」
――サーリムの絶大な信頼を無碍にしても良いのだが釈然とはしない。
しかし、隠れ住むってのも暇でしようがない。本来はビクビクしながら人の目を気にしていなくてはならないのだろうが、イマイチ俺の立場が不明瞭だしな。
俺をどうしようと考えてるのかね。俺個人が欲しいわけじゃなくて、俺の祝福が目をつけられてるんだろうな。
俺を捕らええて細菌攻撃させる兵器にしたいのか。それとも抑止するために亡き者にしようとしてるのか。どっちだろう。
……どっちかだよね?
ぼーっとしてると碌でもないことを考えてしまうので何か作業をしたいのだが、料理は食材がなく配給制なので腕を振るえないし、手慰みに熟練の粋に達した人形作りもサーリムがいるせいで動かせない。まあ、道具もナイフ1本だけなので大したものは作れないが。
そんな訳でアルマとのお話をするぐらいだが、どうしても詰問調になってしまう。
「なあアルマ。なんであの村にいたんだ? 教皇の伝があれば貧しい暮らしもする必要もなかったし、砂糖を買うためにその胸飾りも手放すことも無かったんじゃないのか?」
「……あの街道沿いの廃村を覚えてますか? 私は彼処で産まれ育ちました。お父さんは宿場の店主でした。私が12歳の5年前。領主と教会の抗争が激しくなり村はそれに巻き込まれ、両親は教会のスパイ容疑で処断されてしまいました。その当時は教会と全く関係がなかったにも関わらずですよ。 ……その後お爺ちゃんと一緒に教会本部に避難した時に即位したばかりの教皇様とお目に掛かりました。隠れ村に移り住み時を待ちなさいと」
普段はあまり喋らないアルマが堰を切ったように喋り出した。領主との抗争の憤りが胸の底で燻っているみたいだな。
「それから私達は隠れ村に赴きました。廃村の時からの繋がりで受け入れてはくれましたが、新参者の私達を見る目は厳しかったです。村にいたのは頑固な年寄りと小さな子供だけでしたからね。私は小さな子の面倒を見ることになりました。食べ物もあまり貰えなかったし、両親を失った子供達が多くて……」
あの村の旧弊達の頑固さを見ると頷けるところもあるな。青壮年の人達を見かけなかったし、硬直化した村だったんだろうね。
「なんで教皇は隠れ村のこと知ってるんだ? 存在を隠してたんだろ? 」
「……わかりません。教皇様は色々な事をご存知です。それが教皇様の祝福だそうです。」
「あの隠れ村も教兵に襲われたんだろ? 知ってるなら今更襲われるのも良く分からん」
アルマが言うには襲ってきたのは強硬派らしい。細かい事情は知らないらしいが納税のことらしいね。そして、俺のことも教皇に聞いたらしい。俺の家に避難して出て行った後に、教皇に会いに行ったらしい。
なるほど。街に蔓延していた疫病からはタイミングよく避けられたみたいだな。
ただ、あの疫病が呼び水になり俺の存在が確認され、そして各組織にバレたみたいだけど。
――揉め事は嫌だな。俺は平穏に暮らしたいだけだし。一人で生活するのも物質的にも精神的にもキツイから不足するものをお互いに交換するだけで良かったのにな……。
アルマと話をしても心が晴れる話題はないし、食事は酷いし、外にも出れないので鬱々とした日々が続く。
そして、大量の蹄の音が家に近づいてきた。
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