第74話 城に辿り着く俺
門の近くまで歩いてみた。
空堀、跳ね橋、衛兵と由緒正しき門のあり方をしている。
人の往来は無い。商人だろうか。大量の荷物を持った人が門の中に入ろうとしているが、中にいれてもらえないようだ。
戻ってきたところを捕まえ聞いてみる。勿論、爺の感じを醸しだして。
「なんじゃ。門の中に入らんのか」
「五月蝿いジジイ!」
なんか苛立ってますな。でも俺のことジジイだってよ。変装は上手く行っているようじゃ。
……なぜか頭の中も爺になってきたのじゃ。変装の極意は自分を騙すところからじゃからな。
「つれんの〜。女にもてんぞ」
「やかましい。なんか病気が流行ってるから入るなってお達しが領主から回っているってよ。ジジイも早く立ち去ったほうがいいかもよ。短い寿命が更に短くなるぞ」
「ありがとよ。見かけによらず良い男じゃのう」
「見かけによらずは余計だ」
そう言うと商人は去っていった。
――病気ねえ。
領主がちゃんと仕事してないんじゃないの? 見た感じ衛生状態が良さそうじゃないし。
正面からは入れなさそうなので、遠くから見えた場所に行ってみる。
スラムに足を踏み入れる。
臭い。むせ返る臭さ。
よくこんなところで生活できるな。俺だったらミョウバン水を振りまいてるところだ。
ミョウバン水は殺菌消臭に効果が高い。ペットが粗相したときにもスプレーすると臭い消しになる。
ちなみに靴の中にミョウバンの粉末を小指の先ほどの量を入れておくと消臭効果が長持ちする。是非やってみてくれ。
うわ、ウンコがあちこちに落っこっている。液体状のものもあちこちに。液状のものがカピカピになって黒ずんでいる。もしかしたら血便のもあるかも。
不思議なことにあまり人の往来がない。
暑くて臭いからからあまり外に出てこないのかな。
あまり栄養状態が宜しくなさそうなばあさんが戸口に座っていたので話しかけてみた。勿論、爺風味で。
「あまり人を見かけないけどどうしたんじゃ?」
「……あんたこの辺の人間じゃないね」
一発で見抜かれてるな。まあそうだろう。自分でも浮いているように感じるし。
「いや。城に入ろうとしたんじゃが入れんでのう」
「いまは病気が流行ってるから入らんほういい。わっちらも酷いもんじゃ」
「酷いってなんだ……いや、なんじゃ?」
「腹を下したり、吐いたりして微熱で寝込んでる奴らばっかりじゃ。早く去ね」
「……人に会いに来たんだ。ちょっと様子見て帰るつもりなんじゃが、入れるところないか?」
ばあさんが黙って手を出してくる。
なんかくれってことか?
「残念ながら儂は金をもっとらん。食いもんでええか?」
ばあさんが頷いていたので、頭陀袋からパンを一欠渡してやる。
「あそこを曲がって壁沿いに歩くとチビた男がおる。そいつに声を掛けな。わっちの名前をいえば案内してくれるさ」
言われた通りに歩くと小さいおっさんが腰掛けていた。頬がゲッソリしている。このスラムの栄養状態は悪いようだ。
声を掛けばあさんの名前を伝えると同じように手を出してきたのでパンを一欠渡してやる。
小さいおっさんが歩き出したので後を追うが、妙に臭う。糞便臭い。お尻に漏らしたような跡もある。
汚えな。洗えよ。パンより石鹸を上げたほうが良かったのかも。
小さいおっさんが壁に立てかけられた板を除くと城壁に穴が空いている。大人が屈んで通れるぐらいの大きさだ。
おっさんが顎をしゃくっている。行って来いってことか?
一応礼を言い、城壁の中に入っていった。
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