【第131話:凱旋】

 大勢の騎士を引き連れて戻ってきたメイとキントキだったのだが、そこにオズバンさんとバッカムさんもいる事に気付くと、掻き消えるようなスピードで騎士団を置き去りにして皆の元まで戻ってくる。

 騎士団が何かどよめいているが気にしたら負けだろう。

 オレ達の姿も見えているので問題なさそうだし。


「オズバン殿とバッカム殿!お久しぶりでござる!」


「がうがぅ!」


「おぉ。メイは相変わらず ござる なんだな!キントキも元気そうで何よりだ!」


「久しぶりだね。メイちゃんも無事のようだし、これで全員の無事が確認できて私も一安心です」


 ここでようやく騎士団の人たちが追い付いてくる。


「グ、グレス殿!皇子は!?サルジ皇子はご無事なのか!?」


 そしてその中から少し白髪の混じった騎士が進み出て、今にも掴みかかりそうな勢いで尋ねてくる。


「ベガ様。大丈夫っちよ。サルジ皇子はあっちの馬車ソリに乗って待っているっち」


 そう言って指をさすグレスなのだが、ベガと言われた老騎士の顔が引きつっている。


(あ。不味いな。この人ケリーの正体を一発で見破ったみたいだ……)


「サルジ皇子ぃ!!今!今このベガが命に代えてもお助け致しますぞぉ!!!」


 そう言って走り出したのだ。


「ちょ、ちょっと待ってください!?」


 何とかベガさんを羽交い締め止めて事情を説明するのだが、ケルベロスがいる事にパニックになっているようで全然話を聞いてくれない。


「あのケルベロスはオレの従魔なので大丈夫です!サルジ皇子は無事ですよ!」


 そうこうしているうちに、騒ぎに気付いたサルジ皇子が馬車ソリから降りてきてようやく落ち着いてくれたのだった。


 ~


 その後、オレ達は騎士団に先導されて街に入ると、オレ達に気付いた街の人たちが手を振ってくれたりして、ちょっとした凱旋パレードのような事態になってしまった。


「サルジ皇子。無事に帰ってきたんだから、皆に手を振ってあげてくれっち」


 グレスに促された皇子は、それでも最初はこれは『暁の刻』に対して手を振っているのだと渋っていた。

 しかし、オレが無事に帰ってきたことを皆に伝えて安心させてあげて下さいという一言で、思い直して馬車ソリの窓から手を振り始めてくれた。


「おぉぉぉ!!サルジ皇子だ!サルジ皇子が無事にお戻りになられたぞ!」


「本当だわ!サルジ皇子よ!」


「きゃー!?サルジ皇子様~!?」


 何か途中から歓声が黄色くなっていっている気がする。


「しかし、サルジ皇子は凄い人気ですね~」


 オレがそう言うと、サルジ皇子は何を言っているのだと言う顔でこちらを振り向き、


「お前たち『暁の刻』は救国の英雄なのだぞ。私より人気あるのだからユウト達こそ手を振ってあげたらどうだ?」


 と言ってオレを窓際まで引っ張り出す。

 すると、オレの頭に乗っていたパズが「それじゃぁ僕が」といった感じで前足を振って皆に愛嬌を振りまくと、結局パズが一番歓声を受けるのだった。

 うん。パズは世界一可愛いから当たり前だね。< 久しぶりの犬バカ


 ~


 凱旋パレードと化すなどちょっとした騒動はあったが、無事に王城に辿り着いたオレ達は、そのまま皇帝と謁見する事になり、緊張しながらも帰還の報告をしていた。

 ちなみにオズバンさん達は、サルジ皇子の計らいで王城内の一室で待ってもらっている。


「サルジよ。よくぞ無事に戻ってきてくれた」


 皇帝とは以前にも一度お会いしているが、今は完全に一人の父親の顔になっているようだ。

 威厳のあるその容姿に反して、その瞳は喜びと優しさとほんの少しの涙に満ちていた。


「はい。ご心配をおかけして申し訳ありません。無事に帰ってこれたのは『暁の刻』の皆のお陰です」


 そう言ってこちらを振り返るサルジ皇子。


「グレス。ユウト。リリル。メイ。そしてここにはおりませんが従魔のパズとキントキ。この者たちがいなければ、私は身体だけでなくやがては心までもが乗っ取られていた事でしょう。本当に感謝する。ありがとう」


 オレ達一人一人を見つめながら声をかけ、感謝の言葉を伝えてきた。

 ケリーが忘れられている気がするが、下手にケルベロスの事を話してもややこしくなるので、フォローはしないでおこう……。


「この国を統べる者として儂からも感謝する。そして一人の父親としても礼を言わせてくれ。皆、ありがとう」


 こうして帰還の報告も終わり、オレ達はサルジ皇子と一旦わかれたのだった。


 ~


 その後、オレ達は豪華な部屋で落ち着かない様子のオズバンさん達と合流する。

 パズぐらいは部屋に連れてきてあげたかったのだが、キントキやケリーと一緒に城の厩舎で待っているのでこの後に会いに行く予定だ。


「参ったな。こんな豪華な部屋、落ち着かなくて仕方ねぇ」


 何かそわそわしながら、部屋の中をあっちにこっちに歩き回るオズバンさんが、少し皆の笑いを誘っている。


「まぁでも、私もここまで豪華な部屋は初めてなので緊張しましたよ」


 バッカムさんも笑いながらそうこたえるのだが、オレはもっと緊張する事を伝えないといけない。


「そうですね。でも、この後サルジ皇子の帰還を祝う晩餐に二人も招待されていますので、緊張はそこに取っておいてください」


 「「え??」」


 この後、二人が揃って部屋の中を歩き回り始めたのは笑わないであげて欲しい。

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