【第130話:再会×2】

 ケルベロスのケリーに牽かれての旅は順調だった。

 途中で何組かの隊商や旅人を驚かせたりもしたが、少しケリーには小さくなって貰っていたので、そこまでの騒ぎにはならなかった。


 それに魔物としては最上位のケリーがいる事で、全く魔物に襲われることもなく、本当にあっという間にゲルド皇国までたどり着いたのだった。


 ~


「帰ってきたっち~!」


 グレスは遠くに皇都が見えると、思わず感極まったのか少し目に涙をためながら叫んでいた。

 遠くを見つめるようなその眼は、きっと悲壮な決意の元、この街を旅立った時の事を思い出しているのだろう。

 それが、ほぼ最高の形で結果を出して帰ってこれたのだ。

 そして同じ馬車ソリの中からその後ろ姿を眺めていたサルジ皇子は、


「グレスには、そしてユウト殿には感謝をしてもしきれないな」


 そう言ってまた頭を何度もさげてくる。

 オレはもう旅路に何度も頭をさげられているので、もうわかったからとなだめるのにまた苦労するのだった。


 そして10分もせずに城門まで辿り着くと、グレスは


「オレ、先に行ってサルジ皇子の事を伝えてくるっち!」


 そう言って、オレの制止も聞かずに走り去っていく。


「あぁ。もう!仕方ないなぁ。さっきもうメイとキントキに頼んでたの気付かなかったのか……」


 オレはそう言いながらもグレスの喜びように笑みを浮かべていたら、


「ユウトさんも何だか嬉しそうですよ?」


 と、リリルに見抜かれて逆にほほ笑まれてしまった。恥ずかしい……。

 そんなやり取りをしていた時、何だか門の方に懐かしい気配を感じる。


 オレは勘違いではないか念のために『第三の目』で確認すると、そこには確かに懐かしい顔があったのだった。


「オズバンさん!?それにバッカムさんも!!」


 リリルの義理の兄であるオズバンさんと、その雇い主であり、かつて一緒に旅もした商人のバッカムさんがいたのだ。

 すると、リリルが感極まって馬車を飛び出し、オズバンさんの前まで走りよると、


「お兄ちゃん!!……無事で、無事で良かった……」


 そう言いながら抱きつき涙を流す。

 オズバンさんがそっと抱きしめ返してリリルの頭を撫でると、


「リリルこそ無事で何よりだ。随分頑張ってたようだが、変わりはないか?」


 と言って目に涙をためていた。


 闇の眷属に地方都市ミングスとドミスが滅ぼされるなど、この世界レムリアス全体が不穏な空気に呑まれている状態なのだ。

 リリルは、きっと口にこそ出さずとも物凄く心配だったのだろう。

 オレはリリルの事も、そしてメイの事ももっと気にかけないといけないなと反省する。

 早くに仲間になった二人は特に、何か一緒にいて当たり前になっていた。


(二人も、そしてもちろんグレスとパズ、キントキ、ケリーの事もちゃんと考えてあげないとだな)


 オレはそんな風に思いながらも、同じく馬車を降りて懐かしい顔ぶれの所に向かう。

 ちなみにケリーにサルジ皇子の護衛は頼んでおいた。パズが頭の上に乗ってきたので……。

 まぁ事情を察したサルジ皇子が逆に行ってきなさいと促してくれたし、ここはお言葉に甘えておく。


 ひとしきり泣いた後にリリルは、


「でも……、な、なんで?なんでこんな所にいるの!?」


 と、疑問の声を口にする。

 確かに別れ際に聞いていたルートからは大幅に外れている。


「それはな。バッカムさんが気を利かせてくれたんだ」


 オズバンさんの視線を受けたバッカムさんは、


「まぁ元々趣味でやってる商売ですし、行く当てを今話題のプラチナランクパーティーに変えても問題ないでしょう」


 そう言って、そしておめでとうございますと、祝福してくれる。


≪サービスで優斗たちの居場所と到着時刻を神託で教えてあげておいたんだから感謝しなさいよ≫


 なんかセリミナ様の声が聞こえた気がするが、神託ってそんな使い方しても良いのだろうか……。

 まぁでも今回はオレ達の事を思っての事なので感謝の気持ちを伝えておく。


「ありがとうございます。そしてバッカムさん、オズバンさん。お久しぶりです。本当にこうやってまた再会できて良かったです」


 オレもちょっと泣きそうだ。


「ばぅわぅ♪」


 オレの頭の上のパズも嬉しいみたいだ。


 こうして久しぶりの再会をお互い喜んでいたのだが、そこに賑やかなお邪魔虫グレスが帰ってくるのだった。


 ~


「おぉぉ!リリルっちのお義兄さんかぁ。俺っちはグレスと言うっち」


 そう言って空気も読まずにオズバンさんに握手を求める。

 せっかくの再会に水を差された形になって、一瞬顔を引き攣らせるオズバンさんだったが、


「あぁ。リリルの義兄のオズバンだ。……もしかして……、あの皇国にこの人ありと言われた『自在撃のグレス』殿か?」


 グレスの名前に聞き覚えがあったのか、初耳の二つ名で確認する。

 すると、久しぶりにその二つ名で呼ばれたのが少し恥ずかしかったようで、


「ま、まぁ、そう言われていたこともあったっちな。このパーティーじゃ一番弱いからあんまり二つ名とか嬉しくないっちけど」


 とバツが悪そうにこたえる。

 オレはそんな自分を過小評価する事ないのにと思いつつも話を聞いておく。


「おぉ。やはりあの!? ん?しかし、このパーティーと言うのはユウトの『暁の刻』の事か?」


「そうだっちよ?」


「その中にはリリルも入っているのか?」


「もちろんだっちよ」


「という事はグレス殿より、リリルの方が強いと言うのか?」


「当たり前だっちよ~。まぁリリルっちは接近戦苦手だから状況にもよるっちけど、リリルが本気だしたら皇国一人で滅ぼせるんじゃないっちか?」


「皇国と言うのはこの大国『ゲルド皇国』の事か?」


「そうっちよ」


「「・・・・・・」」


 会話がそこまで進んだ所で、自分の事を話されている事に気付いたリリルがジト目で見つめているのに気づく二人。


「なに?お兄ちゃんにグレス自在撃さんもどうしたのかな?」


「「な、何でもないぞ!(っちよ!)」」


 何か身の危険を感じてハモる二人だった。


 こんな感じで自己紹介しつつ、サルジ皇子の登場でオズバンさんが何度目かの衝撃を受けつつ、オレ達が話していると、ようやくメイとキントキが出迎えの騎士団と共に現れたのだった。

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