【第115話:ダンジョン その3】

 オレはシラーさん達の話を理不尽に思いながらも黙ってダンジョンの最深部を歩いていた。


「本当に我らは何代にも渡って何をしていたのかと悲しくなりますね……」


「シラーさん。仕方ないですよ。ユウトさんもパズ様同様人の枠を超えているんですし」


「いや。パズ様は元々人じゃないから良いとして、人としてアレはどうなんだ?」


 自分たちが苦しめられていた敵が、一匹現れただけで村の冒険者総出で対応していた敵が、2匹以上の時は騎士団に応援まで頼んで対応していた敵が一瞬で葬られたのに何か憤りを感じたようで、先頭を歩くオレの耳にも聞こえる声で言いたい放題言われながら歩いていた。


「まぁ仕方ないですね。ユウト兄ちゃんがあそこまで凄いなんて僕も思いもしなかったもの。僕も敵が強すぎてわからないけど、あれは普通のプラチナランクを超えてるんじゃないの?」


 オレのすぐ後ろを歩いていたズックにそう突っ込まれると、オレもプラチナランクはグレスしか知らないので、


「オレもプラチナランクなったばっかりだしなぁ。一般的なプラチナランクがどのレベルの強さなのかまでは知らないけど、グレス見る限りはそれ程変わらないと思うんだけどなぁ?」


 とオレは本心で言ったのだが、グレスが ちょっと待った と突っ込みをいれてくる。


「それは聞き捨てならないっち。どう考えてもユウトは別格っちよ!」


「そうでござる。ユウト殿は僕たちより明らかに1ランク上の強さでござる。まぁパズど……パズ様はその更に上をいっている気もするでござるが」


「メイ……。『パズ殿』のままで良いと思うよ?」


「そうですね。パズ君はともかく本気になったユウトさんと互角に戦える人はまずいない気がします」


 メイとリリルにまで言われるとそれ以上言い返せなくなって、オレはごにょごにょ言いながらも納得するのだった。


 ~


 それから何度か高ランクの魔物との戦闘をはさみながらも順調にボスとおぼしきものがいる広間に向かって進んでいた。

 そして更に30分ほどが過ぎたころ、ようやくその広間の手前の部屋まで辿り着く。


 オレは『第三の目』を常時100mほどの範囲で発動していたのだが、ボス前の部屋だというのに護衛の魔物も何もいない事に何か嫌な予感がし、右手をサッとあげて合図を送って皆を一旦停止させる。


 つもりだったが……、


「ちょ!?停止だって合図してるでしょ!?」


 ちょっとカッコつけてあげられた右手が恥ずかしかった……。


 高ランクの魔物をもオレとパズがあっさり蹴散らす様子にすっかり弛緩したメンバーたちは、ダンジョン攻略前に決めた手のサインの事など完全に忘れていたのだ。

 そのため、合図で止まってくれたのはグレスとリリルだけだった。


「あ。ごめんなさい!」


 ズックはすぐに気づいて止まったからまぁ許そう。


「メイ!キントキ!シラーさん!何雑談続けてるんですか!」


 悪ノリしたメイが、オレとパズの話を自分の事のように自慢しながら歩いていてオレの二度目の注意でようやく気付く。


「あ。ごめんなさいでござる……」

「が、がぅぅ……」


 メイとキントキが謝り、他の獣人たちもバツの悪そうな顔で追従して謝ってくる。


「まぁここまでなら良いんですが、ここから先は次元の違う敵が出てくる可能性があるんです。しかも、もしそいつがいたら地下なのでこっちは生き埋めの危険を避けて大技の使えない中で戦わないといけない。正直、やばそうなら撤退も考えないといけない相手なんですよ。ちょっと気持ちを切り替えて下さい……」


 オレがいつになく真剣に注意すると、シラーさんは本当に申し訳なさそうに、


「すみません……。ここまで余りにも順調だったのと、我らの悲願がいよいよ叶うかもしれないと思うとつい舞い上がってしまって……」


 と護衛の二人と一緒に深く頭をさげてくる。


「あぁ。怒ってるわけじゃないのでそこまで頭下げなくて良いですよ。ただ、ゼクスという魔人がいる可能性があるので気持ちを切り替えて欲しかっただけです」


 オレがそう言うとようやくメンバー全員の気が引き締まり、軽い緊張感が漂い始める。


「グレス。そしてみんな。もう何度も話したから作戦はばっちり頭に入っていると思うが、もしゼクスがいた場合はオレは解呪を優先する。少なくともあの少女の姿の魔人二人は護衛でいるはずだから、オレが聖なる力で解呪をはじめたら3人のおさえ込みを頼むよ」


 オレが最後に確認をすると、皆も心強い返事をくれる。


「任せるっち。もう前回みたいな不覚はとらないっち!」

「私も精一杯がんばります!」

「任せるでござる!」

「がぅぅ!」


 そしてパズも、


「ばぅわぅ!」


 ゼクスは僕がおさえてみせるよ!と心強い言葉を伝えてくる。


(ここからはミスはできない。この嫌な感じはきっと……いる!)


「それじゃぁ行こうか!サルジ皇子を取り戻すぞ!!」


「「「おぉー!!」」」


 こうしてオレ達はボスが待ち受けると思われる広間の大きな扉に手をかけるのだった。

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