【第109話:手がかり】

 オレ達がプラチナランクになったというニュースはギルドの遠隔通信網が用いられ瞬く間に世界中を駆け巡った。

 中でも一度に三人と二匹がランクアップしたことと、そのうちの二匹が従魔であること、そして元々プラチナランク冒険者として名を馳せていたグレスも入れて総勢6名がパーティーを結成している事は、世間の話題をさらうのに十分な内容だった。

 ここ数ヶ月、魔人や魔物の襲撃など不穏な話題ばかりだっただけに、このニュースは久しぶりの明るい話題として歓迎されるのだった。


 そしてランクアップ試験から1週間が経とうとしていた。


 ~


「ユウト殿!おかえりなさいでござる!」


 宿に帰ってきたオレとパズの姿をいち早くとらえたメイが待ちくたびれたとばかりに椅子から飛び降りて駆け寄ってくる。


「メイ。ただいま。王都のギルドで話を聞いてきたよ。そっちはどうだった?」


 オレはそう言うと、メイの後に続いて歩いてきていたグレスに問いかける。


「こっちも少し気になる情報がひっかかったっち」


 グレスはそう言うと二ッと笑みを浮かべる。

 オレはそれなら先にこちらの報告を先にした方が良いと考えてリリルと目を合わせると頷きあい、


「こっちはギルドにもかなり協力してもらって情報を集めたんだけど王都では何も手がかりは見つけられなかったよ。パズの追跡でも『あの場所』に向かってるって言ってるし、やはり間違いないんじゃないかな?」


 そう報告して今度はそっちの情報はとグレスに尋ねる。

 するとグレスは確信を持った表情で、


「やはりこっちが当たりっぽいっち。あいつら何か隠しているのは間違いないっち」


 とこたえる。


「やっぱりあの村の人たちが何か隠しているのは間違いないのですね……。悪い人たちには見えなかったんですが……」


 出来れば間違いだったら良かったのにと、リリルは少し寂しそうに話す。


「まぁ何か理由があるのかもしれないし、もう一度行ってみよう。あの『獣人の村』に……」


 オレ達は試験の後、パズの鼻を頼りにゼクスを追いかけてみたのだが、獣人の村近辺でその匂いが忽然と消えたようだったのだ。

 その後、オレ達は村に何か情報がないかと聞きに向かったのだが、何故か村に入れてもらえず追い返される。

 オレは何か怪しい物を感じ取り、権能を用いて調べてみるのだが悪意のようなものはない事がわかり、ただ何かを隠しているとしかわからなかった。


 そのため、一度は他の手がかりがないか近隣の情報を集めようという事になったのだが、村の事も少し調べてみようという事になり、二手にわかれて調べてみたのだった。


「それでグレス。当たりって言うのはどういう事なんだ?」


 オレはそう判断した理由を知りたくてグレスに尋ねる。


「調べてみたらあの獣人の村は10年前に一度サルジ皇子に救われた事があるっちよ」


「救われたって言うのは?それと救われて事があるのと当たりっていうのはどういう?」


「10年前に管理を任されているダンジョンの魔物が異常発生したっちよ。その時に獣人の村の冒険者たちだけでは防ぎきれなくなって村が滅びかけた時、たまたま外交で街に訪れていた若いサルジ皇子が権能でその事実にいち早く気付いたっち。そして護衛の為に連れていた騎士団と魔法兵団に命令して援軍に向かって事なきを得た事があったっち」


 そう言って、グレスは過去の10年前に起こった出来事を話し始める。


 ~


 まず、この世界のダンジョンとは霧の魔物が大量に発生する洞窟や遺跡などの事をさす。

 獣人の村が管理を任されているダンジョンはこの国が出来る前からあった遺跡なのだが、そこには無数の霧の魔物がはびこっていたためどういった遺跡かまでは調査できていなかった。

 そしてダンジョンの管理とはその霧の魔物の間引きをする事だった。

 獣人は普通の人間よりも身体能力が優れているため屈強な戦士を多く揃えており、この獣人の村も本来ならダンジョンの管理を行うのに十分な戦力を保持していた。


 しかし10年前のその日、大量に現れた霧の魔物はレイスと呼ばれる実体を持たない魔物だった。

 レイスは簡単に言えば幽霊のような魔物だ。

 物理攻撃がほぼ効かず、魔法か魔法を帯びた武器などでなければ有効なダメージは与えられない。

 霧の魔物として普通に現れる事はあるのだが、大抵の場合は現れても数匹程度でかなり珍しかったので、今までは数少ない獣人の魔法使いか、数人が所持している魔法の武器を用いて対応していた。

 だが、その日はダンジョン内の敵の大半がレイスとして出現した為、ダンジョン内に押しとどめる事ができず、地上にまであふれかえってしまった。


 いかに屈強な戦士である獣人の冒険者たちでも、こちらの攻撃がほとんど効かないのではどうする事も出来ず、一人また一人とその数を減らしていった。

 いよいよ村の側までレイスの集団が迫ったその時……、サルジ皇子率いる騎士団と魔法兵団が到着したのだった。


 騎士団の剣はそれほど強力ではないが全て魔法の剣であったし、魔法兵団は数こそ少なかったがその魔法は強力だった。

 瞬く間に地上にあふれ出たレイスを掃討するとダンジョンの中にまで攻め入り、ダンジョンの中腹辺りまでのレイスの集団を全て倒し切ったのだった。


 ~


「なるほどね。サルジ皇子はほんと凄い人だね……」


 オレがグレスの説明を聞き終わってそう言葉を漏らすと、グレスも


「あぁ。あの人は絶対に死なせちゃいけない人なんだ……」


 と言葉をかえす。

 そして、助けるという意思を宿らせた瞳でグレスはこう言うのだった。


「まぁそんな事があったので皇子の体が乗っ取られている事を知らない村の獣人は皆口を閉ざしていたっちが、村の外からきたそもそもの事情を知らない獣人がいてね。高価な服に身を包んだ一人の男と二人の少女がダンジョンに入っていくのを見たそうなんだっちよ。ダンジョンを攻略して皇子を助けるっちよ」

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