【第105話:昇格試験 その4】

 予想外の展開でパーティーメンバーと模擬戦をする事になったオレだが、何とかならないかとまだ食い下がっていた。


「あ、あの!たぶんパーティーメンバーと私で戦ったら街に被害が出ると思うんですよ!だからやめときませんか?」


 と提案してみるのだが、グレスが


「あぁ。それなら街から出て少し行ったところに田畑にも使われていない荒れ地があるからそこに移動すると良いっち」


 と余計なアドバイスをしてしまう。

 オレはグレスに目で余計な事を言うなと訴えかけるが、わざとらしく口笛を吹いて素知らぬ顔だ。

 そうこうしているうちに移動も決まってしまい、ワーグナーさんが


「それではグレス様の提案に乗って念のために東の荒れ地に移動しましょう!」


 と指示をだしてぞろぞろと移動を開始する事になるのだった。


 ~


 街の外にでて20分ほど歩くと確かに数百メートルに渡って荒れ地が広がっており、ここなら少々の無茶をしても大丈夫そうだ。


(しまった!?こんな戦いやすいとこきたら色々無茶できてしまうじゃないか!?修練場でそのままやれば良かった!)


 と内心後悔するのだが、もう遅いと諦めて覚悟を決める。


「さぁ。ではまずは従魔のキントキからで良いのですかな?」


 とワーグナーさんに聞かれ、オレは


「はい。ただ、たぶんみんな固有能力を使う事になるので、せめて街からは見えないように闇属性魔法で視界を塞いでおいてもらえますか?」


 とこたえる。

 わかりましたとこたえたワーグナーさんがギルド職員に指示をだし、複数の闇属性魔法使いが黒い煙幕のような視界を塞ぐ魔法の壁を四方に張り巡らす。

 さっき戦ったワドルさんも闇属性魔法をそこそこ使えるようでかなり強力な闇障壁で囲ってくれた。


「おぉ。これなら少々の事なら外部からは見えないですね」


 とオレが感心していると、ワーグナーさんも満足そうにうなずいていよいよ模擬戦を始める事になる。


「それではユウトさんと従魔キントキの模擬戦を開始します!はじめ!!」


 こうしてオレとキントキの戦いが幕を開けるのだった。


 ~


 キントキは開始の合図と同時に魔力を身に纏うと、かき消えるようにオレの前に現れて爪の一撃を放ってくる。


「うわっ!」


 オレは最近キントキの成長を確認していなかったので、予想よりも数段上の速さに驚いて危うく攻撃をもらいそうになる。

 慌ててオレも纏う魔力を数段階あげて対抗すると、オレのスティックとキントキの爪で接近戦を展開する。


「がぅぅ!」


 簡単に負けないよー!と爪の攻撃を放ち続けるキントキ。

 しかし、オレは魔力炉と権能を起動すると徐々にキントキを圧倒しだす。


「悪いけど、負けてやるわけにはいかないよ!」


 とオレは叫ぶと、スティックの魔力撃でキントキを軽く吹き飛ばす。


 ドゴンッ!


 吹き飛んだキントキだったが、ただでさえ頑丈なスターベアが魔力を纏う技を身につけ、更にはセリミナ様に貰った特別な素材で作った防具に身を固めているので、ほとんどダメージを受けていなかった。


(うぁ~これはオレも結構本気出さないと長引きそうだな……)


 と内心考えながらも、本気を出すと威力の加減が難しいと中々本気を出せないでいた。

 すると、今度はキントキが


「がぅがぅーー!」


 本気を出さないならこっちから行くよー!と咆哮する。


「あ!?まずい!?キントキよせ!」


 と止めるがもう遅かった。

 キントキは【権能:そびえ立つ山】を発動すると一気に10mまで巨大化する。

 しかし、その高さは闇の障壁よりも高かったりしたわけで、


 ぼふぅん!


 という音と共に闇の障壁の天井から顔を突き出す事になるのだった。


「……あんな巨大な従魔がいれば小さな街なら一匹で滅ぼせるぞ……」


 ギルド職員たちがあっけにとられて、その凄さにおののいている。


「がぅ……?」


 巨大な怪獣と化したキントキは街の方で悲鳴があがっているのに気づいて、もしかして不味かった?と呟くと、そ~っと小さくなろうとする。

 だが、メイがそんなキントキを見て乱入してしまい


「キントキ!めっ!」


 と言って【権能:鬼殺しの手】で拳骨をくらわしてKOしてしまうのだった。


「……俺は夢を見ているのか?小さな子が拳骨一発で巨獣をノックアウトしたぞ……」


 色んな意味で二重に騒然となるワーグナーさんをはじめとしたギルド職員の人たちを見て、


「あぁ……。これって絶対街で大騒ぎになっているよね……試験も無茶苦茶だし……」


 とオレはこの後の事を考えて大きくため息をつくのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る