【第106話:昇格試験 その5】
オレ達はギルド職員や手伝いの冒険者たちがどうにか落ち着きを取り戻し、使いを出して街の騒ぎが静まるのを待ってようやく試験の続きを行う事になった。
なったのだが……、
「ユウトさん、とりあえず従魔のキントキとメイさんは第二と第三試験ともに合格という事でお願いします」
と、なぜだか試験受けてるこっちがお願いされる。
まぁお願いされたのだから、ありがたくそういう事にしてもらい、
「じゃぁ、次はリリルだと思うんですが、彼女も魔法がとんでもないので出来れば魔法の試射をみてもらって判断して頂くって言うのはダメですかね?」
と提案してみる。
正直言ってリリルに魔法神聖化使った詠唱魔法を当てられたら、オレでも結構やばい気がするのだ……。
「と、とんでもないのですか……」
と言ってジト目でリリルを見つめるワーグナーさん。
「ちょ、ちょっとユウトさん!なんか私が凄い目で見られてるじゃないですか!」
おかげでリリルに抗議をもらってしまった。
すると、それまで面白そうに静観していたグレスが
「ほんとはユウトとの模擬戦見たかったけど、実際周りに被害でそうだからやめた方がいいっちよ」
と止めに入る。すると、リリルは頬を膨らませて
「もう!グレスさんまで!だいたい私じゃユウトさんに勝てないですよ!」
と言うのだが、グレスは
「大丈夫っちよ。ユウトっちは絶対お気に入りのリリルっちに攻撃なんて出来ないっち」
と茶化してリリルを真っ赤にさせるのだった。
~
結局、ワーグナーさんも被害が出るかもとまで言われては強行する事もできず、
「それではリリルさん。あちらに用意した的に魔法を撃ち込んで頂けますかな?」
と言って、土属性の使える魔法使いに用意させた巨大な石柱の的を指さす。
その大きさは高さ5m、直径3mほどもあり、そんな石柱が5本ほど用意されていた。
「わかりました。魔法の一撃であの的を破壊すれば良いのですね」
そう言って詠唱を開始する。
ただ、この時リリルとワーグナーさんには認識にズレがあった。
ワーグナーさんは一撃で石柱を一つ破壊して欲しいと伝えたのだが、リリルは一撃で全ての石柱を破壊するのだと思っていた。
≪わが身は力。その
ここまでの詠唱を聞いて水属性魔法を得意としているワーグナーさんが
「む。水属性魔法の中でもこのような繊細なものを選ぶとは。しかし、あれほど巨大な的を用意したのに魔法の選択を誤ったのではないか?」
と呟く。しかし、もちろんリリルの魔法はここで終わらない。
≪この世界は
≪そして世界よ
最後は叫びとなったリリルの詠唱が終わると、リリルを中心に聖なる力を行使するような光の文様が現れる。
『神聖化:
光の文様から莫大な魔力がリリルに供給されると、天から豪雨のような密度の水の閃光が降り注ぎ、岩に無数の穴を穿つ。
ザシュゥゥ!!!
その光景は遠目に見れば単なる豪雨のようだが、その雨粒はまるで輝く光線のように岩に穴をあけていく。
そしてその雨が上がったそこには石柱はもう一本も存在していなかった。
それどころかその雨が降った場所の地面までもが貫かれ、クレーターのような巨大な穴が出来ていたのだ。
静まり返る広場に
「あ、あれ?ちょっとやりすぎちゃったかな?」
とオロオロするリリルの声だけが響き渡る。
そして、ようやく我に返ったギルド職員や冒険者達が生唾を飲み込み、
「こんな魔法使いが存在していたなんて……」
「うちの国始まって以来の魔法使いなんじゃ?」
「これ程凄まじい大魔法は初めて見たぞ!?」
と、称賛の声をあげる。
そして遅れて我に返ったワーグナーさんは、
「『煌めく水の線』はこんな攻撃魔法ではないぞ!?せいぜい、極狭い範囲の敵に軽い打撃ダメージを与えて弱らせる魔法ですぞ!?」
と若干錯乱状態になるが、色々叫んでようやく落ち着くと
「り、リリルさんも もちろん合格です……」
と試験に合格したことを告げるのだった。
(た、戦わずに済んで良かった……。戦ってたら命を落としていたかもしれない……)
オレは戦う事になったら1、2発リリルの魔法をくらってその実力を見て貰ってからとか考えていたので、内心大量の冷や汗をたらしていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます