【第99話:ポルクスの街】
オレ達はポルクスの街のそばまで行くと、一旦『草原の揺り籠』を収納して歩いて門のそばまで移動する。
街の門での確認もグレスがいるおかげで顔パスだった。
「さすがグレス先輩がいると顔パスでござる」
「メイっちはユウトっちの真似しなくて良いから……」
メイがオレの真似してグレスに突っ込まれたりはあったが、オレ達は何の問題もなく街に入る事が出来た。
既に日が暮れて夜になっていたのでしっかりとは見れていないが、ポルクスの街は今まで訪れた街のように中世ヨーロッパ調ではあったのだが、民家は木造がかなり多いように感じる。
オレがそんな事を思いながら周りをキョロキョロしていると、グレスが
「ハハ。皇都とかと比べるとかなり遅れているっちよ」
と、苦笑しながら言ってくる。
しかしオレは、
「違う違う。オレはこういう風情というか何というか街並みを眺めるのが好きなんだよ」
と元々旅が好きでパズと二人で色々な所を巡っていた事をグレスに教える。
するとグレスは
「へ~。何だかちょっと意外っち。それにリリルやメイともそこまで古い仲じゃぁないって初めて知ったっち」
とリリルやメイを見る。
二人も思い返して、
「そう言われると何か不思議ですね。私もユウトさんとはもっとずっと前から一緒にいたような気がしています」
「確かにでござる。僕もそんな風に思えるでござる」
などと話していると横から声をかけられる。
「お兄さん、お姉さん!良かったらうちで泊って行ってくれませんか?」
その声にオレ達が振り向くと、10歳ぐらいに見える男の子が近くまで駆け寄ってきていた。
「その……お兄さんたちって冒険者でしょ?うちは孤児院なんだけど、空いている部屋を宿として提供してるんだ。良かったらうちで宿泊していってくれませんか?」
と話しかけられる。
少しキントキに怯えているようだったが、健気に怖いのを我慢しながらも色々と説明してくれる。
(利発そうな子だな。孤児院で宿経営か……皆さえ良ければ今日の宿はここしたいな)
そう思って振り返ったのだが、
「ユウトさん、ここでいいですよね?」
「ユウトっち、今日はここにしようっち!」
と同時に話しかけられる。
オレは少し嬉しい気持ちになり、
「あぁ。もちろん!」
そうこたえて、今日の宿を決めるのだった。
~
その子の名は『ズック』と言い、歳はやはり10歳だった。
今向かっている孤児院『風の宿り木』にはズック以外に3人の孤児がおり、今は先生と皆で協力して7つの空き部屋を宿として営んでいるという事だった。
ただ、昨日からお客さんが途切れてしまい、ズックは朝からずっと呼び込みをしていたという。
それでも、ズックは特に疲れた様子も見せず、
「こっちです!この路地を抜けた所にありますので!」
そう言って嬉しそうに案内してくれている。
「ちゃんと前を見ないと危ないぞ」
オレがそう言うと
「ごめんなさい♪お兄さんたちが来てくれたのが嬉しくて!」
そう言って無邪気にまた駆けていくのだった。
そして2、3分ほど路地を歩いた先の少し開けた場所に、古ぼけた2階建ての建物が現れる。
お世辞にも綺麗とは言えない建物だったが、家の周りなどは綺麗に掃除されて手入れが行き届いており、好感の持てる建物だった。
宿に着くと少し待っててくださいと言ってズックが建物の中に入っていく。
すると中から
「せんせ~い!お客さん連れてきたよ!」
と言うズックの声が聞こえ、バタバタと騒々しい音をたてながら若い女性が現れる。
「い、いらっしゃいましぇ!?」
そして噛んだのだった……。
~
ズックに 先生落ち着いて と小声で注意されながら出てきた女性は、まだ
そして、いきなり噛んだのが恥ずかしかったのか、頬を朱で染めながら、
「しゅ、しゅみません!『風の宿り木』にようこしょでしゅ!」
とこれでもかと言わんばかりに噛みまくり、茶色の髪のポニーテールを揺らして深々と頭をさげるのだった。
(これではズックの方が年上に見えるな……)
などと思わず考えてしまうが、彼女の名誉のためにスルーして、
「こんばんは。そこのズックに案内されて来たんですが、とりあえず今日泊まれそうですか?」
とオレが確認する。
すると、その女の子は
「もちろんです!……えっと……私はユリアと言います!すぐに準備しますので、どうぞ中に入ってお待ちください!」
そう言って、ドタバタと中に走って行ってしまう。
「せんせいが本当にすみません!えっと、そこのスターベア様なんですがどうされますか?裏に一応厩舎がありますが、一緒がよろしければ1階の大部屋をとって頂ければ一緒に入って頂く事も可能ですが?」
オレはそれを聞くと、メイに確認もせずに、
「じゃぁ、大部屋にメイとキントキな。後は個室を3つお願いしたい」
とこたえると、後ろでメイが喜んでいる気配が伝わってきた。
そして、目の前のズックも、
「あ。大部屋は倍の価格になりますが良かったですか?」
と、まさか大部屋をとってもらえるとは思っていなかったようで、驚いて確認してくる。
「構わないよ。一応、それなりお金はあるから大丈夫」
そう伝えて、オレ達は一旦みんなで大部屋に入るのだった。
ちなみにオレ達は今まで助けた町々で強引にお礼としてお金を持たされていたので、結構な数の金貨を持っていたりする。
しかも、息つく暇なく移動と戦いと訓練の日々なので、丸々余っていたのでこういう場所にお金を落としていけるのは良い機会だった。
こうしてオレ達は偶然出会ったこの宿で一泊する事になるのだが、次の日のある出来事によりこの孤児院とは少し長い付き合いとなるのだった。
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