【第81話:ゲルド皇国の戦い その8】

「シ、シトロン様……『勇者グルーロの英雄譚』よりも凄い気がするのですが……」

「……より凄いな……我々がこなくてもあのパーティーだけで何とかなったんじゃないか……」

「シトロン様がそれを言ってはダメなのでは?」

「私だって人間だ。あんなもの見せられては動揺もするし、さっきまでの私の覚悟を返せと愚痴りたくもなる」


 オレの『第三の目』の力で後方でシトロンさん達がなげやりな会話を続けているのがわかってしまったが、もうこれは気づかないふりをしておこう。

 そしてメイとキントキのやたら高レベルな戦いもかかわるとめんどくさそうなので放置して、オレとリリル、一定の距離を保ってパズはシトロンさん達騎士団のいる所に向かう。

 パズが一定の距離を保っているのは、さっきオレの指示を破ったのを捕まえてくすぐりの刑にしたのでまだ警戒しているのだろう……。


「ばぅ!」


 なんかもう色々グダグダな気がするが、闇の眷属の軍勢は殲滅出来たし、地中深くに打ち込まれていたくさびも打ち砕いたので良しとしよう。


 もう一度言う。良しとしよう。


 ~


「シトロンさん。闇の眷属たちは全て討伐して、楔に囚われていた魂も無事解放完了しました」


 オレはいたって冷静に報告する。


「・・・・・・」


 なんかシトロンさんの視線が痛い…。

 そして沈黙がつらい…。


「あの……」

「わかっておる。ちょっと私の今まで築き上げてきた『パタ王国最強』の称号が幻だった事にショックを受けていただけだ」

「う…」

「あと、命を捨てる覚悟をしていたのに鞘から剣を抜く事すらなかったものでな」

「うぅ…」


 シトロンさん意外とねちっこいぞとか失礼な事を思っていると、


「まぁ冗談だ。半分はな。それよりも良くやってくれた!心より礼を言う!」


 半分はな の所で笑いながら、深々と頭をさげてくる。

 その笑みはとても爽やかだった。

 そして周りの騎士や魔法兵団の人たちからも労いと称賛の声をかけてもらい、ようやく一息つくのだった。


 ~


 その後、破壊されたミングスの街の状況を確認する事になったのだが、魔物の変異種の躯があるだけで本当に何もなかった。


(『第三の目』でわかっていた事だけど、住民の死体を一つも埋葬してあげる事ができないなんて……)


 贄にされたせいで住民の死体は一つも発見できなかった事に、オレもみんなも少なからずショックを受ける。

 だが、魂を解放できただけでも良かったと考えを改め、せめてとみんなで野花を集めると献花して黙祷を捧げるのだった。


 ~


「ユウト殿。そろそろ出発しないといけないのではござらぬか?」


 キントキに勝ったのか清々しい笑顔でメイが尋ねてくる。


「そうだな。十分な休息の時間も取れずに悪いが、ここでこれ以上時間を割くわけにはいかない。皇都が落ちればこことは比べ物にならない人の命が失われるだろうしね」


 オレはメイにそうこたえると、シトロンさん達と再度合流し、すぐに皇都に向けて出発する事を提案する。


「しかし、大丈夫なのか?特にユウトは顔色が良くないぞ?」


 オレは先ほどの『神具召喚』で消耗した分はもう回復していたのだが、皇都との間にもう一つある地方都市『ドミス』の様子を確認したせいで顔が真っ青になっていた。

 距離的にかなり限界に近かったので、『第三の目』の情報量に脳が焼ききれそうな痛みを受けてしまったせいだ。


「まぁなんとか大丈夫です。パズ号に乗ってる間は休めますし」


 するとシトロンさんは、


「ん?パズ号とは先ほどのスターベアに牽かせていた変わった馬車の事か?でもスターベアの名前はキントキとか言ってなかったか?」


 と聞いてくる。


「あぁ……えっと……、あれ本当は小さい方の従魔のパズ用の神具なんですよ」


 ハハハハと笑って誤魔化しながら説明するが、


「な!?あの小さな魔物があの大きな馬車を牽いて走るというのか…もう何だか驚き疲れてきたぞ…」


 と、あきれられてしまう。


「それと次の街についてなのですが、オレ達に任せて貰えませんか?残念ながらドミスも同じような事態に陥ってしまっているようなので、オレ達だけパズ号で先行して処理したいのです」


 オレがそう頼むと、シトロンさんは複雑そうな表情を浮かべ、しばらく考えると、


「そうだな。あんな大規模魔法を使うのなら我らの出番もなさそうだしな」


 ただ、気をつけろよ と心配しながらも許可してくれる。

 オレは、任せてくれたことに対して、


「ありがとうございます。皇都戦ではこんな簡単にはいかないと思うのでお力を貸してください」


 と礼を言うと、さっそくパズ号こと【神器:草原の揺り篭】を使用する。


「おぉぉ!この変わった馬車は国宝級の魔具ではないのか!」


 とまたシトロンさん達を驚かすことになるが、本当に驚くのは『あかつきとき』の皆が乗り込んだ後だった。


「ばぅぅぅん!」


 小さな従魔チワワが、大きな馬車を馬より早く牽いて走り去っていく姿は、大規模魔法以上に騎士団の人たちを驚かす事になるのだった。

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