【第79話:ゲルド皇国の戦い その6】
「シトロン様。本当に彼らだけで行かせて良かったのですか?」
魔物の軍勢に向かっていくオレ達の後ろを姿を見ながら一人の騎士が問いかける。
だがその騎士の心配そうな問いかけとは対照的に、
「黙ってよく見ておけ。『勇者グルーロの英雄譚』が生で見れるかもしれんぞ」
と楽しそうにほくそ笑むのだった。
~
「ユウト殿!全力でやっても良いでござるか!」
「がうぅがぅ!」
メイとキントキが特訓で覚えた力を使っていいかと聞いてくる。
だがオレは、
「全力でやってもいいけど、丁寧に二人に獲物を残しておく気はサラサラないからな。オレもいきなり『神具』を使うぞ」
とオレも全力で行くことを宣言する。
「私だって怒ってるんです。私もあの魔法使いますからね!」
やはり強い憤りを感じているようで、珍しくリリルもこの戦いに積極的だ。
そしてリリル、メイ、キントキは加護の本当の力をある程度使いこなせるようになっている。
もう1ヶ月前のオレ達じゃ相手にならないほどに。
「そうだな。じゃぁ、みんな頼むぞ」
(みんな頼もしくなったな。あの大軍勢を前にして全然一歩も引いていない)
オレは何か少し感慨深いものを感じ、そして信頼できる仲間がいる事を神様に感謝する。
「ばぅ~ばぅわぅ」
僕もいるから大船に乗ったつもりで大丈夫~と気持ちを伝えてくるパズ。
「わかってる。頼りにしているよ」
オレがそう答えると、尻尾をブンブンと振るのだった。
しかし、それを見たオレは、
(尻尾までハイスペックボディなんだな……)
と、本来ならゆっくりとしかふれないはずの
~
「じゃぁまずはオレが行くよ」
オレはスケルトンソルジャーを中心とした軍勢に向かって『とっておき』を披露する。
≪我は『
すると、いつも通りに足元に大きな光の文様が現れる。
≪その力は『風の刃』≫
『世界の秩序が乱された時、新緑の爽やかな風を以って導く秩序の風となれ!』
『我、暁の女神より授かりし残照の力をもって顕現を命じる!』
≪神具召喚:ヴァーユの
そう言葉を発するとオレの周りを風が舞い踊りはじめる。
そしてその爽やかな風は、今度はオレの右手を中心に集まって渦を巻き、まるで最初から存在していたかのようにオレの手には一振りの旗が握られていた。
長い一辺が1m50cmほどの三角の旗は、薄い緑をベースに新緑の葉をモチーフにした爽やかなデザインが施されていた。
そして旗が取り付けられた銀色に輝く旗竿は、2m程の長さで旗頭は装飾の施された槍になっていた。
「いきなり神旗でござるか……もう僕の出番こないんじゃ……」
メイがぼやく声が聞こえるが聞こえない事にして敵を見据える。
そして『第三の目』で全てのスケルトンソルジャーの位置や動きを捉えると、
「それじゃぁ、街の人を解放してもらおうか」
そう呟いて大きく八の字を描くように旗を振り始めるのだった。
~
「!? 何だこの気配は!?……ん?あいつは何をしてるんだ……」
スケルトンソルジャーの召喚がうまくいき、後ろで高みの見物を決め込んでいたその者は、突然現れた異様な気配に気付いて飛び起きる。
いや。普通の人間にとっては爽やかな気配としか感じなかっただろう。
しかし『闇の眷属』であるその者にとってはそういう訳にはいかなかった。
そして近寄ってきていた騎士団との間に一人の男が立って何かしているのに気が付いた。
『ぬ!ゼクス様が言っていた面白い奴が来るかもしれんって言うのは奴のことか!?』
しかし、その者は気付くのが遅すぎた。
そしてゼクスが言った言葉を軽視した事を後悔する事になるのだった。
~
オレが『ヴァーユの
その新緑の風はどんどん大きさを、速さを増していき、オレは必要な大きさに達したのを確認すると旗を大きく後ろに振り被る。
そして一瞬のタメの後、今度は全ての風を従えて旗を前に振り切るのだった。
ゴォォ!
規模の割には静かに撃ちだされたその新緑の風は、しかし無数の鋭利な刃となってスケルトンソルジャーの集団に襲いかかった。
ガガガガガッ!!!!
オレの【権能:見極めし者】でコントロールされた風の刃は一つもはずれることなくスケルトンソルジャーを破壊していく。
普通なら範囲攻撃として当たるに任せて使う技なのだが、オレの権能によって全ての攻撃が狙ったところに飛んでいくのだ。
この神具の力は反則的にオレの権能と相性が良かった。
そして新緑の風が吹き荒れた数秒後には「全ての」スケルトンソルジャーは破壊され消滅していたのだった。
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