【第76話:ゲルド皇国の戦い その3】
とりあえずパズに数枚の干し肉をあげて小腹を満たしてもらってから、寝ていたメイとキントキも起こして皆で夕食をとっていた。
「ところでユウト殿。ここはどの辺りでござるか?」
メイが周りをキョロキョロ見ながら尋ねてくる。
既に辺りは暗闇に包まれていてここがどの辺りなのかわからなかったようだ。
オレ達は昨日の夕方エルフの里を出発し、はじまりの森を抜けてからも夜通し走り続けている。
そして日が明けてからもパズはたいして疲れた様子も見せず、食事休憩以外は一日走り通していた。
メイとキントキは最初はあまりの速さに怖がって緊張していたのだが、そのうち慣れてくるとウトウトしてそのまま夢の中に。
なので既に東の国境線を超えてゲルド皇国に入っているのに気付いていなかった。
「メイちゃんとキントキ君が寝てる間に凄い進んで、もうゲルド皇国に入っちゃったのよ」
リリルが微笑みながら教えてあげると、メイはあっけにとられ、
「…え?族長ミドー殿は東の国境まで馬を飛ばして5日はかかるって…」
と驚いていた。
その後オレ達は少し団欒し、明日の作戦の話し合いも終わると、そのまま眠りにつくのだった。
~
夜中にパズの遠吠えで皆が目を覚ます。
「ばぅぅぅん!」
すると今度はキントキが
「がぉぉぉん!」
と同じように一吠え声をあげる。
オレとリリル、メイの三人はすぐに飛び起き、オレは
「パズ、どうした?」
と問いかけると、同時にすぐさま【権能:見極めし者】を起動する。
そして星の位置から夜明け前だと知ると、パズの流れ込んでくる気持ちを読み取って事態を把握。
「リリル、メイ。まだかなり遠いがパタ王国の騎士団と思われる集団がこちらに向かってきている」
と伝えるのだった。
~
大騎士シトロンは先ぶれの騎士が馬首をかえして戻ってくるのを遠くに確認すると、騎馬隊の速度を緩めるように指示を出す。
昨日ゲルト皇国への出兵が決定すると、シトロンはすぐさま馬を走らせ東の国境線上に展開していた第一騎士団と合流を果たす。
そして昨日のうちに部隊を編成しなおすと、騎馬隊だけを率いて先行したのだった。
パタ王国の東の国境線に展開していた部隊は『第一騎士団』『魔法兵団』の2部隊で、そのうち騎馬隊は『第一騎士団』120人中50人、『魔法兵団』50人中20人であった。
その全てを引き連れてきているので、現在は70騎で皇都ゲルディアに向けて疾走していた。
戻ってきた先ぶれの騎士は馬首をもう一度かえしてシトロンと並走しはじめると、
「シトロン様!何か怪しい光のようなものをこの先遠くに発見いたしました!」
と報告する。
「どのような光なのだ?それだけでは何もわからんぞ」
シトロンがそうこたえると、
「申し訳ありません!ここからは自分が感じた事になりますが、何か結界魔法のようなもので魔物ではなさそうではありました。いかがいたしましょう?」
と慌てて自分の所感を合わせて報告する。
「そうか。結界魔法なら闇の眷属から逃げてきた者かもしれんな。何か情報を持っているかも知れんしその結界に少し寄っていくぞ」
と言ってもう一度騎馬隊全体に指示をだすのだった。
~
「近づいてきたな…。とりあえずオレが結界の外に出て話を聞いてみるよ」
そう言って結界の光の膜を超えて外にでる。
すると、ちょうど少し遠くから一人の男が馬に乗って近づいてきて、
「これか?確かに結界魔法のようだが見た事がない種類のものになるな。そこのお前、お前たちは何者だ?闇の眷属から逃げてきたという感じでは無さそうだな」
と鋭い眼光で質問してくる。
シトロンが少し警戒態勢を取ったせいか、後ろに控えていた騎士と魔法兵団の何騎かが抜け出て近づいてくる。
オレはここで人同士争っても仕方がないと、
「騎士様。オレ達は『
と説明する。
そして自分たちは加護を持っている事も正直に伝えて反応を待つのだが、
シトロンと数人の魔法兵団の者が突然驚いて距離を取ると、
「っ!? お前!?本当は何者だ!」
と、こちらに向けて剣を抜き放ち、今にも襲い掛からんと戦闘態勢をとってくるのだった。
「ちょ!?ちょっと待ってください!オレは争うつもりはありませんよ!?」
オレは慌てて必死に訴えかけるのだが、
「貴様のその魔力はいったいなんだ!?このような恐ろしい魔力見た事ないぞ!!お前が報告にあった魔人とやらか!」
と言われ、パニックに陥った魔法兵団の一人が雷の魔法を放ってくる。
(…あ…しまった…うっかり≪
とエセ関西弁で内心後悔するが時すでに遅し、すっかり油断していたオレの顔面に雷の魔法が直撃する。
「うわ!?」
一瞬懐かしいTVのコントのようにチリチリになった頭に
「ばかもの!怪しい奴だがこいつの発動している結界は聖属性のものだ!闇の眷属にはあやつれん!」
と部下を叱責すると、すまなかったとオレに謝ってくる。
「…いえ…オレも魔力炉起動しっぱなしだったもので驚かせてしまって…」
と正直に伝える事にしたのだが、内心、
(この騎士隊長みたいな人、オレに向かって放たれた雷に追い付いて剣できっちゃったよ!?)
と驚愕していたのだった。
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