【第64話:呪いの鎖】

「じゃぁオレからいくよ!」


 オレはみんなにそう伝えると、魔力炉を起動する。


「うぁ~何度見てもユウトのそれは凄いわね…」


 魔力炉を起動した事で湧き上がる魔力に圧倒されるメアリ。

 そしてそれに賛同するようにメイが、


「ほんと凄いでござる!」


 と目をキラキラさせながら辺りの警戒にあたっていた。


≪我は暁の女神の使徒『残照ざんしょう優斗ユウト』この名において与えられし力を今 行使する≫


 祝詞をあげ始めると、光の文様が現れオレの足元に展開される。


澄清ちょうせい光波こうは


 文様がひと際大きな光を放ち、闇の軍勢に向けた右手から清き光の波が津波のように放たれる。

 そして権能の力により狙いたがわず闇の軍勢を飲み込んでいく。

 オーガの変異種を中心とした軍勢は気付いた時には光の津波に飲み込まれ、抵抗することもできずに次々飲み込まれていく。


「えぇ~~!?ちょ、ちょっとこれは凄すぎるでしょ!?」


 想像を超える規模で展開される聖なる力に思わず叫ぶメアリだったが、


「メアリさん!私たちの番ですよ!」


 とリリルに促され、慌てて精神を集中する。

 そして、


「もう!別に私が魔法撃つ必要なんてないんじゃないの!?」


 と愚痴りながらも魔法を次々と放っていく。

 メアリの魔法は基本の無詠唱で行使され、質より量とばかりに風の斬撃を次々と撃ち放っていく。


「おぉ。メアリ殿の魔法も凄いでござる!さすがでエルフでござる!」


 エルフの魔法に関する基本スペックは人間をかなり上回っているのだが、それでも加護もないのに昔のリリル並みに魔法を連射する姿にメイが思わず感心する。

 まぁ忘れがちだが、リリルも半分エルフなのだが…。

 そして次は私の番とばかりに今度はリリルも魔法の詠唱を開始する。


≪わが身は力。そのみなもとは火。けがれを知らぬ炎の槍よ。不浄を貫き焼き尽くせ!≫

純潔じゅんけつ炎槍えんそう!』


 目の前に炎の渦が展開されると、そこから次々と炎の槍が放たれていく。

 しかし…、


「きゃ!きゃぁぁ!ちょ、ちょっと待ってぇ!」


 と叫びながら放たれ続ける炎の槍。

 何度も使ってきた得意な魔法の一つであるのだが、その威力と規模が違った。


「な、何かセリミナ様の加護貰った時より更に凄くなってるんですけど~!?」


 と叫ぶリリルは少し半泣きだった。

 そしてメアリもその光景に圧倒され、


「す、凄い…わね…。ほんとに私の魔法いらないじゃない…」


 と愚痴をこぼすのだった。

 ~

 その時、オレは里にいるパズと話しながら、あるタイミングを計っていた。


(あと、5秒!3、2、1!今だ!)


 そう指示を出すとしばらくの沈黙の後、パズが成功した ばぅ! と伝えてきた。


(良し!なんとか呪いを解除できたか!)


『世界の理を壊す者』のエルフ達の腕には『呪いの鎖』と呼ばれる大掛かりな呪いをかけた呪具がつけられていた。

 この呪いはたった今殲滅した闇の軍勢と繋がっており、エルフ達を殺せばその魂を贄にして闇の軍勢が大幅に強化され、闇の軍勢が壊滅すればエルフ達を一つ上位の格の存在へと昇華させるという厄介なものだった。

 そのため、闇の軍勢の殲滅と呪具の破壊をほぼ同時に行う必要があり、タイミングを計っていたのだ。


 オレは作戦がうまくいったのをリリル達に伝えようと声を発する。


「成功したよ!これでもう大丈夫なはずだ!…って…あれ?どうしたの?」


 すると涙目のリリルがこっちを見て、


「ユウトさん!絶対に私の魔法に何かしたでしょ!」


 とご立腹の様子だった。


「あれ?…えっと…した…かな?」


 白状するオレに更にリリルが怒りだし、


「ほんとに怖かったんですからね!!」


 とポカポカと叩かれる。


「あ~…念には念を入れようと思って、リリルの魔法の威力があがってたくさん魔法撃てるように魔力パスを繋げておいたんだ」


 ハハハハハと笑ってごまかそうとするのだが、まだまだご機嫌斜めのご様子だった。


 魔力パスというのは魔力炉から細い魔力の糸のようなものを同じ加護持ちのリリルにつなげる事でオレの魔力をリリルに供給するという、ちょっと反則気味の技だった。

 ちなみにセリミナ様からもらった知識かくかくしかじかにあったので、ありがたく活用させて頂いたのだ。


「あぁ。ユウトの仕業だったのね…ユウトの仕業なら仕方ないわ…」


 と何か変な納得の仕方をしているメアリには、後で小一時間ほどちゃんと話をする必要がありそうだった。

 ~

 そしてそんな風にもう終わったとばかりに少し気を抜いていると、


「ユウト殿!何かおかしいでござる!」


 と辺りの警戒を頼んでいたメイとキントキが、ある方向を見つめながら叫ぶのだった。

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