【第63話:チワワとは…その4】
対峙するエルフの戦士たちと闇を纏った長老のビス。
「ほぅ…これは本当に驚いた。何故私が裏切ったと思ったのだ?」
とビスが聞き返し、エルフの戦士が答えようとする。
これから熾烈な戦いが巻き起ころうとしていた…はずだったのだが…、
「ばうわぅ!」
という声と共にビスの世界が白く包まれる。
「ぐがぁ~~!な!?なんだ!?何が起こった!?」
余裕しゃくしゃくで答えていたビスだったが、何かの鳴き声が聞こえたと思った時には全身ピクリとも動かなくなり、猛烈な寒さと共に視界が白く染まり、さすがに慌てふためく。
「ぐぅぉ!闇の力でも壊れんのか!?いったい何が起こっているのだ!?」
ビスは闇の力で自身を拘束している何かを壊そうと必死に力を込めるが、パズの作り出した氷には使徒の力が上乗せされておりびくともしなかった。
「な!?何故だ!?あのお方に授かったこの力がまったく通用しないはずなど!」
と、自身が万能の力と疑っていなかった闇の力が効かない事に更に驚く。
「…あの小さな魔物…チワワと言ったか…。あれには絶対逆らわないでおこう…」
そう呟く隊長の声が少し震えていたのは仕方なかった…。
己の命を懸けて食い止めようと思っていた闇の眷属の力をえたビスが、
ビスは自身の身に起きた事に理解が及ばず、
「な、なんなんだ!?今私はどうなってるんだ!」
と叫ぶ声は、ガチガチと震えて小さくなっていく。
~
隊長は、裏切者だとは言えさすがに状況の飲み込めない恐怖に混乱するビスを哀れに思い、状況ぐらいは教えてやるかと、
「ビス…哀れだな…。お前は今身の丈の2倍程の氷に覆われて口元だけ穴が…あ…説明してやっても耳塞がっていて聞こえないか」
と説明を途中でやめて「ははは…」とかわいた笑いを浮かべるのだった。
それを見ていた他のエルフの戦士が、
「隊長…。チワワって何なんですか…」
と疑問を口にするのだが、その答えを隊長は持ち合わせておらず、他からも次々にあがる裏切者の悲鳴に少し同情するのだった。
そう。この状況を作り出したパズはとっくにこの場を後にしており、ユウトからの誘導を受けて次々と他のエルフの裏切者を氷漬けにしていっていたのだった。
~
その後、オレ達の出発前に予め指示されていた通り、裏切ったエルフ達は里の中央広場に集められる。
まぁほっとくと凍死するからである…。
そして凍え死にそうになるとパズから回復魔法をかけられるという拷問のような仕打ちを受けたのはエルフ末代までの秘密とされるのだった…。
そしてチワワには逆らうなと言う裏の掟が出来たのだった。
~
「よし!全員氷漬けにして捉え終わったよ。怪我人の手当ても済んだし向こうはもう大丈夫だ」
オレは里に潜んでいた『世界の理を壊す者』の拘束が完了し、少し出た怪我人もパズの魔法で回復に向かっているのを確認すると『第三の目』の範囲をこの近辺に制限する。
(上手く行って良かったが、やっぱり範囲広げると脳が焼ききれそうになるな…)
オレは『第三の目』の力でここから里の中に潜む裏切者たちをパズに指示を送って次々と拘束していっていた。
結構な距離が離れていたので少し心配だったのだが、無事に終わって本当に良かった。
ただ、前にリリルを探した時ほどではないが、それでも頭が割れそうなほどの痛みでかなりきつかった。
すると勘の鋭いメアリが気付き、
「ユウト。大丈夫?顔色が少し悪いぞ?」
と心配してくる。
「大丈夫。大丈夫。それより捕らえた裏切者が自害とかすると不味いから、こっちをさっさと終わらせないと」
といって、作戦の第二段階に移行するのだった。
~
オレ達は敵の軍勢が集結しつつある場所に近づき、その様子がギリギリ確認できる位置まで移動していた。
敵はオーガを中心とした変異種の軍勢で、その数は既に1千を超えようとしていた。
その光景にメアリが少し怖気づき、
「ほ、本気なのか…。こっちはたった四人なんだぞ…」
と呟き、リリルも少し怯えた様子で聞いてくる。
「ユウトさん…。私たちだけで本当にこの敵を相手に出来るのでしょうか…」
しかし…、
「僕たち加護持ちとユウト殿がいれば大丈夫でござる!あと、四人と一匹でござる!」
とメイが相変わらずのテンションで少し暗い雰囲気を吹き飛ばす。
(こういう時はメイの明るさに助けられるな)
オレは心の中でメイに少し感謝をすると、
「大丈夫だ。きっと上手くいく。あとはタイミングだけだからな」
そう皆に伝える。
そしてオレは自分の頬を軽くパシッと叩いて気合いを入れると、
「さぁ、パズばかり活躍されてもセリミナ様に合わす顔がないからな。しっかり頑張りますか!リリルとメアリも同時に行くよ!」
と二人にも指示をだす。
そしてもう一度『第三の目』の範囲を広げていくと、魔力炉の起動と共に聖なる力を行使するのだった。
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