【第60話:作戦】

 自責の念から解放され、エリンの無事な姿に涙するメアリ。

 そして12年ぶりの再会を果たしたリリルとミイルさん。

 この二つの嬉しい知らせに、先ほどの悪い知らせに沈んでいた里が光を取り戻す。


 はじめのうちはぎこちなかったリリルとミイルさんも、リリルの12年間の話などをしているうちにかなり打ち解けていた。

 ミイルさんはまだ体は本調子ではなかったが徐々に普通に話せる程度には回復しており、オレもホッと胸を撫でおろす。

 ただ、途中からミイルさんの調子が良くなってくると、


「何か話を聞いていると何もかもユウト君のおかげね。良い人を見つけたわ」

「私が寝ている間にリリルも隅におけないわね~」

「さすが私の娘だけあって綺麗でしょ?ユウト君どう思う?」


 などと、しきりにオレ達をからかってくるのには閉口するのだった…。

 ~


「ユウト君。姉さんをそして娘を救ってくれて本当にありがとう」


 あらためて礼を言うミドーさんに、オレは


「リリルの為にもこの里に来ることは最初から決めていた事です。それよりそろそろ明日の奇襲についての作戦などを話し合いませんか?」


 と、明日のオレ達の奇襲攻撃について話し合いの場を持ちたい旨を伝える。


(本当はゆっくりと二人の再会を祝いたいんだけどな…)


 内心はオレも凄くお祝いをしたい気持ちなのだが、これからの闇の眷属との戦いに勝利しなければひと時だけの幸せに終わってしまう。

 ミドーさんも姉と娘が回復したので本当は喜びに浸っていたいのだろうけど、


「それもそうだ。私も浮かれてばかりいるわけにもいかないな。それで何か考えはあるのか?」


 と答えて、族長という立場があるからと表情を引き締める。

 オレ達は再開を果たしたリリルとメアリにはもう少し残ってもらい、元の集会所に先に移動する。

 そして案内役のエルフを付けてもらってこちらから闇の眷属の軍勢に奇襲をしけかけたいこと、街を中心に『世界の理を壊す者』達を迎え撃つ算段をミドーさんやエルフの長老たちに話すのだった。

 ~


「どうでしょうか?」


 オレは一通りの説明が終わり、ミドーさんと長老たちに意見を聞いていた。

 ハッキリ言っていくら状況を把握する権能があっても、こんな作戦立てるのは初めてだし素人なので不安だった。


「悪くはないが、最初二手に分かれて奇襲すると言っていたのに案内役の者は本当に付けなくて良いのか?」


 ミドーさんにそう聞かれ、オレは少し不安に思いつつも


「はい。ちょっと思うところがありまして出来れば奇襲は一つに纏まって行いたいと思います」


 と答える。

 最初はエルフの案内役をつけてもらえるなら先に思いついた二手に分かれて奇襲をかける作戦を伝えたのだが、話しているうちに考えを改め、案内役を断って纏まって行動する事に作戦を変更した。

 これはオレの権能からくる情報を元に思う事が出来たのでそう変更したのだが、まぁ作戦事態にはあまり大きな変更はなかった。

 いくつか指摘をしてもらい作戦の微調整を行うが、概ねオレの意見が通る形で作戦会議を終える。

 ちなみにエルフの里はエルフたち自身で守りを固める事になった。


 その後病室のある建物にリリル達を迎えに戻ると、一組の親子と姉妹は惜しみつつもひと時の別れを済ませ、明日に備えて早めに眠りにつくのだった。


 ~

 翌早朝、オレ達は馬車を預かってもらい、いつものメンバーとメアリの四人と二匹で里を出る。

 案内役のエルフはつけてもらっていない。

 正確にいうとメアリがそうなのだが、彼女は自分の事は案内役とは思っておらず、何故かすっかりパーティーメンバーの一員のつもりのようだった。


(うちのパーティーはセリミナ様の加護とかのせいで規格外だから、一緒にいても苦労しかないと思うんだけどなぁ…)


 などと思いつつも、それよりも気になる方を振り向く。

 パズとメイはキントキの上に乗り、まるで遠足にでも出かけるかのようにご機嫌で何故か鼻歌交じりだ…。


「メイ、それにパズにキントキも。今日の夜には闇の軍勢にたった6人で奇襲をかけるんだぞ?もう少し緊張感ってものはないのか…」


 と思わずオレが注意すると、


「「「無いでござる!(ばう!)(がう!)」」」


 と、即答する一人と二匹…。

 その様子を見て、


「あんな凄い力を持ってるユウトも3人にかかると形無しだね」


 とメアリが笑い出し、結局和やかな雰囲気のままに進むのだった…。

 ~

 出発してから森の中を進むこと3時間。

 オレは立ち止まって皆の方を振り向くと、


「…そろそろ良いか…。みんな!ちょっとここら辺で一度休憩をしよう。…本当の作戦を今から説明する!」


 とみんなに伝えるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る