【第59話:目覚め】

 リリルとリリルのお母さんのミイルさん、メアリとメアリの妹であるエリンとの静かな対面が終わり、オレ達は二人のベッドを取り囲んでいた。

 今からオレの聖なる力の一つを行使するつもりなのだが、同じ部屋ではあるがベッドが離れていたので移動させて並べ終わったところだった。


「それじゃぁユウト君。お願いできるかね」


 とミドーさんが尋ねてくる。


「ユウトさん。よろしくお願いします」


 と言ってリリルが頭をさげる。


「ユウト。あなたには助けられてばかりだけど、私からもお願い」


 とメアリが真剣な顔で頼んでくる。

 メイは…、


「ユウト殿なら余裕でござるよ!」


 といつもの調子だった…。

 ~


「パズ!」


 パズを呼ぶと足元からベッドの上に飛び乗り、寝ている二人の間で


「ばぅわぅ」


 いつでもいいよと伝えてくる。

 パズには今から使う聖なる力とは別で範囲治癒魔法をかけてもらうつもりだ。


「それじゃぁ、今から始めます!今から全力を出しますので少し離れて下さい。あと、何が起こっても信じてその場で待っていてください」


 と、他の皆を下がらせ注意を促しておく。

 今から使おうと思っている聖なる力は使うのが初めてだし、全力で行うつもりなので魔力にあてられて気分を悪くされても困る。


(失敗できないよな…みんなの為にも絶対に救ってみせる!)


 そう心で決意をあらたにすると、まずは魔力炉を起動する。

 すると、


「なに!?これは魔力炉か!?」


 とすぐに見抜いたミドーさんが驚きの声をあげる。

 しかし、更にパズまで魔力炉を起動すると、さすがに予想外だったらしく言葉を失う。


「ばぅぅぅぅん!」


 そしてパズは魔力炉を起動すると同時に範囲治癒魔法を発動する。


「えぇ!?範囲治癒魔法!?しかもこの威力って尋常じゃないわよ!?」


 と今度は娘のメアリが驚くのだった。

 ~

 パズの発動した強力な範囲治癒魔法により、二人は穏やかな表情になり顔色も良くなっていく。


(次はオレの番だな)


 オレは【権能:見極めし者】は既に発動していたが、そこから【第三の目】を発動する。


「ぅく!」


 頭の中に一気に流れ込んでくる情報と、加速する思考に脳が処理しきれずに悲鳴をあげる。

 そのまま二人の体の状態に意識を向けると、色々な事がわかった。


 二人の胸には普通の眼では確認できない闇のくさびのようなものが打ち込まれていた。

 その楔からは闇の力が体に流れ込み、二人の魔力の流れを阻害し魂を呪縛している。

 もし、誰かがこの楔に気付いて無理に引き抜いていたら、魂が傷つき二度と意識は戻らなくなっていただろう。


(無理な治療をされていなくて良かった…)


 オレは内心少し安堵するが、結局自分が失敗しては意味がないと更に集中を高めていく。

 そして…聖なる力を行使するため、祝詞をあげる。


≪我は暁の女神の使徒『残照ざんしょう優斗ユウト』この名において与えられし力を今行使する≫


 オレを中心とした眩い光の紋章が現れ病室一杯に広がる。


白日はくじつ息吹いぶき


 光の文様は二人の体に吸い込まれていき、楔も呪いもすべてを白き光で包み込み、跡形もなく消し去っていく。

 そしてゆっくりと光が収束した後に見えたのは、整った寝息をたてていた二人がゆっくりと目をあけていく姿だった。


 ~


「す、凄い…。まるで神の奇跡を見ているようだ…」


 ミドーさんが感嘆の声をあげると、我に返ったメアリが


「エリン!」


 と言って駆け寄り妹を抱きしめる。


「お、ねえちゃん?」


 まだ目覚めきって間もないために状況が把握できずに聞き返すエリン。

 そして、ミイルさんの元にはミドーさんとリリルがゆっくり歩いていき、


「おはよう。姉さん。気分はどう?」


 とミドーさんが優しく語り掛ける。

 パズの魔法とオレの聖なる力で身体的には回復していたはずだが、12年の眠りから覚めたミイルさんは声がかすれてうまく話せないようだった。


「ミイルさん、無理しないでください。12年間も眠っていたのですから」


 とオレが話しかけ、少し状況を説明する。

 するとようやく自分の状況が理解できたミイルさんが、


「…あ、りが、と、ぅ…」


 と少し涙ぐみながら感謝の気持ちを伝えてくる。

 そしてミドーさんが、


「姉さん…この子があなたの娘のリリルだよ」


 と話しながらリリルの背中を軽く押して近づける。

 リリルは少し困惑しつつも母親が無事に目覚めた事に喜び、そして


「…あ、あの…。リリルです…。お、おかあさん」


 とぎこちなく呼びかける。

 すると、ミイルさんは少し目を見開き、


「!?…あ…ぁ…」


 と感極まってリリルに向かって手を伸ばし、その手をリリルが握り締め、


「お、お母さん!」


 と今度ははっきりと呼びかけて、二人は涙を流すのだった。


 こうして12年越しの親子の再会は果たされ、二人の時間はもう一度動き出しはじめた。

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