【第49話:正面突破】

 オレは馬車ソリの荷台からすぐに飛び降りると、


「オレとパズで道を切り開く!メイとキントキはリリルとメアリを護衛しながら門まで前進!リリルとメアリは無詠唱魔法で遠隔攻撃!」


 と叫んで指示を出す。


「わかりました!」

「わかったでござる!」

「がうぅ!」


 と、素早く返事をして動き出す二人と一匹。

 メアリは展開についていけずに、


「ぇ?え?わ、わかったわ!」


 と少し遅れて動き出したのだった。

 ~

 オレはまずは門までの街道沿いにいる邪魔な魔物に向かって右手を突き出し祝詞をあげる。


≪我は『残照ざんしょう優斗ユウト』の名において力を行使する≫

澄清ちょうせい光波こうは


 右手から溢れ出た光が大きな波となって100匹を超える魔物を飲み込む。

 闇の眷属となった魔物は光属性が弱点と化すので、効果覿面こうかてきめんだった。

 その場にいたはずの霧の魔物はすべて霧散し、変異種も焼け焦げた死体を何十体とさらしていく。


 門までの道の大半の魔物を殲滅したのだが、それでもその左右からすぐさま道を塞ぐように別の魔物が立ちふさがる。

 これは予想の範囲内だったので、オレは二本の名も無きスティックを抜いて構えると、すぐさま次の聖なる力を行使する。


余光よこう武威ぶい


 すると光の文様が現れると同時にオレに吸い込まれていき、薄っすらと全身を発光させる。

 そしてその清き光は、二本のスティックにも纏わりつき光り輝く神器と化す。

 あれから聖なる力の使い方を色々試してわかったのだが、短い時間で次々力の行使を行う場合は、ただその力の名を囁くだけで行使する事が出来た。


 しかし、その必要は無いとばかりにパズがオレの横を風のように駆け抜けていく。


「ばうぅぅ!」


 一吠えで体の周りに小さな吹雪の竜巻を纏うと、道を塞ぐ魔物を次から次へと切り刻んでいく。


「名誉挽回とかしても後でしっかり説教だからな!」


 と、言っておくと少し尻尾がさがるパズなのだった。

 ~

 その光景を見て興奮したメイとキントキが、早く行こうとみんなを促す。


「やっぱりユウト殿もパズ殿も凄いでござる!ぼ、僕たちも続くでござるよ!」


 と、動き出す。

 キントキはパズのかわりに馬車ソリを牽きはじめたので、リリルとメアリは荷台から無詠唱の魔法で攻撃する。

 飛び交う光と風の魔法の砲撃に、遠くのコボルトの変異種が次々討ち取られていく。


「うぅ!僕たちも何か遠隔攻撃が欲しいでござる!」


 と、悔しそうにしながらも、たまにその攻撃を抜けて接近してくる魔物をきっちり倒すメイだった。


 ~


 この光景を目にして静まり返る人びとがいた。

 さっきまで死を覚悟していた街の衛兵と領主の騎士団、街にいた冒険者やエルフたちである。


「人なのか…。それにあの小さな魔物はなんだ…」

「何と言う強さだ。これが噂にきくプラチナランクの冒険者か!?」

「何だろう…。俺は死んだのか?夢でも見ているのか?」


 その反応は様々だったが、そのパーティーと思われる一団が門のそばまでやってきて、


「すみませーーん!少しだけ門を開けてもらえませんかー?中に魔物は入れないようにしますんでー!」


 と叫んでくると、一気に大歓声に変わる。


「「「「「うぅぅおぉぉーーー!!」」」」」


 次々と攻撃をしかけてくる魔物の軍勢に休む事もできず、皆もう体力も魔力も限界だった。

 これは援軍が来るまで持たないだろうと誰もが諦めかけていたのだ。

 それが突然魔物の軍勢の後ろから巨大な光の波が現れたかと思うと、5分の1ほどの魔物を一瞬で消し去った。

 そして切り込んできた一人と一匹が100匹ほどの魔物を蹴散らしすと、あっという間に門の前までやってきたのだ。


「はっ!? い、急いで門を開けろー!!弓と魔法でサポートするんだ!」


 騎士団の団長と思われる男が大声で指示をだすと、一斉に守りについていた数十人が動き出したのだった。

 ~

 オレは門が開き始めたのを確認すると、


「キントキ!ぶつからない様に気を付けて門から街に入ってくれ!」


 と指示をする。

 キントキは、


「がぅ!」


 と返事をしてゆっくり進みだす。

 キントキも加護のおかげで人の言葉もだいぶん理解できるようになっていた。


 そしてそのままリリル、メイ、キントキ、メアリが街の中に入っていくのを確認すると、オレは連続で光の斬撃を放ち付近一帯の魔物を一掃する。

 パズも一旦小さな吹雪の竜巻を解除してオレの足元まで戻ってきており、


「ばぅ?」


 残りの魔物はいいの?と聞いてくる。


「とりあえず街に入って状況を確認しよう」


 とオレが言うとパズは頭の上に飛び乗り、二人で歩いて門の中に入っていくのだった。


 ~


 その光景を別の場所から眺めているいくつかの影があった。


「何なのだ…。あれは何なのだ!?もう半日もすれば攻め落とせたはずが!」


 と激高する。

 その怒る影に対して別の影も


「信じられん…。こんな辺境の地にプラチナランクの冒険者が来ていたというのか…。運が悪いのにも程があるぞ!」


 と、同じく怒りをぶちまける。

 しかし、そこにひときわ大きな影が現れる。

 確かに先ほどまでは何もなかった空間なのだが、突然そこにその影は現れた。

 そしてかしこまる他の影たち。


≪ほう。加護持ちのパーティーとは珍しいな。お前らの力の肩慣らしにはちょうど良いではないか≫


 そうほくそ笑むのだった。

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