【閑話:パズとキントキ】

 パズは自分を慕っているキントキのいる厩舎に遊びに来ていた。

 ユウトが言うには、あと何日かはこの街でイライとかいうのを受けたりして過ごすらしい。

 まだ早朝なのもあるが、パーティーのみんなは昨日酒場で酷い目にあってたのでたぶんまだ起きてこないはずだ。

 そこでパズは、


「ばうばぅう!」


 キントキに オレ達もイライとかいうのを受けに行こう!と誘う。


「ガゥ?」


 キントキも加護のおかげで少し頭は良くなっていたが、まだまだ勉強中だったのでイライが何かわからなかった。

 イライと言うものが冒険者ギルドとかいう建物で受けれるというのを知っていたパズが、キントキの背中の上に飛び乗り、


「わぅーん!」


 と一吠え、ギルドに向けてしゅっぱーつ!と叫ぶ。

 するとキントキはパズに憧れているので、とりあえず一緒になって


「がぉぅーー!」


 と叫びながら厩舎を抜け出すのだった。

 ~

 通りを歩く凸凹デコボココンビの二匹は、自分たちが注目の的になっているのも気付かず、鼻歌まじりにご機嫌に歩いていた。


「「ばーぅばう♪(がーぅがう♪)」」


 二匹は赤いスカーフ…ではなく従魔の証をなびかせながら往来を闊歩する。


「おい…。スターベアとなんか小さな従魔が歩いてるぞ…」

「何だあれ…?従魔みたいだけど…大丈夫なんだろうな…」

「うわぁ!魔物!? …って従魔かよ!」

「きゃ~!あの上に乗ってる子かわいい!」


 など、ちょっとした騒ぎになっていた。

 しかし、二匹は気にした様子もなく往来のど真ん中を歩いてギルドに向かうのだった。

 ~

 キントキは、


「がうぅ!」


 着きましたよ~!とパズに伝えると、そのままギルドの厩舎に向かう。


「ばぅわぅぅ」


 わかった。僕も厩舎に行ってみたい。だそうである。

 パズは、宿の厩舎は何度かキントキに会いに行った事があったが、ギルドではいつもユウトの頭の上にいたので行った事がなかった。

 しかし、このパズの気まぐれがこの後ちょっとした騒動を巻き起こす事になるのだった。

 ~

 裏の厩舎に着くとキントキはいつも待っているお気に入りの定位置に移動しようとする。

 しかし、よく見るとそこには3匹のグレイハウンドが既に座っていたのだった。

 キントキは仕方がないと他の場所に移動しようとしたのだが、グレイハウンドの一匹がちょっかいを出してくる。


「グゥルゥルル」


 そして3匹とも立ち上がると、キントキの周りを囲んでグルグルと回りだしたのだ。


「ウゥゥーウォン!!」


 そして、吠えて威嚇を始める。

 キントキは基本おとなしい性格をしているのだが、主人のメイと憧れているパズが絡むと話が別だった。


「がうぅ!」


 と一吠えして一瞬でグレイハウンドの後ろに回り込んだかと思うと、お尻を叩いて軽く吹き飛ばす。

 そして、それを見てすぐ警戒態勢に入った残りの二匹にも同じ一撃をお見舞いする。


「「「キャィン!」」」


 と叫んでお尻を痛がるグレイハウンド3匹はあっけなく戦意喪失してしまうのだった。

 ただでさえ従魔としては上位ランクのスターベアが加護を受けたのだから当たり前の結果であった。

 そしてパズに無礼な態度をとった3匹にお仕置きを終えて満足そうにしていたキントキだが、その時一人の人間が厩舎に怒鳴りこんできた。


「くそっ!何やってやがる!!お前ら3匹もいて何負けてんだ!!」


 と言って、グレイハウンドを足蹴あしげにする。


「「「ギャン!!」」」


 その男は3匹のグレイハウンドの主人であるのだが、その態度は従魔使いにあるまじき行為だった。

 しかもこの男、自分の従魔であるグレイハウンドが他の従魔に絡むのを最初から見ていたにもかかわらず、面白がって止めなかった。

 ところが他の従魔がいじめられるのを面白がって見物しようと思っていたら、自分の従魔が軽くひねられたので面白くなかったのだ。


 しかし、パズは男にはまったく興味が無いようで一瞥しただけで ふん とそっぽを向いてしまう。

 その態度に更に腹を立てたその男は、あろうことか腰に下げていた長剣を引き抜いてしまう。

 そして、


「主人がいないのは運が悪かったな。ちょっと痛い目にあわせてやる!」


 そう言ってキントキに切りかかってきたのだ。

 男はブロンズランクの従魔使いであったが、剣術もそれなりのレベルに達しており、自分ではシルバーランクにも近いと思う程度の自信があった。

 しかし、この世界の冒険者にしては素行が悪く、テリトンの街では既にパーティーを組んでくれる者がいない状態になっており、先ほども依頼を持ちかけたパーティーに断られてイライラしていたのだった。


 キントキが、メイに余程の事がない限り人に危害を加えてはいけないと教えられていなければ倒すのは簡単だっただろう。

 それか、ここが自由に動ける開けた場所ならば手加減しても男はキントキの敵ではなかった。

 だが、キントキは狭い厩舎の中で反撃せずにその剣戟を受け流していた為、少しずつ腕に傷を負っていってしまう。

 しかし次の瞬間、キントキの腕の傷が治ったかと思うと、


「はんっ!人間様の恐ろしさを思い知らせてや…「ばぅ」…ひぎゃぁー!」


 キントキを見下し罵ろうとしていたその男の顔は、丸い氷に覆われていたのだった。

 息が出来るように覆ったので氷は鼻から上だけだったのだが、パズの作り出した氷は普通の氷よりもずっと冷たく、男はそれから数日間は霜焼けの痛みに苦しむ事になるだろう。

 それでも懲りずに今度はパズに向かって剣を振り下ろそうとするのだが、突然現れた回転する氷の刃に男の剣は根元から綺麗に断ち切られていた。

 そして折られた刃がクルクルと回転しながら飛んでいき、


 サクッ!!


 と、男の頭(こおり部分)に突き刺さった。


「ぎゃーー!?」


 男は絶叫し、刃の刺さった氷を頭につけたまま走り去るのだった…。


 後に酒場でその男が「従魔怖い…従魔怖い…」と呟きながら酒を飲んでいたとかいないとか。

 そして男は3匹のグレイハウンドにも(怖いので)きつく当たらなくなり、結果的に仲良く冒険者を続ける事ができたそうな。

 ~

 その後パズとキントキは、ユウトとメイが目覚めたのを察知し、イライの事などすっかり忘れてそそくさと宿の厩舎に戻るのだった。

 鼻歌交じりで…。


「「ばーぅばう♪(がーぅがう♪)」」


 ~


 厩舎で起こったこの騒動はその場にいた従魔達のみぞ知る。

 そして厩舎にいる従魔たちの上にパズが君臨する事になるのだが、それはまた別のお話。

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