【第30話:陰謀】

 冒険者ギルドの中に入ると、まずは受付カウンターに向かう。

 しかし、その中にはあの受付嬢「ドリス」の姿はなかった。

 それでも何か手がかりは無いかと探りはじめる。

 セリミナ様に頂いた力【権能:見極めし者】を使って。

 すると、すぐさま何か違和感を感じ異常を発見する。

 以前ドリスが立っていたカウンターの奥あたりに視線を向けると、視界の隅に非常に薄い黒いもやのようなものが見えた。


(これは、、オレを殺した奴やこっちの変異種が纏っていた闇と同じものだ…やはりこのギルドには何かある)


 冒険者ギルドにあの闇の残滓ざんしのようなものがある。

 この状況にあきらかに何かが起こっていると確信する。

 そしてギルド職員の所、今日オレ達の依頼を担当してくれた受付のおじさんの所に向かう。


「すみません。ちょっとお尋ねしたいのですが良いですか?」


 すると、机で何かの事務作業をしていたおじさんが、気づいてこちらを振り向きやってきてくれる。

 カウンターを挟んだ所まで来ると立ち止まり、何でしょうかと尋ねてくるのだが…。

 その頭に薄っすらとだが纏わりつく闇の存在に気付く。


「なっ!?」


 驚くオレをよそにおじさんは、


「あれ?ユウトさんでしたか。どうされましたか?何か先ほどの手続きに不備などありましたでしょうか?」


 と、何事もなく普通に話しかけてくる。


(気付いてない!?そうか…何となくわかってきたぞ…)

「いえ。今日の依頼の件ではなくて、オレの仲間のリリルという女の子の冒険者を見ませんでしたか?今日の昼ごろに来てたはずなんですがご存じないでしょうか?」


 そう言ってリリルの特徴や着ていた服装、装備を伝えると、


「あぁ~。あの綺麗な女の子ね。確かに昼頃に来ていたはずですが、、おかしいな見たはずなのにうまく思い出せない…ぅうぅぅ…」


 と、急に頭を押さえて苦しみだす。


「大丈夫ですか!?思い出せないならいいんです!無理に思い出さなそうとしないで大丈夫ですから!」


 と、あわてて思い出さなくても大丈夫だと止める。

 すると、すぐに症状はおさまったようで、苦しかった表情は元に戻っていく。


「…あれ?申し訳ないです。なんか急に頭が締め付けらるような痛みが走って…」


 おじさんは、なんだったんだろう?と首をかしげている。


(これは明らかに何かされているな…。この分だときっと他の職員も何かされていそうだ…)


 おじさんには悪いが反応が何か変わるのか、ドリスの事、キラーアントの変異種の事をこのまま確認しておこう。

 そう。オレは変異種も何かつながりがあるような気がしたので、順に確認してみる事にする。


「それじゃぁ別の事を聞かせてください。ここの職員にドリスって受付嬢はいますか?20歳ぐらいの褐色の肌の女性です」


 すると、今度は完全に記憶に残っていないようで、そんな職員はいませんよ?と痛みを訴える事もなく教えてくれる。

 そして変異種についても同じ反応だった。


(おかしい…。さっきは苦しみだしたのに違いは何だ)


 その後、いくつか質問を繰り返し、おじさんの反応を伺うという事を繰り返した。

 ~


「いろいろ質問に答えて頂いてありがとうございます」

「いいえ。お役にたてなくてすみませんね。リリルさん見つかると良いですね」


 そう言って一緒に心配そうにしてくれるおじさんにお礼を言い、オレは受付から離れるのだった。

 ~

 そして、さっきの質問の反応で理解する。

 見極めし者がこういう事だと教えてくれたのだ。


(記憶の消去と改ざん…)


 オレの知識かくかくしかじかの中にあったのだが、闇の眷属が使ういにしえの魔法の中には記憶の改ざんや消去を行う事ができるものが存在していた。

 つまりあの受付嬢は闇の眷属と言われている者か、それにつらなるものだろう。

 そして恐らくその闇の眷属の魔法を使って記憶を改ざんし、ギルド職員の受付嬢になりすました。

 その後、何らかの目的を達成したドリスは、自分に関する記憶を削除して姿をくらましたのだろう。

 この魔法は、ある程度知ってしまっている者の記憶を消したり改ざんしたりしようと思ってもほぼ失敗する。

 しかし、逆に自分の事をほとんど知らない相手であればほぼ成功するようだった。

 自分を知らない相手であれば印象やイメージが確立されておらず、真っ白なキャンバスに絵を描くように自由に記憶を改ざんしたり消去したりできるのだろう。

 しかし、何度かこの街に来たことがあるリリルは既に複数の職員に知られており、職員の記憶を完全に消したり改ざんしたりする事ができなかった。

 だから中途半端に残るリリルの記憶を引き出してしまい、あのように苦しみだしたのだろう。


(しかしなぜリリルを騙し、狙う必要があった?あと、この職員の頭に薄く纏わりついている闇を何とかしないと…)


 リリルみたいにあの光魔法が使えればと、そう考えていたのだが、、


(まさか、、リリルが狙われたのは光魔法が使えるからとか?そうか。それなら可能性はある!しかし、ジャネラルの変異種とかもあいつが用意したのだったとしたら?)


 光魔法の使い手はかなり少ない。

 しかもリリルのレベルで光魔法を使いこなせる者となると本当に少ないらしい。


(あの闇には光属性魔法が効くようだし、何かのたくらみを邪魔されない為だとしたら辻褄も合う…)


 そうなると捕らえるだけでなく殺される可能性も…そう考えると胸が苦しくなり気持ちが焦る。


(大丈夫だ!リリルはきっと生きている。感じるんだ!…でも、もう時間が無い…。もっと、もっとだ…もっと何かヒントを、、真相を見極めるんだ!!そして絶対にリリルを守るんだ!)


 集中力がどんどん高まっていく。

 そして意識もしていなかったのに魔力炉が自然に稼働する。

 膨大な魔力の渦が発生して激しさを増していく中、逆に頭の中は透き通るようにクリアーになっていき、全ての思考が研ぎ澄まされていく。


 そして・・・。


 思考が加速していく。

 その思考加速はとどまるところを知らず、時を置き去りにする。

 まるで周りの全てがスローモーションのように感じる。


 そして…見極める者の本当の力。


【第三の目】が開くのだった。

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