【第29話:失踪】

 その日オレ達のパーティーは、キラーアントジェネラルにこそ遭遇しなかったもののソルジャーを含む大量のキラーアント討伐に成功し、依頼を見事達成していた。

 そして二人と二匹で気分よく宿屋に向かう。


「やっぱり今日もユウト殿とパズ殿は凄かったでござる。僕とキントキも精進しないといけないでござる」


 と、メイが反省するのだが、


「いやいや。その年でメイとキントキのコンビニ叶うやつ絶対いないと思うよ」


 とフォローする。いや、フォローと言うかこれは事実その通りなのではないかと思う。

 何せ10歳でキラーアントソルジャーをソロで倒してしまう実力なのだ。

 そしてスターベアのキントキも単独でソルジャーを倒せるので、そこら辺のブロンズ冒険者より遥かに強い。


「そんな事はないでござる。まだまだ精進しないとでござる。しかし、今日はリリル殿がいなかったので寂しかったでござるな」


 と、言うのでオレはあまり深く考えずに、


「そうだな~」


 とリリルの笑顔を思い出しながら答えると、何故か嬉しそうにニヤニヤしながら見つめてくるメイ。


「な、なんだよメイ?」

「いや~。僕はまだそういう気持ちはわからないでござるが、ユウト殿とリリル殿はお似合いだと思うでござるよ」


 などと言ってきた。

 慌てたオレはそこから上手く切り返しできなくて、しばらく10歳の女の子にいいようにからかわれるのであった…。


(オレ、、元々24歳なのに何やってるんだか…)


 と、少し落ち込むのであった。

 ~

 そしてそんな他愛もない会話を楽しみながら宿に戻ってくると、宿の前で何だかソワソワとしているオズバンさんを見つける。


「オズバンさ~ん。そんな所で何してるんですか?」


 少し離れたところからそう声をかけると、オレ達に気付き慌てて走り寄ってくる。


「ユウト!メイ!リリルは!?リリルは一緒じゃないのか!?」


 と開口一番聞いてくる。


「え?リリルがどうかしたんですか?」

 まだ個別依頼に時間がかかってるんだろうか?そう思って聞いてみたのだが、オズバンさんから出た言葉に耳を疑う。


「くそ!やっぱり一緒じゃないのか!個別依頼なんて出てなかったんだよ!」


(え?どういう事…)


「ど、どういう事ですか?確かにドリスさんに個別依頼で呼ばれているって…」


 あの受付のお姉さんを思い出しながら聞いてみると、


「それが職員にドリスって受付嬢に取り次いでくれって言ったら、そんな受付嬢はいないって言うんだ!もう何がどうなってるのかさっぱりわかんねぇ」


 と、さらに驚きの言葉が飛び出してくる。


「な!?そんな事あるわけがないじゃないですか!?オレ達ちゃんとその受付嬢から依頼を斡旋されて達成したことでアイアンランクになったんですよ!」


 そしてそうだよな!と、メイに同意を求める。


「そうでござる!そんなおかしな話ないでござる」


 と同意してくれたのだが、だからと言って何か物事が解決するわけでもなかった。

 ~

 一旦宿の部屋に集まったオレ達は色々話し合ってみたのだが何もわからないままだった。


「いったい、、いったいどうすればいいんだ!」


 オズバンさんもどうしたら良いのかわからず、苛立ち、苦悶の表情を浮かべている。


「オズバン君。君が一番辛いのはわかるが落ち着いて。まずは一度ユウト君たちとギルドに行って、その受付嬢と実際に会った事のある二人にもう一度詳しく話を聞いてもらってはどうだね?」


 バッカムさんはオズバンさんを宥めると、オレ達にギルドで一度情報収集をしてもらってはと提案してくる。


「あ!?そうだ!そうします!パズ!メイ!行こう!!でもオズバンさんは何かあった時の為にここで待っていてい下さい!」


 そういうとパズを抱え、メイの手を引いて駆け出したのだった。


(オレには権能があるじゃないか!?なぜもっと早く気付かなかったんだ!)


 ~


「ちょ!?ユウト!って、もう行っちまった…」


 と、あっけに取られるのだが、バッカムさんに


「オズバン君。ユウト君は私が今まで出会った中でもトップレベルの実力を持った冒険者です。しかも彼は真っすぐな瞳をしている良い子だ。今は彼に任せて我々は何か動きがあった時に対応できるようにここで待っていましょう」


 とさとされ、ジッと耐えて信じて待つ事にするのだった。


「頼むぞ…ユウト…」


 ~

 宿の外に出るとメイに先に行くから後から来てと伝え、魔力を全身に纏い、パズを連れてギルドに向かって全力で疾駆する。


 そう。今までに出したことのない全力で疾駆する。


 景色が後ろに吹き飛んでいく。

 すれ違う人が驚き振り返るが、もうそこにはオレの姿はない。

 普通の冒険者なら魔力を纏って全力で走っても10分以上かかる距離を3分ほどで駆け抜ける。


 そしてギルドの前に到着した時、あれほどのスピードで駆け抜けたにもかかわらず、オレは息一つ乱れていなかった。


「よし!パズも周りの気配とか探っておいてくれ。怪しい気配などあれば逐一報告して欲しい」


 と、パズに警戒と探査を頼む。


「ばぅ!」


 と一吠えすると、まかせて!と力強い気持ちを伝えてくる。


(本当に頼りになる相棒だな)


 そして今度はオレの番だ。


【権能:見極めし者】


 あらゆる情報を見逃すまいと集中力を更に高めていく。

 何が起こったのか?

 何に巻き込まれたのか?

 誰が仕組んだのか?

 全てを見極めリリルを見つけ救い出す為、冒険者ギルドの門をくぐるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る