追憶

 窓枠と人の形の影が、床の上にうつろに落とされている。君と君の相棒を包みこむのは、茜いろの光。

 この部屋は四階の突き当たりにあって、ベランダはない。窓からは校門や、それに続く煉瓦の道、駐車場、およびその先にひろがっている街の風景までが直接見下ろされる。空を見れば、ちりちりと焦げ目のついたこまかな雲がゆったりと奥へ移動している最中で、丘の上から睨みつけてくる斜陽は、肉眼での正視にも耐えた。君は遠くの電線や地上波のアンテナに琥珀いろのうるおいが与えられているのを見、またそのいずれのうちにも、同じ髪のつややかさが宿っているのを見る。

 ある時分まで、君の目には雲や太陽が停止しているように見えていた。見ている最中は同じところに留まりつづけ、そしてすこし目を離した隙に、驚くほど遠くまで行ってしまっていたのであるが、ある年齢をさかいに、それらが絶えず動きつづけていることを学んだ。要するに君は雲のさまざまな形をとらえようとして目移りしていたのだったが、そうしているうちはその運動をとらえることができない。だがじっと目を据えてみれば、ひとつの対象だけでなく、天球の全体が厳かに回転していることを感じ取られるようになる。ところがそれからというもの、その速度は年々上昇していく一方で、とうとうこれが速すぎるとまで感じられるようになったとき、はじめて君は、どうやら停止しているのは自分らしいと気づくのだ。それが君の中でのある優位性が切り替わった瞬間であり、思想の成長であると同時に、肉体の退転であったことだろう。

 目はやがて手許の瓶に戻されて、いろいろなことを思っていく。というよりも、死のような冷気に包まれた硝子と、それを包みこむ大きすぎる手、そして小さすぎるカメレオン、これらを全体的に見つめているうちに、君の存在を他の事物から区別する境界というべきものがあやふやになってきて、同時に君の精神も君の管轄から離れていくのだった。――過去、現在、未来。形骸化した生徒会、マンネリ化したクラス、頽廃した演劇部、崩壊した家族。熱帯の地理、その植生、動物の生態、人びとの生活、歴史上の偉業、かずかずの戦火、革命、それらの物語。自然科学、考古学、現実から遥かに遠い神話や宗教……自己にとって関係あるかないかを問わない。だが、それらは君によって考えられている。ときには涙をも流す。瓶の中には君の感傷が詰まっている。

 ……硝子の表面に、見たことのあるような、ないような、ふしぎな顔が浮かびだす。やがてそれはぐにゃりと歪んで女の顔になる。……これまで君に対し「母」と名乗ってきた女の顔だ。それもひとつやふたつではない。順番に変形して、過去が遡られてゆく。残念ながら最後の女に至っては名前さえも思い出せない。それでも、あの日のことだけは鮮明に憶えている。


 夕方遊びから帰ってみれば、一度ねだったきり買ってもらうことをあきらめていたポケットモンスターのカセットが、何の予告もなくテーブルに置いてあったという事実について、当時の君は飛び上がるほどよろこんでいたにちがいない。きっと日頃の孝行が報われたのだ、なにしろ最近あの人はやさしかった、そう感じたかもわからない。だが実のところ、それはたんなる副賞に過ぎなかった。その隣にあった、なにやら懺悔の手紙文。こちらが真の贈呈品であった。それは君のためというよりは、たんに「母」の自己満足であるに過ぎなかったか、さもなくば君により深い嘆きを与えるための策略にちがいなかったのだけれども、とにかく君はまんまとこれに引っかかってしまったわけだ。

 あのとき君の手からは多くのものが離れていった。獲得したはずもないものを、うしなったと感じたのである。二つの品もどこへやったかもうわからない。

 そのあとやってきた「母」。これが一等記憶に残っている。申し分のない人格者であった。何万回と君に暴力をふるった。つれてきた娘のほうにはひどく、手厚くしていたようだ。ただし、君は無力であったけれども、「虐待」を受けたなどとは思っていない。それだって愛情表現の一であったにちがいないのだ。それに君の品行も悪かったかもしれない。殴られた契機と回数と雑感とを手帳に書き残したり、木板に彫刻刀で呪いの言葉を刻んだりして抽斗にしまっていたら、それを見つけ出されて完膚なきまで折檻されたほどであるから。とにかく君に道徳を手ほどきしてくれたのは彼女だ。やがてこれも去ってまた次が来るのだが、以降の君は俗に言う数学帰納法的に「母」を処理するようになったので、取り立てて言うようなことはなにもない。

 参観日があった。作文を発表する授業だ。世紀末にかこつけて、「もしも世界が終るとしたら」などという珍妙な人道的主題が選ばれたのだが、運の悪いことに、君の読んだ内容はあまり受けがよろしくなかったらしく、後に職員室への呼び出しをくらってしまうさだめであった。ところでそこにはもうひとり別の児童が呼び出されていて、これがあの観崎映子であったというのが、君たちの間の精神的な出会い、すなわち、互いへの興味が起こりはじめたきっかけになる。当時彼女は今のように着飾ってはおらず、むしろ非常に地味なほうで、極端に痩せており、肌も薄汚くて、同じ服ばかり着ていたので馬鹿にされることもしばしばであった。だがたいていの男子より女子のほうが早熟ときまっているもので、そのすこし冷めたような雰囲気が、いくらか君の気を引いた。

 映子も一時は君を気に入っていたはずだ。なにしろ後に君だけを、ある特別な場所へと招待してくれたくらいだから。そこは近所の、といってもなかなか小学二年生の足では辿り着かないようなところにある、「お化け屋敷のような」似非バロック様式の寂然としたホテルだったのだが、その地下にある駐車場のなかで、彼女は数匹の猫たちを飼っていたのである。善良なる映子は給食のパンや牛乳の残りをそこに持ち寄ってきては、大小も毛色もさまざまな猫たちに与えてやるということを日課にしていて、君も放課後になると、調理場の裏から青いラックケースに入った牛乳瓶を盗む作業を手伝わされたりしたものだ。うすぐらく無機質な駐車場であったが、映子が足を踏み入れてひとたび手をたたけば、猫たちがわっと顔を出して近寄ってくるのがおもしろい。そこで映子は、これまた学校から盗んできたステンレスの配膳皿に牛乳を注いだり、パンを千切って乗せたりして、世話してやるのだった。君は猫への関心こそあまりなかったが、そんな「秘密基地」を教えてもらったことについては格別な親愛を感じ、よくその場所へついていっては、ふたりでいろいろなことを話し合ったのを憶えている。本のこと、生き物のこと、あるいは君たち自身のこと。長くなかったそれらの時間は、それでもあの封印されたイスの町のように、いまでも記憶の底で鐘を鳴り響かせているような気がする。

 しかしそのころすでに君は学んでいたのだ。もっとも近しいはずのものがもっとも信用ならないものだということを。現実を。現実が拒否の一箇の形態であり、もはや自分と親しくは交わらないということを。


(君は目を凝らして手許の瓶を見つめた。というのも、一瞬、そこにいるカメレオンが胎動したような気がしたからだ。しかしなんでもないとわかると、安心してまた追想の海に深く沈みはじめる)


 観崎映子との別れは、そのはともかく、としては君の「転校」が原因になる。それはまた、〈僕〉との別れでもあったのかもしれない。転校は君の人生のうちで三度経験されている。すべてが小学校だ。三年生の五月と、五年生の六月と、六年生の十月。いわゆる転勤族の父をもてばそういったことも珍しくはない。この「地元」に戻ってきたのは中学のほんとうにおわりごろだったが、そこでは学校へは行かずに家で受験勉強だけしていたから、いまの数には含まれない。

 大阪、福岡、宮城、いろんな土地で過ごしてきたのだけれど、もっぱら君は「安全」ということをつねに念頭においてきた。小学生という生き物がいかに邪知暴虐であるかを君自身知っていたのである。まず方言に順応せねばならない。それからクラスに何がもとめられているかを理解せねばならない。風土が変われば人の気質も変わる。それに合わせて君も変わっていったのだ。比較対象ができるから、その環境に何が不足しているかも自然とわかるようになる。だから最初はうまくいった。男子小学生の関心は知力よりも体力であり、君はどちらも並よりできた。ドッジボールで活躍すれば、それで一躍人気者なのだ。君はなにかそのへんの才能はあったらしい。しかし君はほんとうは運動がきらいだった。だがやむを得ない。安全のためだ。君は運動大好き人間になった。前の学校にいたときから運動が大好きだったんだと話した。当然そんな事実はない。やがて転校になる。君は安心した。よかった、もう運動しなくていいんだと。次の学校では遊戯王とスマッシュブラザーズがやたら流行っていた。君は前の学校にいたときから遊戯王とスマッシュブラザーズばかりやっていたんだと話した。ただ君は小遣いが皆無に等しかったし、ゲーム機もみんな取り上げられていたから、吐き気のするほど愚鈍だが家にゲームのたくさんある肥満した男とわざわざ親友にもなったし、万引きもやむを得なかった。一方でほかの事実も大量に捏造されていて、いつのまにか前の学校でサッカーを習っていたことにされていた。それはそこの学校の運動水準が比較的低かったためである。そのせいでサッカーの人頭にかならず数えられるようになってしまった。だが君のサッカーに対する苦手意識は半端ではなかったから、いつまでも耐えていられるわけがない。こうしてまた転校になるのだが、この三回目の転校は、それまでのものとはもはや性質がちがっていた。一回目、二回目は、それなりにかなしかったし、するのがいやだった。だが三回目は君としても望むところだったのである。それはいわば環境をリセットして、人格を一からつくりなおすための装置だったからだ。しかもそれは前触れもなくやってくる。いまかいまかと待ちつづけてきて、これが習慣になったころに、ようやく実現されたのだ。だから君はこのように考える。次はもっと理想的な生活にしよう、次こそはほんとうの自分になろう、と。

 だがそうはならなかったのだ。そしていつしか君の頭には、このリセットの考えがついて離れなくなっていたのである。君はもう自分のことをなにも信じさせなかったし、君自身もなにひとつ信じはしなかった。なにか言ったあと、嘘だけど、とか、信じなくていいけど、などと付け足して、最初からそういう人間だということを強く印象づけさせた。そうしておけば告白だって楽になるし、あとでばれても最初から身代わりを立てているのだから、痛くなどはない。馴れたものだが、もういい加減飽き飽きしていたのも事実だ。どうせまたすぐにリセットされる。友だちなど必要ない。どうせまたゼロになる。それはいいとかわるいとかではなく、たんにそういうものであろう。転がり落ちる季節とともに、中学の約三年間も、君はそんなふうにして過ごした。

 こうして「地元」に戻ってきたとき、もう君はまるで別人みたいになっていたといえるが、これがほんものの自分といえたものかどうかも君には疑わしい。むしろこのように思われる。なにかの代理人格を採用しつづけてきた結末として、ついに自己の百パーセントが代理で埋めつくされてしまったのではないか、ならば今のこれも流動的な偽りの生活に過ぎず、ここにいる自分自身も「」でしかないのではないか、と……。


 とりわけそんな君にとって、森本樹里亜の到来は、まさしく到来とよぶにふさわしかった。言うなれば彼女は「世界の外側」から現れたのだ、君を圧倒し、告発する驚異として。幻の大陸と、それを代表する未知の黒船。あるいはギリシア文明の、あの翼の生えた勝利の女神。それが森本樹里亜という存在であった。

 体育館で新入生代表挨拶を読み上げていた樹里亜は、そのころからすでに超越的ともいうべき存在感を放っていたし、彼女がマイクの前に立つと、浮かれてざわついていた生徒たちの顔にもつぎつぎと妙なる緊張が伝染していき、なにやらふしぎな視線の力によって、一瞬、そこに真空でも発生したのかとさえ疑われた。他の生徒とは明らかに違う、洗練された立ち姿。そんな印象をだれもが抱かずにはいられなかったはずだ。彼女は言葉をひとつひとつ清流にさらすようにして発音した。だれもがそのことによって彼女の存在が減るのではないかとおそれた。


「――この歴史と伝統ある学校の新たな一員として責任ある行動を心がけ、期待に応えられるよう精一杯努力して参りたく存じます。……新入生代表、森本樹里亜」


(あれ、噂の?)(ぽいねえ)(すっげえスタイルいい、外人か)(いや、ハーフらしいよ、帰国子女だって)(うへー、高貴なお方……)……。


 君もまた、そんな有象無象のひとりとして整列のなかにあって、視野をふさぐ邪魔な頭のすきまから垣間見られる彼女の姿に見惚れていた者のひとりである。一目にしておのずと理解されたのは、彼女が、彼女だけがこの中で唯一「ほんもの」であるということだが、同時に君は、指先から徐々に砂へと変わっていく自分をも感じていた。彼女の光輝は遍く汚れを寄せつけず、あらゆる自惚れも、それを前にしてはたちまち欺瞞の皮をはがされる。だからこそ樹里亜という存在を知ってからの君は、もうそのままでありつづけるわけにはいかなくなっていた。君のやってきたことすべてがまちがいであったかもしれない。相対的な位相変化を繰り返すだけでは、彼女のいる絶対的な高みへは到達できないであろう。少なくとも君がそう予感せざるを得なかったのは、その時点でやはり君自身が、自分という生のあり方を心配していたからにほかならない。もっとも、それ以後なにかが変わったわけでもあるまいが……。



 ……ぬ、と君の意識から一部が辷り落ちる。なんということだ、君の手首に一匹のらしきものが、気づかぬうちにとまっているではないか。ああ、君の血のにおいを嗅ぎ付け、白と黒の幻術を用いて忍び寄り、高脚で降り立って、まさに君の生気をおのれの養分たらしめんと画策している害虫よ……死ぬがよい。さて君は思考を中断させ、自身の注意を矢のように標的へしぼり、もう片方の腕をそっと構え、いささか過剰な瞋恚をこめて、このいまいましい外敵を駆逐しようと判断した。ところが、ああ! それは失敗に終わった。君が痛めつけたのは君自身の皮膚以外ではなかったのだ。蚊のほうはといえば、やすやすと君の攻撃をのがれ、すでに目視不可能な場所へ逃げ込んでしまっている。……と、そのときであった、なにやら冒涜的な羽音が、君の耳のそばで囁かれてきたのは。


(ふつうのことがふつうにできるっていうのは、それだけでものすごいことなんじゃないかな、とぼくはつくづく思うよ)


 なんとそれはあの佐藤の声であった。なにか君の心のわだかまりに反響したのであろうか。そう、あのいかにも幸福そうな、ふざけきった顔だ! 君の目にあの場面がよみがえる。よからぬ感情がふたたびこみ上げてくる。それは佐藤の言ったことが完全にまちがいだったということもあるだろう。もとより君は外的生活に属する煩雑な手続き的事項が悉く自分と対立し、領土を奪い、あまつさえ攻撃を仕掛けてくるような困難を感じていたのだ……。もっとも、それはことばの表層を掬ったというだけに過ぎず、ことがらは君のもっと奥深くの内的生活にまで及んでおり、それゆえ君は侮辱されたと感じたのだったが。ああ、君がどれほど樹里亜に近づきたくて、近づけなくて、それがどれだけ難儀なみちのりであるか、はたして佐藤にわかるだろうか。それが同時に遠いあこがれの源であり、かけがえのないものであるということが、あの凡骨にわかるだろうか。けっしてわかるまい。それは君だけの問題だ。佐藤はなにもわかっていない。森本樹里亜を範とするなら、勉強なんてできて当たり前なのだ。その上でなにをやるかだけが重要なのだ。見よ、森本樹里亜は羽ばたいている。ずっと遠くを、青い鳥のように。


(けどまあ、ぼくから見たらきみだって充分すごいけどな)


 君は身を翻し、注意深く辺りを探りだす。……敵の姿は一向に見えない。だが、まったく理解しがたいことに、すでに君の足首のあたりには屈辱的な痒みが発生してきている。君は叫んだ。苦々しく吐き捨てるように。

「穢らわしい!」

 もちろん無意味だ。声では、言葉では蚊を殺すことはできないのだから。すっかり興を削がれた君は、その場から立ち去るために、瓶を片づけるために、冷凍室の扉を開けている。……すると今度はなんだというのか、手許のほうから、またべつの声がひびいてくるではないか。


(出してくれ!)


 周囲を窺う。誰もいない。やや慄然として瓶の中を覗き込む。もしやこのカメレオンの死骸が喋っているのであろうか、と。はたしてそんなことが? 


(出してくれ! ここから出してくれ!)


 思わず瓶を取り落としそうになる。が、どうやらまちがいではなさそうだ。

 加えてそれは、どこか聞き覚えのある声でもある。

「どういうことだ……?」


(おれを自由にしてくれよ! そしたらきっといいことありまくるぜ。なあに、かんたんさ。この瓶の蓋をちょい、と持ち上げてくれさえすりゃあいいんだ。それで万事うまくいく。なあ、いいだろ、相棒?)


 冷凍カメレオンと会話らしきものが成立している? ……そのとき君ははっと気づいた、カメレオンの眼がぱっちりと開かれているということに。そう、それでアニメーション映画さながらに、つぶらな瞳で君のことを見つめているのである。じいっと。氷もいつのまにか溶けているようだ。

 さてこの事象については驚きよりもむしろ、君の胸は期待に大きく膨らんでいたといえよう。なにしろカメレオンは生き返ったのだ! そこですぐに、自分の体温と同じになった瓶の蓋を回して、開けてやることにする。きらり。窓辺の光を受けて、瓶の縁があやしく光った。同時にすっくと立ち上がったカメレオンが、すこしく目を細め、伸びをするようにゆっくりと尾を伸ばしだす。……こんな呪文を唱えながら。


(アイ・アム・マイン、アンド・マイン・イズ・ミー)


 それから何が起こったか? 怪奇きわまる現象だ。まず君はなにかすさまじい力によって引き付けられ、みるみる身体が縮んでいくのを感じた。そして一回、二回と瞬きすれば、ありうべからざることに、なんと君の身体は瓶の中なのだ。いま君の目には生徒会室の中にあるすべての事物が異常にゆがみ、拡大されて映っている。錯覚ではない。あたりを見回してみても同じだ。それよりなにより、カメレオンの姿がない。瓶の中には君ひとりしかいないのだ。そのとき、なにやら轟音とともに巨大な影が頭上にかぶさってくるのがわかった。それは天井、いな、瓶の蓋であろうか。そして最後に君は、硝子の外側にべったりと貼りついている、不気味な物体の正体に気づく。それは巨人の手だ。……君自身の手だ!

(おい! 話が違うぞ!)

 すると君は、いな君の姿をしたカメレオンは、君の抗議に耳を貸すどころか、不敵な笑みを浮かべるや、腰をかがめて、こともあろうに、君の入った瓶を冷凍室の奥へ突っ込んでいってしまうではないか。

「あとはこのおれに任せとけって」と言い残し。

 ああ、扉が閉められてしまった。かわいそうな君。視界はまったき暗黒だ。そして絶望的に寒い地獄。なにかの天罰なのだろうか。君にはもうほんとうになすすべがなかった。そう、たったひとつ、小さくなってふるえつつ、届くとも知れぬ声をいつまでもいつまでも、必死に張り上げることをのぞいては。


(出してくれ!)……。

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