電車に乗って
いくま
終点
不思議だ。雲の上を歩いているようなふわふわとした感覚。電車に乗ってるから当たり前だ、と思っていたから熱があると気づくまで数分かかった。気づいてしまうと怖いもので、それまで感じなかった悪寒、吐き気、頭痛などを感じ始める。あと一駅、あと一駅我慢すれば満員電車の人も半分は降りて少しは楽になれるだろう。
やはりこの車両の半分くらいの人は降りていったが、それでも席は埋まっていて僕は立っているしかなかった。僕が降りる駅まであと5駅以上ある。座りたい。車内で倒れるわけにはいかない思って、つり革に掴まりながら、緑の多い郊外へと変わる景色を眺めていた。
おじちゃん、座っていいよ。
あまりに辛そうだったのだろう、声をかけてくれたのは、まだ真新しいランドセルを背負った小学生だった。僕はためらったが、ひとまわりもふた回りも違う男の子が声をかけてくれたことがなんだか嬉しくて、『ありがとう。』と言って譲ってもらった。
やはり立っているより楽だ。僕のホッとした様子がわかったのだろう。男の子もニヒヒと笑っていた。
その男の子とはたくさん話をした。学校のこと、ゲームのこと、好きな子のこと、あっという間に時間が過ぎて、僕も熱があることを忘れていた。
僕の降りる駅に着く。男の子は終点まで行くらしい。
『本当にありがとう、気をつけてね。』そう告げて電車を降りた。
やはり熱は下がっていなくて、フラフラしながら階段を登る。踏み外さないようにゆっくりと。その日、会社に着いた僕の具合が悪いことに気づいた上司は、早々に僕を帰した。
またあの電車に乗る。この駅が始発の駅だから立っていることはない。
ここで、僕は気づく。そう、この駅は始発駅であり、終着駅でもある。もちろん、朝の電車も。
そして何より、この駅の近くに学校はなかったはずだ。
あの男の子は終点まで行くと言っていた。
電車に乗って いくま @kicho_ikuma
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます