絶対に音を立ててはいけない部屋

ちびまるフォイ

この部屋で出してはいけないもの

駅から徒歩3分で、見晴らしもいい。

日当たり良好で完璧な防犯システム。なのに家賃は安い。


俺は、はじめていわくつき物件に住んでみることにした。


といっても、幽霊が出てくるわけではない。

この部屋では生活音を出してはいけない、といういわくつき物件。


(ここが……俺の部屋か)


もちろん、声も出してはいけない。

なぜかは知らないがそういう物件なのだ。


部屋は掃除が行き届いて、清潔感のある白色で統一されている。

なぜか床のフローリングの色だけ変わっているのが気になったがすぐに忘れた。


(よし、まずは最低限の生活音も予防しないとな)


生活音を出さないように部屋では靴下を常に着用。

スリッパはパタパタと音が鳴るし、はだしはひたひたと足音がする。


(……なんだか、お腹もすいてきたし食事にいくかな)


この部屋では食事を取ることができない。

料理はもちろん、食事を取るときにも生活音が出てしまう。


外に出て友達を誘い、食事にいくことにした。

俺の部屋のことを話すとあきれた顔になった。


「はぁ!? 音を立てずに生活するなんて、正気か!?」


「普通じゃ住めないような高級マンションなんだよ。格安で住めるなら最高じゃないか」


「いや、そんな音を出さないように生活するくらいなら、ボロアパートでいいわ……」


友達は食事を進めると思い出したように聞いた。


「つか、なんで音出しちゃいけないわけ?」


「……え、わからないけど」


「隣の人が怖いとか?」


「さぁ……どうなんだろ」


食事を終えて家に帰っても、頭の中はその疑問でいっぱいだった。

どうして音を出してはいけないのか。


最近、ご近所トラブルが頻発しているから、騒音を出さないようにしているのだろうか。


そういえば、この近くでも最近、隣人トラブルの殺人事件の犯人が逃走中だった。

誰であれキレると何してくるかわからないのかも。


それでも好奇心に負けた俺は部屋の壁に耳をあてた。


(だめだ、まるで生活音が聞こえない)


隣の部屋も生活音を出してはいけないのだろう。

人がいるのかどうかまるでわからない。


マンションのベランダに出て体を乗り出し、隣の部屋の様子をうかがう。

電機はついていない。


(本当に人が住んでいるのか……?)


水道メーターやガスメーターを確かめてみたが、動いていない。

さすがにこれだけ状況証拠が集まれば自信を持って言える。



「なんだ、隣の部屋、誰もいないじゃん!!」



久しぶりに部屋で声を出せた。

俺の部屋の両隣は誰もいないことがわかった。


上の階や下の階を調べても誰もいない。


部屋に戻ると、テレビにつないだイヤホンを引っこ抜き

スマホで好きな曲を流して、思い切り踊ってはしゃいだ。


「生活音を気にする必要なんてなかった! これからは自由な生活だ!!」


ドタバタとあえて騒音を出すように騒いだ。

隣の部屋も下の部屋も誰もいないので大丈夫。



次の瞬間。



「うっせぇぞコラァ!!! 静かにしろ!!」


俺の部屋の床が持ち上がり、中から逃走中の殺人犯が出てきた。

ここがどうしていわくつき物件なのかわかった。


「部屋に悪い人を隠してたんだ……」


男の持っている凶器を見て、明日引っ越そうと心に誓った。

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