狩猟本能VS逃走本能

@Ia7933

第1話 シリアスなど必要ない。

ある日、某学園の某クラスでは張り詰めに張り詰め過ぎた緊迫感が漂っていた。

俺はゴクリ、と喉を鳴らし、背中に冷や汗が伝うのを感じた。

背後には壁、目の前には__人を何人か殺したような、猛獣のような眼光を放つ男達。

前も左も右も囲まれ、逃げようにも逃げられない状況だ。

嗚呼、俺は神に祈るしかないのか。アーメン…。



「お前さっきから誰に話しかけてんだ?」

「はぁ!?テレパシーでも持ってんのお前!?うっわ引くわー…」

「ちげーよ!全部顔に出てんだよアホ!」

「誰がアホだ!折角ちょっとは緊張感出そうと思ったのに!」


畜生、シリアス憧れてたのに。

これじゃあシリアスじゃなくてシリアルだよこのクソ吸血鬼。

心の中で悪態を吐きながら、その場にドサッと座り込んだ。

恨みを込めて、目の前に蟻の如く群がるイケメン達を睨みつける。


「はよ退けや」

「退けと言われて素直に退く奴がいるか?」

「いない」

「だろ?」

「いやいやそうじゃなくて、普通に邪魔なんだよお前ら。人が折角帰ろうとしてたのに集団リンチとかマジウザイんですけどー」

「お前のギャル口調のがウザイわ」

「とりあえず退けポンコツα共」

「首筋噛みちぎるぞ?」

「/(^o^)\さーせん」


よっこいしょと脚の力で立ち上がり、念の為首を手で隠しながら周りを見渡した。

前にイケメン、右にイケメン、左にイケメン、あっちにこっちにイケメン。

言っておくけど、俺は乙女ゲーの主人公でもなければ、巨乳の美少女でもクールロリ系女子でもない。

紛うことなき男だ。


自己紹介をしよう、俺は風宮碧。高校2年生。

読み方はかざみや あおいだ。

よく爽やかな名前だね、と言われるけど、俺自身は爽やかとは無縁。

中学時代、家の壁を隣の部屋と貫通するほど破壊した奴にどう爽やかを求めればいいのか。

何故そんな事をした、と聞かれれば、俺も若かったんだとしか言いようがない。


あ、話が逸れたか。

俺はイケメンではないし、モブ顔と言うまででもない。

中の上、強いていえば猫目のやや童顔。

中学生に間違われる事はしょっちゅうだが、大して気にしたことはない。


ちなみに最初に俺にツッコミを入れたクソ吸血鬼(α)は、黎道蜜れいどう みつ

"女みたいな名前"は禁句の、少女マンガ風に言うなら俺様ツンデレだ。

綺麗な焦げ茶色の髪と吸血鬼らしい赤い目は確かにカッコいい。

俺からしてみては自己チュー野郎でしか無いけど。


「ねーねー、碧く~ん…そろそろ誰を番にするか決めてくれないと、俺達泣いちゃうよ?」


……このチャラい金髪黒目は佐渡琉衣さわたり るい。ピアス開けすぎだろあれ。

見た目の通りチャラいし軽いけど、時々見るマジになった目は恐ろしい。あれは恐ろしい。

抱きついてこようとする琉衣を払い除け、ずっと黙っているストレートな黒髪のイケメン、紫波月斗しなみ つきとに話しかけた。


「おい月斗、お前そんなキャラじゃないだろ。集団リンチとかいう柄じゃないだろ」

「………」

「…せめて一言二言話してくれませんかね月斗さん」


そう言っても、月斗は綺麗な緑の瞳をこちらに向けてくるだけ。

まあ、コイツが無口なのは息をするより当たり前だから仕方ない。

コイツらは全員クラスメイト。

この他にも先輩後輩はいるが、なんとそいつらにも俺は狙われている。

おかげで学校内で逃げ回り、寮でも逃げ回る日々を送っている。

なぜ逃げているか、今までの会話で分かった人もいるだろう。


―――コイツらはα、俺はΩ。

しかもここの学校で唯一のΩだ。


悲しい事に、コイツらは殆どが番を求めている。

だったらそこら辺でΩを探せばいいって思うだろ?

さいっっっあくな事に、コイツら俺に一目惚れしたとか言い出したんだ。

コイツら!全員!俺に!一目惚れとか!ありえない!!!

って叫びたい気分だったよ、初めて言われた時は。


そんなこの学校には、実は転校してきた身。

なぜ転校したかというと、それは100%俺の兄弟のせいだった。

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