12月17日

榎木イマ

1 rain



楽しみにしていた遠足、雨。


頑張って練習した運動会の本番、雨。


初めての家族旅行、雨。



雨女って言うのでしょう?

私は嫌で嫌で仕方がなかった。

行事で雨が降るたびに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

アルバムには、傘で顔の見えない記念写真ばがりが詰まっていた。


私の両親は私が中学2年生の頃に事故で死んだが、遺影を探すのも大変だったのを覚えている。


しかし、この雨の呪いはコントロールが効くということに気づく。

それは中2の冬、突然くすぐったい誘いを受けたことがきっかけだ。


「放課後、白羽はくうの好きなもん奢ってやるよ」


これは隣の席の瀬田君の言葉で、結果からいうと、デートの誘いでは無かった。


「白羽さ、楽しみな事があると雨降るだろ?午後の体育、サッカーとか苦手なんだよね」


「つまり、雨降らしてって事?」


「そう。で、どこがいい?」


私は、図書館に行きたいと言った。

瀬田君は予想外の答えに戸惑ったようだったが、彼もまた体育の授業を嫌がるような生徒だ。

活字を見ると発熱するといった部類では無いだろう。


そしてその日、私は見事に雨を降らせて見せた。

それから、瀬田君と図書館に行った。


「何か、嬉しそうだね。図書館好きなの?」


うん。


そう答えながら、実は違っていた。

あれだけ忌々しく思っていた雨の呪いが、瀬田君の役に立ったことが嬉しかった。


それから、瀬田君が私の事を“白羽”と呼ぶのも。



その後、何度か同じような頼みを受け、私は雨を降らせた。

もちろん、そのたびに図書館へも行った。



多分、6回目だったと思う。


私の気持ちの高ぶりに比例して、午後から豪雨になった。




視界の悪い道路。


対向車と接触した私の両親が事故死したことを、私は卒業するその日まで瀬田君に言うことは出来なかった。







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