第123話 切れた医者 2 -カルテを放った医者
めったに怒ることのない私が2番目に怒った相手は、高熱患者の学校教師でした。
40代と見える中学校の男性教師が、40度近い高熱を出して入院しました。抗生物質をやっても、熱はなかなか下がりません。
「助けて……」
熱にうなされ、そう言う元気もありません。
主治医が私に相談に来ました。
そこで、抗生物質とともに、ステロイドを点滴で与えることにしました。
感染症にステロイド剤を使うべきかいなかは、医学会でも意見が二分されています。
私は自分の経験から、ステロイド剤はじょうずに使えば、料理のかくし味のように、素晴らしい効果をもたらすものと思っています。
ステロイド投与1回で、熱は見事に下がりました。
みるみる元気になり、食事も取れるようになったのです。
ところが血液検査をすると、肝障害が認められたのです。
肝炎ウイルスABCはマイナスでしたから、おそらく、他のウィルス感染による肝障害でしょう。(⇒豆知識①)
劇症化するようなものではないと考え、少し経過を観察することにしたのです。
学校の先生は、仕事柄しょうがなかったのでしょう、熱が下がるとすぐ退院したいといい出しました。
「肝障害があるからもう1~2日様子を見た方がいい」といっても、聞く耳を持ちません。
主治医は困ってまたまた私に相談に来ました。
私が病棟回診の時、
「 肝障害があるから 、すぐ退院というのは危険ですよ」
すると、
「そんなに入院なんかしておれませんよ」
声を張り上げて文句をいい出したのです。(←(^ω^) 喉元過ぎれば熱さを忘れる)
ベッド脇にしゃがんで話していた私は、少々頭にきて、
「じゃあ勝手にしなさい!!」
持っていたカルテをベッドの上にぽんと放り投げてしまったのです。
(ああ、しまった。やっちゃった……)
心の中でそう叫んでも後の祭りです。
カルテを見つめてその患者は、いやみったらしく、
「医者ともあろう者がそんなことをするんですか」
「……」(←(^ω^) 私は絶句)
男性は、その日の午後退院していきました。
退院する直前に、肝機能検査の採血をしておきました。
数日後その結果を聞きに、患者は外来に来ました。普通なら主治医の外来に来るべきですが、間違えて私の外来に来てしまったのです。
また出直してくるというのは、無理だったようで、そのまま私の外来にかかったのです。
カルテの名前を見て、
(あの患者だ~)(←(^ω^) 患者にしてみれば“あの医者だ~”)
何か気まずい思いです。
気を取り直すと、
「Aさん、診察室にお入りください」
患者の顔を見て内心、
(おお、あの顔だ~)(←(^ω^) 患者:“おお、あの顔だ~”)
二人とも何食わぬ顔をして対座しました。
幸い肝機能は、完全に正常化していました。
「すべて治りましたよ。良かったですね」
いかにも医者らしく、偉ぶってそういうと、
「ありがとうございました」
彼は患者らしく深々とお辞儀をしたのでした。
かくして二人は、わだかまりを解消し、仲直りをしたのでございます。めでたしめでたし。(←(^ω^)医者ともあろうものが大切なカルテを放ってはいかんぞ!)(⇒豆知識②)
*豆知識
①ウイルス性肝炎(ウイルスせいかんえん、英Viral hepatitis)とは肝炎ウイルスが原因の肝臓の炎症性疾患のことを指します。
肝炎ウイルスには、A型肝炎ウイルスを初めとして、B型、C型、D型、E型、F型、G型、TT型が見つかっています。
その他、サイトメガロウイルス・EBウイルス・単純ヘルペスウイルス・風疹ウイルス・麻疹ウイルス・パルボウイルスなどのウイルスによっても肝炎を起こすことがあります。
②カルテは、医療に関してその診療経過等を記録した診療録(しんりょうろく、英: medical record)のことをいいます。カルテ(Karte)はドイツ語で、カード(英語のcard)という意味です。
カルテは、1970年頃までの日本では主にドイツ語で記載されていましたが、現在は英語、もしくは日本語に英単語を混在させたものが多く見られます。
これは、明治時代の日本が主にドイツから医学を学んだことの影響です。
医師法第24条1項に、医師は患者を診療したら遅滞なく「経過を記録すること」が義務づけられています。またその2項で、記録後最低5年間は保存することが義務づけられています。
診療録は、医療訴訟における証拠としての重要性は非常に大きく、たとえ必要な処置を行っていたとしてもカルテに記載がない場合、行ったとの主張は認められない可能性もあります。
参照:Wikipedia
〈つづく〉
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