第63話 患者もいろいろ-ギブスが折れた

 少々真面目な話が続いたので、疲れましたよね。ここいらで少しばかり愉快な話しを書いてみます。(←(-。-;)患者さんにはあいすいませんが)


 これは誤診というより医療ミスでございます。


 私がまだ外科医になって3年くらいの駆け出しで、アルバイト病院に出張していたときのことです。


 病棟回診をしていると、外来ナースがあわてて飛んできました。あわてているわりには、笑っています。


「どうしたの?」


「折れちゃったんです」


 そういいながら、ナースは吹き出しました。


「何がよ?!」


「ギブスですよ」


「ええ!ギブスが!そんな……」


 急いで外来に駆けつけると、昨日治療した少年が椅子に座っています。その足元を見ると、何と!ギブスが真っ二つに折れて、ぶらさがっているのです。


「あちゃ~」


 バツの悪いことって、ありゃしない。(←(^ω^)少年はもっとだよね)


 いきさつはこうなんです。


 前日の夕方、男子中学生が体育の時間に転んで、足が痛いといって来院したのです。その日はあいにく整形外科の医者が留守で、私が相手をすることになりました。


 そのころはまだ前線の病院では、外科が整形外科も兼ねて診療しているところがあったのです。


 私も先輩の整形外科的処置をちょくちょく見ていたので、これぞ腕試しだとばかり、勇んで患者を診たのです。(←(^ω^)これが運のつき)


 レントゲン写真を撮ると、左側下腿の腓骨に軽くひびが入っただけのことでした。それほど腫れることはなかろうと診て、ナースにギブスの準備を頼みました。


 当時のギブスは今のようなプラスチック製ではなく、メッシュの布に石膏をまぶしたしろものでした。クッションとなる綿を下地にして、その上からギブスを巻くのです。


 患者は椅子に腰かけ、私は患者のかたわらに腰を下ろします。


 バケツのお湯の中に浸して石膏をやわらかくすると、両手でこすりながら、かかとから膝の上まで巻き付け、足をギブス固定するのです。


 ものの10分もしないうちに巻き終わり、痛み止めを処方して、松葉杖を貸し出しました。


「ああ、うまくいった」


 初めてのギブス巻きにほくそ笑んでいたら、翌日ギブスはポッキリ。学校で、ちょっと松葉杖を離して足を下ろしたとたん、折れてしまったのです。


 少年は、ギブスを取るに取れず、引きずって来ました。


「僕、ごめんな。友だちに見られて恥ずかしかったね」


 少年は笑ってうなずいています。


 その頃はまだそれですんだのです。今なら、ただではすみません。(←(^ω^)訴えられたかもね)


 もう1度、厚めに巻き直して、今度はうまくいきました。


 ところで、これないしょの話あるがね(←(^ω^)この人、どちらの人?)、最初に巻いたときが悪かったのでございます。邪念が集中力を喪失させたのです。


 巻いた時の状況を詳しくご説明いたします。(←(^ω^)急にていねい語になったね)


 椅子に座った患者を中心に、私は右手に、ナースが左手に陣取ります。


 若い小綺麗なナースが、私の真ん前に腰をおろしているのです。しかも彼女はスカートなんですよ。 (←(^ω^)もう察しがつくでしょ)


 ナースがバケツのお湯に浸してギブスを柔らかくして私に渡し、2人で順番に、巻いていくのです。


 ところが、真ん前に陣取るナースがしゃがめば、当然のこと、ちらりちらりと見えるのです。(←(^ω^)まさにパンチラです)


 どうしてもそちらに目が行ってだねえ、ギブスを巻き巻き、そちらをチラチラ見てしまうのですよ。


 集中力が欠けた分、手元が狂っていまいちの仕上がりでした。というより何重に巻いたか分からなくなって、巻き方がどうも一枚薄かったようなのです。(←(^ω^)医者も人間だわ)


「まあこれぐらいでいいかな」


 松葉杖を手渡すと、痛み止めを処方して帰しました。


 その翌日です。学校で、ちょっと足を下ろしたとたんに、骨ならぬギブスがボキッと折れてしまったと、まあこういう次第なのでございます。(←(^ω^)めんぼくない)


 スタッフ全員に大笑いされましたが、


「そのパンチラが悪いんだ」


とは、ことがことだけにいうわけにもいかず、ただただ平身低頭、謝るのみでした。(←(^ω^)おいコラ~!医者は集中せんといかんぞ~)


〈つづく〉

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