第48話 患者もいろいろ-穴がない!?

 またもや下の話で恐縮です。なにせこの手の経験は衝撃が強烈で、記憶にしっかりと焼き付いてしまい、なかなか忘れられないのです。


 余談ですが(←(^ω^)余談が早いね)、世界的に有名な整形外科教授が、国際学会の懇親会席上で、笑いながら私に話してくれました。


「セックスの話は誰もが関心を持っているから、異文化人が集まる国際会議の懇親会では、場を盛り上げるにはもってこいだよ」


 ある時席上で、教授はこんな話をしたそうです。


 女性患者が頚椎骨折を起こして、大学病院に運び込まれました。


「どうしてこんなことになったのか」と聞いてみると、その女性は恥ずかしそうに言ったのです。


 シックスナイン(←(^ω^)これ以上書くと本サイトの規約違反になりますので、知りたい方は、グーグル検索でもしてくださいね)を男性と立位(!!!)でやっていた時、絶頂に達した男が、手を離してしまったのです。女性はもろに頭から墜落して、頚椎を骨折してしまったというのです。


 この話に、テーブルを囲んだ国際人たちは大笑いしたそうです。


 なるほどなあと感心して、私は教授の話を聞いていました。(←(^ω^)人間、地位名誉にかかわらず、誰しも同じなんですね。安心しました)


 さて話を戻します。


 私もだいぶ医者に慣れたころのことです。


「先生、尿が出ません」


 病棟から電話がありました。70代の女性患者が、朝から高熱が出て、抗生剤の点滴をしても尿が出ないのです。


 敗血症にでもなって、腎不全を起こされてはたまりませんから、尿道カテーテル(直径5mmほどの管)の留置を、朝指示しておいたのです。


 カテーテルを留置すれば、尿量チェックが容易にしかも確実にできるので、急変時にはよく行われる処置の1つです。


(尿が出ない?カテーテルを入れても?)


 ブツブツ言いながら病室に向かいました。病室ではナースが2人がかりで、カテーテルを入れたり抜いたりして尿の出ぐあいを見ていました。


「入れたときに尿は出たの?」


「それが全然出ないんです」


 よほどのことがない限り、尿が全く出ないということはありません。挿入したときに、カテーテルを満たすくらいの尿は出てくるのが普通です。


「全然!?」


 変だなあと思いつつ、カテーテルの入っている穴をまじまじと見ましたが、確かにカテーテルは尿道に入っています。


 男性は、解剖学的に尿道の長さは15cmくらい(女性は3~4㎝)あります。膀胱の手前に前立腺がありますから、前立腺肥大があるとカテーテルが挿入できないことが間々あるのです。


 しかしこの患者は女性です。女性でカテーテルが入らないということはまずありません。


「おかしいなあ」


 ナースといっしょにカテーテルを入れたり出したりしていた時、尿道が普通より太めなことに気付きました。


(はて3つの穴は?)


 疑問がふと脳裏をよぎりました。そこで女性の解剖の基本、3つの穴を探したのです。


「あれ、穴が1つない」


 肛門、尿道はあれど、膣が無いのです。


「膣はどこなの?」


 私にそう言われてナースも、


「ほんと…」


 うかない顔で探しています。


 ひょっとして、この太めに見える尿道が膣じゃないかなと、ふと思いました。


「これ膣じゃないの?」


「え~そんな」


 ナースは、取り憑かれたようにそこをジーッと見いっています。


「クスコ膣鏡、持って来て」


 またまたクスコ膣鏡の出番です(←(^ω^)クスコ先生、助かります)。


 膣鏡を入れて中をのぞくと、穴の口から1㎝ほど奥まったところに、小さな穴が見えます。


「これが尿道じゃないの」


 そこにカテーテルを挿入してみましたら、見事に尿が出たのです。


「おお、出たか」


 またまた感動ものです。


「先生すごい!」


 ナースたちも、驚き半分、喜び半分で拍手喝采。(←(^ω^)患者の前で君たちは何ということを)


 こんなことで褒められるのも、何か気恥ずかしいのですが、悪い気はしません。日頃はナースに頭の上がらない私も、このときばかりは、「どうだい」と言わんばかりに胸を張って、ちとかっこつけちゃいました。


 それにしても、なぜこんなところに尿道があるのか不思議です。生まれつきのものなのか、膣壁が年齢とともに萎縮したため、尿道がひき込まれて奥に隠れてしまったのか。私もナースも初めての穴体験(?)だったのです。


 ネットで調べてみると、尿管異所開口といって、まれにあるようですね。ただ幼少期に発見されることがほとんどのようです。この方の場合、70才になるまで本人も誰も気付かなかったのでしょうかね?!


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