第44話 良いお医者-アフリカに行く

 富田医師は、公立病院の部長をやっておられたのですが、昔からの念願であったアフリカ医療に参加したいと思い立ち、病院を退職しました。


 私もそうでしたが、昔は、国際協力をするため海外に赴く時は、みな勤める病院を退職して出かけて行くのでした。


 今ではそれもだいぶ改善され、休職期間を与えてくれるところもあります。そのミッションを終えて帰国すれば、同じ病院に復職する手立てがあるのです。


 富田医師とは、国際協力の研究会でお会いしました。アフリカに行きたいというので、相当のツワモノかと思いましたが、細身の体でじつに控え目な紳士でした。


 私は、アフリカにちょくちょく行っている知り合いの医師を紹介しました。二人は意気投合して、一晩中アフリカ医療を語り合ったのです。


 それから1カ月ほどして、富田医師は、アフリカに向かいました。


 私に富田医師の消息情報が入ったのは、それから2カ月ばかりしてのことでした。


 アフリカでマラリアに感染して、2週間で亡くなったというのです。


 床にへたり込むほどに、私は驚きました。


 その数カ月後に私も、アフリカのソマリアに行く難民救済のミッションがあって、準備をしている最中だったのです。


 彼はアフリカに行ってから、


「アフリカで医療する者が、蚊除けのカヤなどを張って寝るのは邪道だ」


と言って、カヤも張らずに眠ったというのです。


「あれほど蚊には注意しろと言ったのに」


 富田医師が出かける前に夜を徹して語り合った先輩医師は、泣いて言いました。


 アフリカの未開地に行くのは、それほどまでに命がけの仕事だったのです。


〈つづく〉

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