生産職を極め過ぎたら伝説の武器が俺の嫁になりました
あまうい白一
第1話 プロローグ デバッガーのお仕事
※注意
ここはMMORPG『アームドエッダ』の個別チーム攻略ページです。対人に興味がない人は引き返してください。
・『ラグナ・スミス』&『マーシャル』
現状、中小ギルドにおいて最強のチーム。女っぽい顔の《鍛冶師》『ラグナ・スミス』はあらゆる武器を育てて使いこなし、仮面で顔を隠した《戦人》の『マーシャル』はあらゆる技――《戦技》を習得している。強力な武器と強力な技を持ったコンビであり、対人戦の時は下調べが必須である。
二人だけのギルドハウスを立ち上げているので、対人戦を挑む時はそちらを訪問する事。というか打倒した場合は攻略方を報告してくれ! 今の所、個別では何回か倒せてるけど、両方揃うと打倒率が〇パーセントなんだよ! 誰かあいつらを倒してくれ!!
「なーんて、ウェブの百科事典には書いてあったけどさ。あと一年でゲームサービス終了となったら、俺たちのギルドも終わりだよな。なあ、マーシャル」
「ラグナ、それはボクたちが言っても仕方がないだろう。悲しいけれどね」
俺は、自分たちが作ったギルドハウスの中でマーシャルとチャットで話していた。ゲームのサービス終了まで残り一年となった今でも毎日、この場所に集まって駄弁りあっているのだが、それには理由がある。
「しかし、長年遊んだというか、仕事したよねえボクたち。デバッグとテストプレイし続けてもう十年だよ」
「そうだなあ。……このデバッグ用のキャラと付き合い続けて十年と考えると、感慨深くなるな」
俺はそう言いながら、自分の手を見つめる。
鍛冶師、ラグナ・スミスはアームドエッダ運営チームのデバッグキャラだ。
その仕事内容はこの世界の全装備のテスト管理。ゲームバランスのチェックと、バトルバランスの確認と、多様にある。そのため、普通のキャラにはない運営だけの能力というものがあり、
「十年もやると、俺達のステータスもおかしなことになってるよなあ。……マーシャル、お前の筋力とかカンストしてるしさ」
「あ、『ステータス看破』しないでよー。ラグナと対人戦するとき不利になるんだからさー」
「悪い悪い。ギルドハウスだからつい使っちまうんだよ」
俺には他社のステータスを看破する事で、相手の能力や、所持アイテムを見抜く能力が付けられていた。ただし、この能力はこのギルドハウスでしか使えない。なぜなら、
「まあ、ボクたちは外で運営のシステムを使った瞬間、BAN(退職)を食らうっていう制約があるけどさあ。覗きは良くないと思うんだ。……まさかとは思うけど、外の対人戦でやってないよね?」
「やるわけないだろ。だから、他の人たちは俺たちがデバッグキャラであることに気付かなかったんだし」
他人のステータスを見たり、アイテムの稼働状態をチェックしたり、とやろうと思えばやりたい放題できる力だ。ただ、普段のプレイ中に使ったら専属デバッガーの仕事を失くすことになる。だから対人戦や普段のプレイ時は至って通常の能力しか使っていなかったりする。
他のプレイヤーと条件を同じにしなければバランステストもできないので、デバッグ機能は基本的にこのギルドハウスでしか使わなかった。
「それならいいんだけどさ。うん、普通の状態で高評価を得られたのはよかった。自分たちの戦いやスキル構成の強さが認められたようで、ゲーム終了に対する心残りが一つ減ったもの」
「俺としては、心残りはがっつりあるんだけどな」
「え? 例えば?」
「わかるだろ。この武器たちをお披露目できなかったことだよ……!」
そういって俺は武器をギルドハウスの机の上に置く。
すると俺が置いた武器のステータスが、画面上に出てきた。
【舞い戻った伝説の武器・炎の天魔王を封印せしレーヴァテイン:lv200】
「あー、これ。実装されなかった武器だね……」
「そうだよ! こんなグラフィックまで作って、俺が丁寧に鍛えてテストして、スキルの反映までしたのに、『残り一年なのに鍛えるのに時間が掛かりすぎるからダメ』ってないだろ! しかも、六つともだぞ!」
俺は残り五つの武器をテーブルに置く。槍に盾に杖に楽器に斧。そのどれもがレベル200まで鍛え上げた、未実装の武器だ。
「一つ鍛えるのに素材を集めて、何か月もかけて究極まで育て上げたのに……。未実装で、お前みたいな同業者にしか見せられないとか、ひどすぎるだろ……!」
「鍛冶廃人な君と一般プレイヤーを比べたらだめだと思うよ? これ、全部武装レベル200だし、それにスキルも全部個別についてるしさ」
MMORPG『アームドエッダ』。その特徴の一つに「武装レベル」というものがある。
武器や防具に固有のレベル設定がされており、レベルを上げれば上げるほど能力値やスキルスロットが増えていく育成要素だ。
キャラの最高レベルは255で、武器の最高レベルの200までと少し低く設定されている。
ただ、低いと言ってもレベル100代後半の武器を使えば、大ボスクラスならワンパンで沈められる。レイドボスだって、レベル190代があればとんでもなく楽になったりする。
そのせいでゲームバランスが難しくなって運営としてはてんてこ舞いになったが、おおむね好評で、俺としても面白い要素だった。
面白さのあまり武器を鍛えまくって、使いまくった結果、鍛冶師という非戦闘職ながら対人戦も普通に勝てるようになってしまった。
……そのお陰で個別攻略ページを書かれたりする羽目になったけれど、そこは仕方がない。
そう思っているとマーシャルがチャットで拍手アイコンを打ちまくってきた。
「うーん、ラグナの鍛冶廃人というか、アホみたいな育成廃人っぷりがよく見えてくるというか、廃人っぷりに制作進行がドン引きして、温情としてこの武器のデータだけは残したってのも分かるよ」
「アホ言うな。しっかり育てて鍛え込むのは楽しい事なんだから! それこそ愛娘を究極まで育て上げるようにな! ――それに俺はまだ実装を諦めてないぞ。称号まで作ったんだからな。『伝説の武器を鍛えしもの』って、腕に六つの星が輝くような紋章が格好良く入るものを……!」
「うわ、本当に腕に紋章が入ってるよ。残り一年なのによくやるなあ」
六つ星の紋章が入った俺の腕を見て、マーシャルは苦笑する。
「でもさあ、ボクも仕様書を見たけれどさ。一般プレイヤーには条件が厳しすぎると思うよ」
「そうか? ボスからのドロップ品を鍛えていったら最強になるとか王道だと思うんだが」
伝説の武器は、大ボスが稀に落とす『錆びた○○』という名称の弱武器を鍛え上げ、育てて進化さえる事出来る、という仕様になる予定だった。設定的にはそのボスを封じ込めていたことで、力を失ってしまった武器ということになっている。
例えば、レーヴァテインは『炎の天魔王』というボスを倒して出てくる『錆びた剣』が原型だ。
初期では能力値的にも低いそれを、素材を与え続けて育てることで、『舞い戻った伝説の武器』という名称に進化することになる。
中には武器っぽくないモノもあるが、全部で六つだ。そのうちの一つがこの『レーヴァテイン』となる。
「伝説の武器のレベル上げるのって、めっちゃ素材いるでしょ? 特にレベル百の後半になると数十種類の素材が必要になると思うんだけど、それも全部集めたんだよね」
「おうよ」
伝説の武器のレベルを上げるのは、普通の武器のそれとは比べ物にならない時間が掛かった。しかも貴重な限定素材とか、鍛冶師限定のスキルがなければ上がらない時もある。
「しかもこの能力値なら、もっと簡単にレベルを上げられて、もっと簡単に強くなる武器があるよね。そりゃ、実装はされないよ。ロマンすぎるし、時間もかかりすぎるし」
「ロマンで何が悪いんだよ……! 弱い武器を育てまくって強くするのが育成の醍醐味なのに! 時間が掛かるのも育成の楽しみだろ!」
「……どれだけ時間かかったんだっけ? 運営権限は殆ど使わなかったんでしょ?」
「勿論。デバッグという名のテストプレイだし、ちゃんと普通に育成したさ」
いくらデバッグプレイヤーといっても、運営から無限に素材を貰えるわけじゃないし、生み出せるわけでもない。普通のプレイヤーと同一条件で素材を手に入れる必要があった。
「でも一本につき年は掛かってないぞ? 鍛冶キャラといっても、レベルは255はあるし。結局、素材はドロップ運頼りだったけど、回転数上げればすぐだし」
のゲームではキャラごとに設けられた『固有スロット』に、取得したスキルを入れておくだけで、効果を自動で発動させる事が出来る。現在、俺の防具や武器のスロットにセットされているスキルは、
『幻影武器展開』『体力・鍛冶ポイント吸収』『装備接収』
というものになっている。
武器展開のお蔭で敵モンスターの傍に行くと攻撃が自動で開始され、倒したらドロップ品を全て回収する。ついでに体力と鍛冶の時に使うポイントも稼ぐ。
とても雑魚処理&ポイント集め&素材集めに適した構成だ。
これに技やスキルを盛りまくった伝説の杖を装備すれば、あとは簡単だ。
「ボタン押しっぱで移動しながら辻斬りして、偶に範囲魔法攻撃して作業しまくるだけだったんだよな。大体夜通しだったが」
「夜通しって……仕事は大丈夫なの? 普通の仕事もやってたんでしょ? 時間の捻出方法おかしいでしょ」
「イインダヨ。他の趣味なんてないんだから……。まあ、一回倒れて、病院行って点滴打ったけど」
「うん、点滴打つほどやるって、時間じゃなくてキミの頭おかしかったんだね」
「育成が面白かったから仕方ないだろ! ……未実装になったけどな!」
そんなやり取りしながら、俺はマーシャルと笑いあっていた。だが、
「でも、本当にこのゲームが終わるとなると、寂しくなるね」
不意にマーシャルがそんな文章を打ってきた。
「ああ、俺もだ。未実装な武器だけじゃない。鍛え上げた武器たちも、倉庫にたくさん眠ってる。何百とあるのに、お披露目できないのはつらいわ」
「はは、本当に武器と育成を愛してるね、ラグナは。――でも、ま、そうだね。残り一年はあるんだ。それまでに武器を使ってやればいいんじゃない?」
「だなあ」
ボスを相手にしてもすぐに倒してしまう位の強さだから、使い道は限られているが、使わないままでいるよりは良いだろう。
……ただ、どうあっても未実装だった伝説の武器は使えないんだけどな。
っても仕方のない事だが、やはり少し悲しいものだ。
「ま、討伐に行くとしたら明日からだな。今日はこれから資料を作らなきゃいかんし、落ちるわ。……性能的に杖だけでも終わる前に実装したいし。今度のアプデ狙ってな」
「ああ、まだ諦めてないというか、会社に泊まっていたんだね……。まあ、頑張って。ボクも今日は落ちるよ。また明日、ラグナ」
「了解ー。じゃあな、マーシャル」
そして俺はマーシャルを見送った後、育て上げた自慢の武器たちをギルドハウスに飾っておく。未実装でも、ギルドハウスの中はデバッグ用の空間であるため、データが残っている武器なら飾る事が出来る。だから、今日の資料で使う伝説の杖以外を飾っておく。
「いい眺めだ」
願わくば、育て上げた武器たちが、少しでも活躍できる場所を作れればいい。
そんな思いとともに、俺は眼をつむって、一休みしようとした。
●
――そんな夢を、俺はずっと、見ていた。
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