カルテット番外編「岬の風」
椎堂かおる
第1話
真夏の陽射しに焼けた白い砂の上に放り出すと、極彩色の魚たちはそれぞれ苦しげに身をよじって飛び跳ねる。首を振って、海水で濡れた髪から水気をとばすと、イルスは足元に落としてある今日の獲物を見下ろした。
鮮やかな青と黄色のマダラ模様の魚が3匹と、派手な赤のヒレをつけた黒いのが2匹、そのどれもが、横腹に銛(もり)で突かれた痕がある。すぐそばの砂に突きたてた銛(もり)を引きぬくと、イルスは細い葉を編んで作った魚篭(びく)の中に、無造作に魚たちを放りこんだ。
この暑気だから、早く庵に戻らないと、魚が死んで味が落ちるだろう。今夜の食卓には、とくに新鮮なものを並べたいとイルスは算段していた。
最後に掴んだ黒い魚は、つい今しがた息絶えていたらしく、ぐったりとして抵抗しなかった。
死(ヴィーダ)。イルスは小声でつぶやいた。
死んだ魚は、晩飯の材料になる。自分が死んだら、何になるのだろうかと、イルスは思った。少なくとも、誰かの晩飯でないのだけは確かだ。
濡れたまま服を着たので、体からは潮の匂いがした。振り返ると、海は晴れ晴れとした青だ。
ふと、波間に淡い黄色の花が浮いているのが見えた。
どこかから、風に乗ってやってきたのだろう。波に揺られ、何度か浜近くをさまよったあと、花は大波にさらわれて、再び海へと旅立っていった。
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