終わらない流血
カラハン主催の民族会議から一週間も経たないうちに、ガストーニが暗殺された。
このことはエゲリア人、非エゲリア人双方に衝撃を与えた。
トリスターノは親エゲリア的な姿勢を取っていた彼の死を悼み、敵対的な勢力の仕業と断定して非難した。
カラハンたちはそれを否定したが、トリスターノは聞く耳を持たず、エゲリア人、ルーン人、親エゲリア的なヤヌス人議員以外は議会からの追放を宣言した。
国中に広がる憎悪と怨嗟の声。
巻き起こる暴動の嵐。
自民族の権益保持に走るトリスターノによって、国の分断は決定的となった。
そしてカラハンによって、以前招集した民族を再び集めた。
ヤヌス人の代表者は反エゲリアの人物が新たにやってきた。
「どうもブリオです」
新しいヤヌス人の代表者ブリオが挨拶する。
「来てくれてありがとう。今回の議題だが、議会から追放された我らの取るべき道についてだ」
「戦争以外ありませんな」
ペルシエが即答した。
「軽率な発言では?」
カラハンはペルシエをたしなめるが、言い終えるより先に、ブリオがそれに同調する。
「戦うしかないでしょう。話して通じるような情勢ではありません。それに戦力は既にあります」
「独立戦争で動員した民兵か。それだけで大丈夫か?」
「もちろんです」
ブリオは自信満々に答えた。
「我々には戦車のような機動力と火力を兼ね備えた兵器はありません。なので簡易的にそれを補うために、バイクに無反動砲を取り付けたものを用意しています」
「数は揃っているのか?」
「ええ、もちろんですよ。独立戦争時に武器庫を占領して、無反動砲を大量に確保しました。バイクは市販のものを調達しました。バイクは予算次第で更に増やせます」
武器庫は戦争時に各民族の武装勢力が奪取している。
その時に得た武器を現在も保持している。
他の二民族もエゲリア人政府の打倒を声高に叫ぶ。
今回の政府のやり方に、かなり憤っているようだ。
こうなるとカラハンも抑えられない。
「わかった。戦うしか道はないようだ。だが戦争目的はどうする。諸民族の独立か? それとも健全な連邦国家の成立か?」
「連邦制でなくては、ニブルヘイムに相手にもされないだろう」
ペルシエの発言に、他の民族も同調する。
「我々はオストラントを真に諸民族が平等な連邦制国家へと導く、そのために反動的なエゲリア人政府を打倒する!」
カラハンは拳を突き上げ、代表たちに高らかと宣言した。
それは彼が覚悟を決めたことの現れでもあった。
「諸民族に自由と栄光を!」
その言葉に代わって、代表たちはカラハン支持を表明した。
******
大陸暦343年7月10日 帝国首都エーリューズニル
二週間前、オストラントでは非エゲリア人勢力の自由民族連合が武装蜂起した。
迅速にオストラント南部の交通の要所を占領し、非エゲリア人を寝返らせて各地の軍事施設を占領している。
占領地を急速に拡大しつつあり、政府軍の対応は後手に回っている。
ニブルヘイムは同盟国として、何かしらのアクションを起こすべきかどうかの対応を協議することにした。
「正式な出兵要請は来ていない。なので連絡があるまで軍の動員用意をしておくに留めてよいでしょう」
ヒルデブラントはそう言うが、アルフレートは不満げな表情を示した。
「現地に駐留している部隊を動員して、早期に鎮圧するのがよいだろう」
「しかし、戦争がようやく終わったというのに、他国の内戦に介入とはいかがなものかと」
「だがこれを放置して、状況が悪化したらどうする? 先手を打って鎮圧したほうがいいだろう。駐留軍の出撃と、国内にいる戦力の動員をかけて、有事に備えるように」
「……御意」
ヒルデブラントは不承不承ながら命令を受けた。
アルフレートの命令は全軍に伝わり、軍は臨戦態勢を取り、駐留軍は反乱の嵐が吹き荒れる南部への出撃を開始した。
オストラント駐留軍は一個艦隊に随伴の四個師団が全軍である。
果たしてこれで十分な戦力かどうかは、この時点では不明である。
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