傷付きにゃんこ

しほ

1話 出会い

地味で冴えない奴は学校でいじめられる

まぁありがちなことだ。

けど人生って一体何があるかわかんないよねって!

これは、そういうお話。


晴れわたる空にがやがやと賑やかな生徒達の声、始業を告げるチャイム。

そんな中僕は今まさに屋上から飛び降りようと試みている。

「……ハァ」

深い息を吐きずるずるとフェンスを前に力なく座り込む。

どうしても飛び降りることが出来ない、

この上なく人生に絶望していることは確かなのに。


「あー」


意味もなく声を出す。

本当は叫び出したいのを無理矢理抑えた結果だ。

そしてもう5限目は始まっているだろうに行く気になれない。


(しにてぇ……)


座り込んで足を抱えている腕に顔を埋める。

涙が出そうだ。


きっかけは何だったかもう覚えていない。

人とはちょっと違っていたとか髪型がダサかったとかそんな程度のことだったような気もする。

気付けば当たり前のようにクラスの皆から無視されたり笑われたり罵倒されていた。

何足上靴が消えたか分からないし、

ノートは何冊も裂かれたり、らくがきされたりで使い物にならなくなった。

歩いてれば突き飛ばされるし蹴られる。

挙げ句の果てに「まだ生きてんのぉ?キモッ」と来た。

お陰で毎日眠れないし何も無いのに涙が出るし

食べ物を吐くようになってしまったし時々身体が痙攣したり、震えたりするようになり精神的なダメージだけではなく身体的にも異常が出始めた。

もういい加減限界なのでお望み通り死んでやると教室を飛び出し屋上まで階段を駆け上がってきまでは良かった……のに。


(死ぬ勇気もないんだ、俺は)

生きる勇気も無いけれど。


(いっそ何も感じなくなればいいのに)

心底そう思った。

そうなれば死ななくても済むんじゃないか本気でそう考えたのだ。


(でもそんなの無理にきまっ……)


『呼んだかにゃ?』

「……え?」


突然背後から声が聞こえて驚いて振り向く。

そして更に驚いて思わず二度見した。


「……猫が喋って二足で立ってる……!?」

「別に今どき珍しくないにゃ」

「珍しいわ!」

「あにゃまぁ 」


ついキャラでもないのに突っ込んでしまい、

少し恥ずかしくなり思わず顔を手で覆った。

なんで、なんでこんなとこに猫がいるんだろう?

なんで喋ってるんだろう?

なんで平然と二足で立ってるんだろう?


頭の中はパニックを起こし様々な疑問が浮かんでは消えていく。

結局出た言葉は一つだけだった。


「なんで?」

「どのにゃんで?」

「……」

「……」


しばし互いに見つめ合い出方を探り合う。

場の緊張感にごくりと唾を飲み込む。

先にしびれを切らしたのは猫の方だった。

猫はコホンと1つ咳払いをすると、口を開けた。


「ぼくは君の救いになるかもしれない存在にゃ」

「は?」


突拍子もないセリフにまたも疑問符が浮かぶ。


「君は、何も感じなくなればいいと言ったにゃ」

「確かに言ったけど……」


猫は俺のテンパり具合をよそに身ぶりてぶりしながら語っていく。


「ぼくならそれを叶えることが出来るにゃ」


えっへんとでも言いたげに得意気な顔をして両手を腰に当てる。

俺は未だに話に理解が追い付かずぽかんとした表情のまま動けないでいた。


「まぁ理解出来なくていいにゃ、とりあえずぼくを側に置いとけば君の望みは叶うとでも思っとけばいいのにゃ」

「……う、うん」


こうして僕と猫の奇妙な1週間が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る