第7話 従魔登録
さて、パーティ全員がきれいさっぱりしたところで、
ひとつ早めにやっておくべきことがあったね。
それは、ジュリオを冒険者ギルドで僕の従魔として、正式に登録すること。
この登録を怠ると、魔物を盗まれてしまった場合などに、
盗難届けとしてギルドで依頼を出すことができないし、従魔たちを戦わせる公式な魔物使いの大会にその魔物を参加させることができない。
従魔にできたということの確認と、登録さえしておけば、
人々にどう見られるかは別として、町の中でも自由に従魔を連れて歩くことができるから、これから色々と連れ歩きたい僕としては早く登録を済ませるのが良いだろう。
というわけで、クックとルングには宿屋で留守番しといてもらって、
僕とジュリオで冒険者ギルドまで歩いて向かうことにした。
「あっ!お城の護衛さんだ!けーれい!」
冒険者ギルドへ徒歩で向かっていると、町の子どもがジュリオに対して
敬礼のポーズを取ってきた。そうか、ふつうに見ればジュリオは
人間が甲冑を着てる姿に見えるのか。
こいつは人間じゃないよと教えようとしたけど、
ジュリオがその前に子どもへ敬礼をし返した。
なんで敬礼のことなんて知ってるんだろうか…。
今日町に来たばっかりなのに。たぶんあの子どもの仕草の真似をしただけだろうね。
ティブの町の冒険者ギルドは、町の東の端に設置されている。
4階立てで高さは15m、幅も同じく15mほどはあるであろう大きな建物で、
1階には依頼を受ける受付、2階には今から向かう冒険者登録手続きのスペース、3階には冒険者たちの情報交換を行うバー、4階にはギルドマスター室が設けられている。
地下1階があるって噂も聞いたことがあるけど、
あまり関わり合いにならない方が良いらしい。
ギルドに入ると、中にはたくさんのむさくるしい男たちがいて、
仕事について話をしたり、依頼について受付で尋ねたりしていた。
いつもなら魔物使いが来たぞと冒険者たちに白い目で見られるところなんだけど、今回は連れているジュリオが人型だったせいか、
特に僕の方は何も陰口を叩かれはせず、代わりにジュリオが、なんだあの緑の甲冑はとか、くそ暑いのにどういうつもりだとか、笑われてしまっていた。
いつものことだから気にしなくていいよとジュリオに念話で伝えると、わかってくれたようだった。
2階へ上がって、ジュリオを従魔として登録したい旨を受付に伝えると、
部屋の奥へと案内された。そこには魔法陣が描かれた絨毯が敷かれていて、
受付の男性はジュリオに絨毯の上へ乗るよう催促した。
ジュリオは不安そうだったけど、ウインクをしたら、安心してくれたみたいだ。
この絨毯の上では、魔物の種族、身長・体重、レベル・ステータス・ランク分けなどが解析される。
受付の男性が魔法陣に魔力を込め始めると、魔法陣がやんわりと光って、
それから5分ほどして、ジュリオの解析が終わったと伝えられた。
「まず、お名前の方ですが、『ジュリオ』で間違いはありませんね? はい、了解しました。それではご報告をさせていただきます。種族はアーマードゾンビです。間違いありません。ゾンビ系の魔物を従魔にされた方は久しぶりに見たので、少し驚きましたよ。また、性別はオスなようです。身長は175cm、体重は約154kg、成長の痕跡が見られないのでレベルは1、ステータス面では防御力が恐ろしく突出していますが他はまちまちですね。魔法への耐性もふつうのアーマードゾンビと変わらないようです。ランクをつけると、総合力ではB+程度の魔物だと思われます。本来のアーマードゾンビだと、単体ではCランク程度なので、高めのランクだといえますね。 …それでは、セペ様の従魔として、ジュリオを冒険者ギルドに登録させていただきます。これでセペ様の従魔は、クック、ルング、ザバルード、そしてジュリオということになりますね。またレベル上げなどをなさって、情報を更新する必要がありましたら、再びここへいらっしゃってください。今回の登録のお代ですが、今ここでお支払いになりますか?セペ様が泊まられている宿屋は、冒険者ギルドと提携しておりますので、そこの宿泊料に加算しておくことも可能ですが。」
「はい、宿泊料につけといてください。」
「わかりました。ご利用ありがとうございました。…それと、やらしい話ではございますが、あまりジュリオを連れてそこらじゅうを歩き回ることはおすすめしませんよ。ミスリルを見たことが無い人々には価値が分からないでしょうが、いつ有力貴族の手先たちがジュリオを金目当てに盗みに来るかわかりませんから。」
注意されてしまった。そうだね。
確かにジュリオの体重、154kgのミスリルなんていうのは信じられないほどの量だ。
これからは深めのフード付きローブか何かを被らせて、
なるべく甲冑が露出しないようにしたほうがいいかもしれない。
それにしても、従魔登録の受付をしてる人って多才だなあ。
しっかり者で、仕事ができるし、魔法陣を使って魔物の解析をできるし。
おっといけない、そろそろ暗くなってきちゃってるな。
早く帰らないと晩御飯に遅れちゃう。クックとルングも待ってるしね。
今日は本当に忙しい一日だった。
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魔法陣の上に立っていると、誰かが自分の中身を探っている気がして、
気持ちが悪くなってきた。あの受付の男の手で、甲冑の中をまさぐられているような感じだ。
でも、念話のような、しかしマスターのとは違った、
「成長は…。」「ステータスは…!?」といった言葉が小声で聞こえて、
しっかり解析をしてくれてるんだと分かると、楽にしていようと思って身を任せることができた。
5分ほどして解析が終わると、受付さんからマスターへ、俺のステータスなどについての確認があった。
防御力のことについては申し分ないと褒めてもらえたのだけど、
他のステータスに関してとなると話は別なようだ。
…総合ランクがB+では、まだまだ力不足だな。マスターや仲間たちに申し訳ない。
しかし、魔法陣でここまで詳しくステータスが分かるとは知らなかった。
生前冒険者だった頃は、年に何度か行われる体力テストに参加して、
それで色々と計測してたものだけど、魔物となるとテストでは計測が難しいのかもな。
力が強すぎるかもだし。意味が伝わらないかもしれないしね。
宿へ帰る途中でまた、あの敬礼をしてきた子どもに会った。
暗いと危ないんだから、さっさと家に帰りなよっての。
はぁ。でもこれで俺はもうマスターのパーティの一員として、
ジュリオっていう名前を名乗って良いわけだな。すごく嬉しい。
色々なことがあって、今日は長い一日だった。
なんだかどっと疲れが体にのしかかってきてる気がする。
宿屋に帰ったら、ゆっくり休ませてもらうことにしたいね。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
それはザバルードの背中に乗ってティブの町に来て、1週間ほど経った日だった。
俺とルング、そしてマスターは町の近くにある、「貴石洞窟」っていうダンジョンに、経験値集めと資金になりそうな金属の収集のために入ることになった。
中には主にゾンビたちの集団がいて、大して骨のある敵じゃなかったが、
個体数は多いからそのぶん多くの経験値を溜めることができた。
余裕をこいていた俺たちだったが、洞窟に入ってしばらく行動していると、俺とルングの魔力センサーに、何か大きな気配が現れた。
マスターにそのことを伝えてそっちの方向へ走っていくと、
そこには緑色の甲冑に身を包んだアーマードゾンビが一匹で佇んでいて、
俺たちは兄弟の特性を活かした連携プレーで、そいつの足にかぶりついた。
しかし、そのとき歯に感じた感触は、他の魔物たちを噛みちぎる時とは明らかに違うものだった。
肉や筋はもちろん、大抵の魔物の骨までかみ砕くことができる俺たちの歯が、
少しも食い込むことなく、その甲冑に完全に弾かれ、拒絶されたのだ。
俺とルングはその不甲斐なさと痛みに面食らって、
マスターの元へ走り寄った。
思えばこのとき、この魔物が俺たちの最高な仲間の一員として共に旅をすることになろうとは、少しも予想がつかなかったな。
マスターは、さすがのテクニックと包容力で、あっという間にその魔物をスカウトしたかと思うと、ジュリオという名前をつけて宿へ連れ帰った。
そしてこの日より、マスターことセペ・アドヴェント、俺とルング、ザバルード、そしてジュリオを交えた、長くも楽しい波乱万丈の旅路が、幕を開けたのだった。
…でも、この出会いのしばらくあとに、ちょっとした事件が俺たちの周りで
起こったことは、あまり思い出したい話じゃあない。
まぁそれも自由な冒険っぽくて、スリルがあったんだけどな!
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