第20話 ー千客万来の章12- 神に祈れ
「あらあら、のぶもりもりったら、本当に連れてきちゃいましたかあ」
信長は
「確かに先生、少し煽り気味でしたが、本当に人妻をさらってくるとは思いませんでした」
「しょうがねえだろ。状況が状況だったんだ。あのまま、あそこに置いておいたら、命に関わったかもしれねえ」
「それに決めたんだ」
「そうですか、やっと決めましたか」
信長がやれやれ、やっとですかという顔をする。
「ああ、小春は俺が責任もって引き受ける」
「で、
「ひとつ、手があります」
「お、まじか。どんな手だ?」
「神に祈ります」
「はあ?何言ってんだよ。こんな時に冗談か?」
「まあ、わたしに任せておきなさい。のぶもりもり、疲れたでしょう。とりあえず、今夜はもう休みなさい」
でもよ、と言いかけ、
「くそっ。
「いいのです。早く休みなさい。明日は忙しくなりそうですからね」
明けて、9月20日
「もう俺たちには、あとがない!ここは誇りを捨てて、条件をさげるんだ!」
「胸がでかくなくてもいい。きれいじゃなくてもいい。家事全般できるだけでいいんだ!」
「眼鏡をかけていなくてもいい。一人称が僕。それだけでいい!」
「立てば
「ん…。もう手遅れかな」
「なっちゃん!望みは捨てちゃだめなんだよ、最後まで戦ったものが勝利者なんだからね!」
梅は、
「ん…。がんばれ。死ぬ気で」
と言い直したのだった。そこに、
「やあ、
「みなさま、お久しぶりでーす。5日ぶりなのでーす」
「ん…。
「なっちゃん、駄目だよ。野暮なこと聞いちゃ!逢瀬を重ねてたにきまってるでしょお!」
はははと、
「ええ、5日間、たっぷりと、津島の町を堪能させていただきましたのでーす。
「ん…。楽しんでるようでよかった」
「わーい、
「げげ、
「えへへ。にわちゃんは、信長さまに呼ばれて、参上したのです」
すごく嫌な予感がする。絶対、こいつ、なにかとんでもないことを考えついたにちがいない。
「あれれ?信長さまはどこなのですか?にわちゃんは困ったのです」
「ん…。信長さまなら、さっき、舞台のほうに向かって行った」
「あー、信長さまったら、もう、準備がおわったんですねえ。にわちゃんも驚きの早さなのです」
「
それはと
「それは、えんたーてぃめんとの花形、裁判からの即、刑執行のいべんとなのです」
えんたーてぃめんととは、なんだろう、南蛮語なのかなと、ハテナマークを頭に浮かべる
「えんたーてぃめんととは、人々を楽します娯楽という意味なのです。にわちゃんは、考えましたのです。
「織田家、こわいすね。裁判は、えんたーてぃめんとなんすか」
別に織田家に限ったことではない。戦後処理での
「で、信長っちは、あそこで何をやるんすか?
「えーとですね。我が国古来から伝わる
「まった、えげつないのやるっすねえ」
「にわちゃんは知っているのです。信長さまは昔、一度、
まじすかと思わず、
壇上では、信長が
「
「あちらの言い分通りなら、そうなんでしょう」
「だがよ。あのまま、小春を置いといたら、確実にこいつらに殺されてたさ。それでも、俺が悪ってなら、裁いてくれや」
「信長さま。騙されてはいけません。わたしたちは折檻なぞしておりません。どうせ、他人の嫁ほしさについた嘘なのでしょう」
酒屋の大旦那は、こちらも縛られながら、言いたい放題言う。
信長は、ふうと嘆息し
「では、これより
酒屋の大旦那はしめしめと思う
「ひるがえって、ワシが斧を落とさなければ、
斧は、たき火の上に置かれた網の上で、真っ赤になるまであっつあつに焼いてある。あんなもの手に持てるものなどいるわけがない。これで
「さあ、信長さま。はやく裁決を下してください」
大旦那は余裕しゃくしゃくだ。
たき火からパチッパチッと音がする。
斧は持つ者すべてを焼くがごとく、
神に守られているものは、熱く焼けた斧だろうが、熱さを感じずに持つことができると言われている。
信長は神を信じている。
熱田神宮に座する神が、信長を守り、今川義元を討ち取らせたのだと。
そして、再び、神は、正しい信長を守ってくれると信じている。
「いざ、参る」
信長は、熱く焼けた斧の取っ手をがしっと掴み、その斧を天高く掲げ上げた。
「熱くないぞ!神は信長を支持した。よって、
おおおおと会場中が沸き立つ。
「嘘だ、そんなの嘘だ!」
大旦那は泣き喚き散らす。
「酒屋の大旦那は嘘をついてるとし、有罪。
信長は、その泣き喚き散らす頭に向かって熱く焼けた斧を振り降ろした。
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