第16話 魔女の誘惑
突然の悲鳴に今度こそ手の中に刀を作り出した。
急いで扉を開く。力加減を間違えて扉にひびが入りかねないほどの勢いで開けてしまったがそんな心配をする余裕はなかった。
僕がさっきまで考えていたこと。それが最悪の形で証明された。
「三流のテロリストに頼ったのが間違いだったな。自分でやった方がはるかに楽だ」
声から察するに男だ。藍色を基調とした人鎧を纏ったその男は対峙している藤城先輩の剣戟をすんでのところで全て避けながら、けだるそうに言葉を吐いた。
「くそっ!」
思わずそう吐き捨ててしまう。この状況を作ったのは自分の甘い考え方のせいだ。
応戦している先輩を助けるため、僕も黒龍を装着して駆け出す。先輩と違って徒手空拳で戦うしかない。
まずは皆に被害が出ないように外に押し戻す!
「先輩!」
「ああ、分かっている!」
先輩と協力して少しずつではあるが、男を後ろへと下がらせていく。この調子なら外に追い出すことは出来そうだが、一発も当てられないのは辛いものがある。
「はああ……まさか第二形態の人鎧を持ってるやつが二人も学園に残ってるなんて……。教師も二、三年もいないって話だったのによ!」
そう言って男は右手を前に突き出した。構わず突っ込む僕と先輩だったが次の瞬間二人とも驚かされることになる。
一瞬。一瞬だが確かに見えないなにかに動きを止められた。まるで見えない壁にでもぶつかったように体が前に進まなくなった。
なんだ今の……!
「はああああ!!!」
二人とも動きを止められたのは一瞬らしくすぐに相手に向かって駆け出したが、今の不思議な技を警戒して動きが鈍くなっている。
それを嘲笑うかのように隙を突かれて反撃を食らってしまった。僕は脇腹に先輩はお腹にと、一撃ずつ決められる。
「がっ……はっ」
先輩がうめく。僕はというと脇腹からの衝撃が腕に伝わりせっかく治療してもらった傷口を再び開かせてしまった。傷口から流れる血の感触がとても不快だ。
「くっ……なんだ今のは……」
「『特異点』って聞いたことがあるか?」
聞き覚えのない単語なのか先輩は首をひねっている。だが僕はその単語を聞いたことがあった。
異能と人鎧以外の力、都市伝説レベルの噂の中で、だが。
「この世には異能と人鎧以外にも異常なことはある。特異点がまさにそれだ。俺が使えるのは『
一瞬だけ、と聞けば大したこともなさそうだが、実際にこの身で受けるとその厄介さがよく分かる。自分のリズムを崩されるし、なにより接近戦に持ち込んだ時に止められでもしたらカウンターの餌食だ。
「二人イレギュラーがいたところでこれさえあれば特に支障はない」
「……そんなしょっぼい技で勝ち誇られてもな」
精一杯の嫌味を口にするが相手はまるで動じない。
一時停止を食らうのは嫌だが、遠くから炎や雷を打つだけで倒せるとも思えない。僕と先輩は一度だけ顔を合わせて再び相手へ向け飛び出した。
少しでも情報を得るために相対する敵へ叫びながら、拳を振り下ろす。
「お前……この学校に用でもあんのかよっ!」
「こんな学校に用はねえ。俺が用があるのは神之誠だけだ」
「だったら帰れ! ここにはいねえ!」
「知ってるよ」
気まぐれに出される反撃を警戒しながら、なんとかこいつを追い返そうとしてみるが……辛い! しゃべりながら戦うの超辛い! 舌噛みそう!
「知っててなんで……ぬおっ!」
「放送入らなかったか? お前らは神之を呼び出す人質……いや餌だ」
「餌……だと?」
僕の横でひたすら戦いに集中していた先輩が初めて会話に参加する。その声は……怒りに震えていた。
「ふざけるな……!」
先輩の持つ刀から電気が漏れるように走る。びりびりという音は次第に大きくなっていき僕のところにすら飛んできそうだ。
「ふざけるな!」
電気は雷となり男へ駆けていく。その雷撃を見て男は初めて驚いたような声を出した。
「学生にしてはいい攻撃をするじゃないか」
先輩が雷撃を放ち、男がそれを止める。それを繰り返している二人を傍目に見ながら、僕は近くで唖然としている優美に向けてアイコンタクトを送った。
一瞬不思議そうにしていた優美ではあったが、だてに十年も一緒に居るわけではない。優美はすぐに僕の考えを察してくれた。
「はああ!」
もう五回目にはなろうかという先輩の攻撃の直後。ほんの少しだけ空いた空白に僕は無理矢理拳をねじ込んだ。
僕の拳を男が避ける寸前。二人の間に水の球が割り込んでくる。
まだこの学校でろくに使っていないが……優美の異能は水である。そして僕は炎。
この組み合わせを使って中学時代に作り上げた僕と優美の連携必殺技!
「
水球に触れる直前、僕は拳に炎を纏わせた。このまま殴ってもおそらく当たらない。だから当てるための下準備だ!
炎の拳と水の球が衝突する。水は一瞬にして水蒸気へと変わり、僕と先輩、それに男を巻き込んで広がっていく。生身の生徒たちは優美がすでに安全圏に下がらせているため、高温の水蒸気に触れる心配はない。
「ちっ! この!」
なんと相性の悪いことに相手は風使いだった。曇った視界は吹き荒れた暴風によって一瞬にしてクリアに戻されてしまい、炎爆霧中は瞬く間に効力を失った。
だがギリギリ間に合った。僕の二発目の拳はすでに男には避けきれない位置にまで迫っている。当たることを確信した僕は、鎧の下で得意げな表情をしながら大声で叫んだ。
「龍衝烈哭!」
僕が藤城先輩の人鎧を破壊したときに使った、腕に炎を纏わせ全力でぶん殴る技。何かが足りない気がしてまだ完成したとは言えない必殺技だが、それでも威力が低いわけではない。気を貯める時間も稼げたし、僕が今できる攻撃の中では最も威力が高い。こいつにもダメージを与えられる攻撃力にはなっているはず!
「ぐ……あ……っ!」
その予想は当たっていた。
こいつと戦いを始めてから今まで、一回も聞くことのなかったうめき声を聞くことができた。
教室の真ん中あたりからようやく窓のそばまで追いやることができた。今の必殺技のせいで隙ができてしまった僕の代わりに、先輩がこの男を外に追い出すための一撃を放つ。
「藤城流、
男が窓をぶち破って外に吹き飛ばされた。窓が割れる音にまたクラスメイトから悲鳴が漏れる。だが、ようやくあいつをクラスの外に出せた。
「行くぞ、高原君!」
「はい!」
急いで窓から下へと飛び降りる。人鎧のおかげでノーダメージで二階からの飛び降りに成功した僕は、外の景色を見て首を傾げた。
「せ、先輩、ちょっと待ってください」
飛び降りた途端、男に駆け出そうとしていた先輩を呼びとめる。僕は何度も周りを見回して確認したが、自分の考えが間違いではないこと思い知らされるだけだった。
「お前は気付いたらしいな」
声の発生源に視線を向けると、そこには少し苦しそうにしている敵が腹部を押さえながら立っていた。
「な、なにに気付いたんだ君は」
視線を敵に向けたままの先輩が尋ねてきた。人鎧のせいでその表情は分からないがおそらく困惑した顔をしていることだろう。
「静かすぎるんです……」
説明でも解説でもなく、思ったままの事を口にしてしまう。首を傾げた先輩はすぐにその意味に気付き僕と同じように辺りを見回した。
「人が、一人もいない……?」
そう、今テロリストに占拠されているこの学校の周りには、警察はおろか野次馬の一人すらいない。
「お前……通信機器にもなにかしたのか」
「ああ、業者に成り済ましてな」
「業者……そういや二人組だったな。お前の他にももう一人仲間がいるってことか」
あの日見た業者は二人組。その後にもう一回見た時も同じ二人組だった。もしもあの二人のうちのどちらかだというなら、もう一人の方もテロリスト側ではなく、こいつと同じ雇った側の可能性が高い。
「いや、あと二人いるぜ。俺と同じくらいの強さのやつがな」
「はっ、そりゃ絶望的な情報だな。あんまり聞きたくなかった」
そうはいったが、こいつとその仲間の情報は多いに越したことはない。口が軽いのか知らないが、色んな情報を割とペラペラ喋ってくれるこいつから出来るだけ情報を引き出したい。
「その二人もお前と同じで校長に用があるのか?」
「ああ、全員そろってあいつに恨みを持ってる」
「……恨み?」
少ししか話したことはないが、あの人は恨みを買うような人物には思えない。むしろ人から好かれやすそうな気すらする。
「お前、あいつと話したことあるか?」
「少しだけな」
「その時、
「……いや、ない」
小さく『ま、だろうな』と言って男は空を仰いだ。その行動の意味は不明だが、今なら全速で突っ込めば一撃当てられる気がする。
「今のは俺の名前だよ」
先輩と一緒に突撃体制を取っていた僕は、急に語り口調みたくなった男に対し、少し面食らってしまった。
「……なんだよ、自分のことを校長が話題にしなかったから不満に思ってるのか?」
「別に、んなもんどうでもいいんだよ」
普川は吐き捨てるようにそう言ってから、空を見ていた視線を再びこちらに戻してきた。
「俺は昔ある組織で一緒に属してたんだよ」
本格的に語り出した敵に対してどう対応すればいいのか分からなくなる。情報は欲しいが別に昔話を聞きたいわけじゃない。
ていうか思い切り時間を稼いでる感じがするんだが。殴りかかっていいかな。
「裏の世界については何か言ってたか?」
「それについては言ってたよ。あんなところに入るべきじゃなかった的なことを聞いた」
「やっぱりあいつは後悔してるのか」
今すぐにでもバトルを再開したいのだが、まるでタイミングを狙って崩しているかのように普川は方向性の見えない話をまた続けた。
「あいつは組織の中でも一、二を争う強さだった。なのにあいつはある日突然組織を裏切り、こんなところで悠々と暮らしてやがる。裏にどっぷり浸かってた俺たちがあのあとどんだけ苦労したかも知らずにだ! ふざけてる!」
「そんなものはお前の自業自得だろう」
ここにきて先輩が会話に混ざってきた。どうやら先輩はこいつの話を聞くことにしたらしい。ならばと、僕も攻撃態勢は解かないまま話の先を促した。
「で、結局お前は学校を占拠してまで何がしたいんだよ」
「恨みをもった人間のとる行動に復讐以外の選択肢があるか!?」
普川は両手を広げ校舎全体に響き渡らせるように叫んだ。
なるほど話は分かった。けどもちろん納得などできるはずもない。ふざけんな。
「そんなこと、させると思うか?」
「お前には関係ないことだろう。生徒と校長。それだけの関係なのに、そこまで関わる意味はあるのか?」
「意味なんて関係ない」
くだらない質問をしてきた普川に対し、威嚇の意味を込めて強い語調で返す。横で先輩が少し驚いていたが気にせず続けた。
「確かに僕と校長は大した関係じゃない。二回しか話したことないし、血が繋がってるわけでもない。でも、関係が薄いからなんて理由で助けないようじゃ主人公の名が泣くんだよ!」
「高原君……」
先輩が小さく僕の名前を呼んだ。一体どんな言葉をくれるのかと思いその続きを待つ。
「虚構と現実を同じにするのはちょっと……」
「ごふっ!」
先輩の声は明らかにどん引きしている人のそれだった。この戦いの中で一番の大ダメージを負った僕は、わずかな希望を託し敵である普川を見つめた。
「主人公? なんの?」
「素で返された!」
うわなにこれ超恥ずかしい。今すぐ穴があったら入りたい。いっそ人鎧の力を使って本当に穴を作ってやろうか。
「そんなどうでもいいことはさておき、本当に引かないのか? 俺は別に目的の邪魔にならないなら殺さないつもりなんだが」
「そういうことらしいんで先輩は帰ってください。僕一人でやるんで」
「帰るわけないだろう」
即答で返され思わず苦笑いしてしまう。この人も校長と特につながりがあるわけでもないのにここまでしようとするなんて、もしかしたら相当な変人なんじゃないか。
「もう一度だけ言う。ここで引くなら見逃してやる。お前たちは助かる、俺は手間が減る。お互いにメリットしかないと思うが?」
「死ぬのは怖いさ。だが剣の道に生きている者が命惜しさに他人を見捨てるなどあってはならない」
「僕は主人公だから死なない。よって問題ない。何回も言わせるな、却下だ」
「……気味の悪い高校生だ。なら誰でも死ぬってことを教えてやる」
なぜか僕の方だけを見ながら普川は呟いた。と、そこで急に相手が耳に手を当てる。
「……分かった、すぐ行く」
この状況でもつながる専用の通信機でも取りつけていたようで、二言三言言葉を交わすとまた僕たちに話しかけてきた。
「準備が出来たようなんでな、もうお前らと遊んでる暇はない」
軽い感じでそう言った普川の手には先輩の持っている刀よりも小さい小刀が握られていた。
あれは……専用武器か?
「これは
聞いてもいない説明しながら、あいつは猛スピードで先輩に近づいてきた。刀を持っている分間合いの広い先輩が、小刀の間合いに自分が入ってしまう前に刀を上から下へと振り下ろした。
はずだった。
先輩の刀の切っ先が普川の頭へと当たるその刹那、風斬という名らしいあの小刀が、先輩の一閃を弾き、胴に一撃を入れる。先輩を吹き飛ばし、そのまま僕へと標的を変えた小刀を僕はギリギリ視認することができた。しかし、視認できたところで体が動かなければ意味はない。小刀を避けることが出来なかった僕は、その小ささからは想像もできないような威力を胸に受け、成す術もなく吹き飛ばされた。
「言ったろ、俺も裏の世界に居たって。そんな俺がただの高校生に負けるわけないだろうが」
「こ、の……」
「……一人くらい連れていっとくか」
僕のうめき声が耳に届いていないかのように普川はどこかを見ながらぶつぶつと独り言を言っていた。その視線の先にいたのは僕たちの戦いを心配そうに見守っていた優美だった。
「!? きゃあ!」
普川が二階まで跳び優美の目の前に着地する。優美の悲鳴を聞いて体を起そうとするが、力が入らない。
「動けよ……!」
僕がもがいている間に優美が普川に気絶させられる。その光景を見ても僕は腕を数ミリ動かすだけで限界が来てしまった。
「高原君! 大丈夫か!」
僕とは違ってすぐに動けるようになったらしい先輩が駆け寄ってくる。体を動かせない僕は声だけで優美を助けてもらうように頼んだ。
「ああ、分かっている。動けるようになったら君追ってくるんだ」
「……よろしく頼みます」
それだけ聞いて先輩も二階へと跳んだ。音から察するに先輩だけでなくクラスの皆も優美を守るために応戦してくれているらしい。
だが、ついに普川は優美を持ったままどこかへ飛び去ってしまった。もちろん先輩もそれを追うために飛行し始めたが、普川が手をかざすとまた先輩の動きが一瞬止まってしまう。
「やあ、ずいぶんと辛そうじゃないか」
後ろから急に声をかけられる。首を動かせないせいで顔は見えないが誰かはすぐに分かった。
「なんか用ですか……先生」
ついさっき話してきた詩園先生。しかしなんで先生がこんなところに?
「実は最初から君たちの戦いを見ていてね。一般人相手なら戦える私も、さすがに異能使い相手の戦いじゃ足を引っ張るくらいしかできないから隠れていたわけだよ」
「それ、先生としてどうなんですか……」
「そう言うな、だから先生としてこうして助けに来たんじゃないか」
「助け……」
一体この状況でどんな風に助けてくれるのだろうか。まさか真の力に目覚めて優美を救いだしてきてくれるのか?
「大したことはできないが、君がまた動けるようにするための手助けくらいならできるぞ」
「……僕の体、なんで動かないんですか……?」
「気の使いすぎだよ。君は学習しないね」
そうか、確かに洗礼の時もこんな感じで体が動かなくなった。言われてみれば納得できる。さっきまで気のセーブとかほとんど考えずに戦ってたし……その上この黒龍を纏っているから気の運用が上手くできていないのか。
「ところで高原君」
「なんですか」
「ここに、君が先ほど飲むのを全力で拒んだ薬があるのだが」
目の前に置かれた三角フラスコの中には毒々しい色の液体が入っている。間違いない、さっき僕が保健室で見たあの薬だ。
「この気を吸収できるようになる薬を君がどうしても飲みたいというなら、貴重な薬だが君に飲ませてあげようじゃないか。しかも、美人に飲ませてもらえるというオプション付きで」
正直こんなもの口にしたくない……が、今の僕に迷ってるだけの余裕なんてなかった。
「どうだ?」
「……どうしても飲みたいです」
「素直な子は嫌いじゃない。ほら、人鎧を解きたまえ」
言われた通り黒龍の装着を解除する。生身となった僕の体を先生が抱き上げ、薬が飲みやすい体勢にさせられる。
「一気に飲んだ方がいいぞ」
「え、それってどういう……んぐ!?」
僕が質問するために開けた口の中に先生が無理矢理フラスコの先を突っ込んできた。
ひんやりとしたガラスの感覚を唇が感じる。薬が入ってくるまでの数瞬で覚悟を決める。
そして――
「んん!? んー!! んー!!」
なにこれなにこれ! 無理無理無理無理!! 吐く! 吐かせてお願いします!
「こら暴れるな。だから一気に飲めと言ったろう」
短いようで長い地獄の末に、ようやく全てを飲みほした。
「し、死ぬかと思った……」
口元を押さえながらなんとかお腹から逆流してくる胃液を抑え込む。と、そこで手が自由に動くことに気付いた。
さっきまで腕をほんの少し動かすのが限界だったのになぜ?
「飲むだけで、ほんの少しだけだが気が回復するらしいぞ。本当に少し過ぎて五分ほど普通に動いてればまたガス欠になるらしいがな」
僕の疑問を見抜いたように先生が補足説明してくれた。なるほど、なら早く気を吸収しなければ。
「っていうかこれ、思ったより痛くないですね。これなら中二のころに起きた腹痛の方がひどかったですよ」
「そ、そうか……さっきテロリストに飲ませたら気絶したのだがな……」
やっぱりさっき保健室で寝てたテロリストはこれを飲まされてたのか。可哀相に……いや自業自得か。
「あの、どこから気を吸収するんですか? 全回復とまでは望みませんけどせめて半分くらいは回復させたいんですけど……」
「全回復でも足りないよ。ここから全速力であの男を追って、そこからおそらくさらにバトルだ。君のキャパシティを少しオーバーするくらいでちょうどいい」
「そんなの、なおさらどうやって……」
不安げに言う僕に対し、先生は軽く微笑んでから校舎の方を指さした。
「こんな時こそ友情の出番だろう?」
校舎からは一年生の全生徒がいるんじゃないかと思えるくらいに大人数がこちらを見ていた。先生は友情と言っているけれど、あれは友情なんて温かいものじゃ絶対にない。なんせみんなから殺意が感じられる。
「放送を使って呼びかけておいた。これだけいれば必要な分の気など簡単に確保できるだろう。さすがにただ異能を打てだけでは遠慮されると思って多少あることないこと吹き込んであるからほんの少し殺気立っているが……あとで私の方から誤解を解きに行くさ」
「は、ははは……」
苦笑いしかできない僕に先生は真面目な顔になって吸収の仕方を教えてくれる。
「利き手を前に出してイメージするんだ。いつも異能を使う時の逆の感覚を」
言われた通り利き手である左手を前に出す。そしてイメージ……。
「あ、あの。異能って気が変換されたあとのやつですけど、ちゃんと吸収できるんですか?」
「そこは問題ないが、百パーセント吸収することはできないよ。それがたとえ変換されずにそのまま放たれた気でもな。だから生身でやると腕が大ダメージを食らうハメになる、人鎧を装着してからやるといい」
そういうことはもっと先に言ってほしいと若干思わなくもなかったが、とりあえず忠告通り黒龍を装着した。
ここで、早くも気が切れかけてしまう。先生に準備ができた事を伝え出来るだけ早くしてもらうように頼んだ。
「大丈夫だ。あとは彼女たちが君に殺意を……間違えた、異能を放つだけだ」
「ちょっと!?」
「それでは皆! 彼に想いの丈をぶつけたまえ!」
先生の声を聞いて各々が異能の準備を始める。四種類の異能が大小さまざまに校舎を飾り立てる。
そして、先生が言ったように全員が胸にしまっていた思いの丈をぶつけてきた!
『死ねええええセクハラ魔あああああああ!!』
「なんでだああああああ!!」
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