世界征服の手引き
剣崎一
序章「材料は、とっておきの相棒です」
この世界は、僕を不適合者と呼んだ。
「こんにちは、みなさん」
僕はまだそんな感情を残す、諦めの悪い、本当の意味での不適合者だ。
このクラスでも、家でも外でも、きっと目の前で挨拶をするこの少女にとっても、おかしいのは僕で、世界は変わらず回っているというのに。それなのに、
「転校生の、
僕はいつまでも、自分の居場所を求めている。
不気味なほどに静まったこの教室で、彼女は視線を広く笑顔を振りまいている。おさげにした黒髪が、優等生を主張するかのように揺れていた。
僕は、机に頬杖をついて、彼女を眺めていた。――長い前髪の隙間から、最近は何にも興味の湧かない目で彼女を見上げてはほかのことを考えていた。
こんな世界になってしまったのならば。いや、僕が世界をこんな風に見てしまっているのならば、
「ところで、一つだけ言いたいのですが」
――いっそ、この世界を壊してやりたい。
「はぁ・・・・・・」
僕はいつからこんな感情を持ち始めたのだろうか。軽い自己嫌悪に襲われて、ふと窓の外へと視線を移した。
本当に、変わったのは僕の方なのだと、全てがそう
もともと自己主張が激しいわけではなかった僕でも、高校入学と共に世界が変わったような、そんな気がしてならなかった。
僕は取り残されたのか、それとも、地球の廻るその道を外れてしまったのか。
視線を戻すとさっきまで笑顔を振りまいていた転校生が挨拶を終えたのか、僕の目の前に立っていた。
「君、家が近いはずだから、放課後、一緒に帰りましょう?」
「・・・・・・はい?」
「了承確認、それじゃあ約束は守ってね。また放課後に」
何が何だか分からなかった。優雅に手を振る彼女をじっと見ていると、彼女は怪訝な目つきで僕の前髪越しの目を覗いた。
「何か言いたいことがありそうね、
「名前っ・・・!? お前、俺なんかに近づいて、何がしたいんだ?」
僕の反応にくすくすと笑う彼女に、気味が悪く感じた。意図が読めない。
名前を知っていれば、必然的に知っているはずだ。僕のこの、不適合者という肩書き、レッテルを。
「そうね・・・・・・強いて言うなら」
そのとき、僕は両手を机の上で微かに震わせた。首を傾げて僕の目を覗く彼女の目が、炎のように深くまで透き通って、怪しげに光っていたから。
「世界征服、なんて言ったら驚く?」
・・・・・・この女は、心でも読めるのか。それとも、大規模なテロリストの回し者なのか。
測りかねていると、いつの間にか、彼女は教室からすっと消えていた。目の前から、魔法でも使ったかのように。
どこを見渡しても、あの炎は、教室から消えていた。
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