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近藤 セイジ
プロローグ
ライブハウス、というものがある。
ここでいう『ライブハウス』は、千人以上入る大きな華やかなところではない。百人も入ったら、息もできなくなるぐらいの狭くて暗い場所のことである。ほとんどの場合、天井は低くて、トイレは臭い。酔っぱらいも多い。いまだにタバコ臭いところが多い。
この『ライブハウス』には、毎晩四バンドか五バンドぐらいが出演し、自作の曲を歌っている。歌っているのはだいたい一人だけで、他の人は弦を弾いたり、鍵盤を押したり、太鼓を叩いたりしている。それらの音は、普段町中では聴いたことのないぐらいデカい音だ。
ほとんどの『ライブハウス』は、二十~三十人ぐらいしかお客さんが入っていない。ひどい日は、三人なんてこともある。お客さんのほとんどは、バンドメンバーの友達だ。友達じゃないお客さんのほとんどは、対バンと呼ばれる同じ日に出演していた他のバンドのメンバーである。
こんな『ライブハウス』が東京だけで百以上もある。全国だとおそらく千以上はあるだろう。この国では、少なくとも毎晩四千ものバンドが自作の曲を演奏している。ほとんどの曲は、まだ誰にも知られていない。そして、ほとんどの曲は、これからも知られることはないだろう。いくつかのバンドは、今夜初めてのライブを終えたところだろう。いくつかのバンドは、今夜最後のライブに挑もうとしているのかもしれない。ほとんどのバンドは『ライブハウス』から次のステージへ行けないまま解散していく。
この話は、そんな『ライブハウス』で見つけたフリッカーズという名前のバンドの話である。
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