人外の湯へようこそ変態

ちびまるフォイ

それが見られれば、どうなってもいい

「なん……だと……!?」


温泉につくと、男湯、女湯のほかにものれんがいくつも並んでいる。

サキュバスの湯に、ナーガの湯、人狼の湯に、フェアリーの湯などなどなど……。


この世のすべての種族を網羅したかのようなラインナップに俺は思わず硬直した。


「温泉地で有名なのは知っていたが、人外もやってくるなんて。

 これは見てみたい!! どうしても見てみたい!!」


あまりに女性にモテないことから、非モテをこじらせて二次元へと逃げ込み。

よりニッチな二次元嫁を求めるうちに、人外に興奮するようになった。


そんな自分にとって、人外のあられもない姿を生見できるのなら

一生塀の中で暮らすことになってもなんらかまわない。


「さて、問題はどの生物の湯にいくか……」


選べるのはおそらく1つだろう。

中に入って、誰にも気づかれないように潜入して人外の裸を舐めるように見る。

別種族のところへ行く余裕なんてないだろう。


のれんの前でうろうろしながら、自分の好みと現実での成功率を天秤にかけては頭をかきむしる。


「人間の姿に近い人外生物が興奮するのではあるけれど……。

 やっぱり、人間より遠い生物の方が知的好奇心が刺激されるし……うぅーーん」


かといって、ここでふらふらしていても怪しまれるだけ。

意を決して中に入ったのは「ヨルムンガンドの湯」。


「すごいな、生物の名前を聞いてもシルエットが浮かんでこない!

 これはさぞや一生見られないものが拝めるぞ!」


変態に変態を上塗りした俺の性癖は、人外であるほどに好奇心と一緒にあれが反応する。

脱衣所の前には立札がどんと置いてあった。



【警告:この先にいるのは世にもおぞましい生き物です。

    関係者以外の立ち入りを固く禁じます】



「おぞましいって、客に使う言葉じゃないだろ」


のれんをくぐって腹を決めた俺は立て札を素通りして先へ進む。

脱衣所につくと人……ではなく、人外の気配を確認する。


「よし、誰もいないな……」


気配を殺しながらゆっくりと脱衣所と風呂場を隔てるガラス戸へ向かう。

ガラス戸のひやりとした感触を背中で受け止めると、この先の期待値で顔がゆるむ。



この先に裸の人外が待っている。


この先に裸の人外が待っている。


この先に裸の人外が待っている。



「ふほほ、ようし開けるぞ!!」


体からこみ上げる鼻血をぐっとこらえてガラス戸を開けた。

湯気が晴れると、同じように鼻をのばした男たちと鉢合わせした。



「えっ……」



すべての脱衣所から、行き先は同じ温泉につながっていた。

どの脱衣所を選んだところで行きつく先の風呂場は同じ。


同じ風呂場に行きついた男たちは、みな誰一人欠けることなく変態の花園へと完全に踏み込んだ顔をしていた。

目は血走り、息はあらく、鼻血を流して、下半身は……描写を避ける。





帰り際、入る前に見た立て札の裏に書かれた文字が目に入った。


【ここは人外(ケダモノ)の湯】

と。

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