Last Day ~この世界が終わりを告げる~

虎視眈々

Prologue1

 22世紀、日本。科学が急激に発達し日本は劇的に変わった。もし21世紀の人間が今の日本を見たら、何と呟くのだろうか。感嘆を吐くだろうか、それとも21世紀に生まれたことを嘆くのだろうか。


 そして今現在、教育機関も比類ないほどになった。21世紀に開発されたVRM(Virtual Reality Mobile)は仮想世界へのダイブを可能とし、22世紀には教育に実践されることとなった。


 西暦2116年、国立東啓学園にて俺-室山 鈴喜は教室の一番窓側の席に肘をつき、座っている。担任の注意事項を聞きながら夏休みを迎えようとしていた。

「-と、明日から夏休みになります。皆さん、また夏休み明けに会いましよう(ニコッ)。」


《シャットダウンが実行されました》


 機械音声が鳴り、視界が暗くなる。

「ふぅ。明日から夏休みか。何しようかなぁ。」

 VRMを外し、呟く。


 普段通り、学校後のコーラを飲もうとしたが、

「あ、コーラ切れてるや。買いに行かなくちゃ。」


 私服に着替え、準備をする。


 昼食も買いに行かなくちゃいけないな。今日は丼物がいいかなぁ、それとも-


 --助けて


 ん?気のせいだろうか、何か声が聞こえたような気がするのだが…まぁ、気のせいだろう。


 そして俺は自室を後にした。


「うわぁ。平日だっていうのに今日も混んでるなぁ...」

 そうボヤきながら俺は渋谷スクランブル交差点を歩く。


 と、その時


「-室山 鈴喜様でございますね」


 振り返ると、そこには一人の紳士が頭を伏せて立っていた。顔は伺えないが、背丈は180cmほどだろうか、俺よりも少し高い程度だ。太くも細いとも言えない体系で、漆黒のスーツを身に纏っている。


 俺は返事をしていないことに気づき、


「そうですが、何か僕に用があるのでしょうか?」


 その紳士は顔を上げながら答える。その顔は整っており、目は鋭く、白髪ではあるが綺麗に整えられ、如何にも執事のようであった。


 コスプレか?


「私の名はセバスチャンと申します。バトラー(執事)をしております。単刀直入に用件を申し上げますと室山様、貴方様はこの世界が退屈ではございませんか?」


 この世界が退屈?何を言いたいのだろうか。まぁ確かに、この世界は退屈だ。


 俺は昔、ヒーローに憧れていた。ヒーローは弱き者を助け、悪を裁く。その姿に夢を抱いた。ヒーローに近い職業が警察だった。警察は犯罪を取り締まる、謂わば世のヒーローだった。しかし科学が発達していくにつれて犯罪係数が予測されるようになり、犯罪が取り締まられた。22世紀では犯罪が起こらないものとなった。そうなれば警察という職業は、世からその影を消していくのだ。そして俺の夢は叶わぬものとなった。


 今では自堕落な生活を送っている。叶わぬ夢を抱くが故に世界が退屈に思えたのだ。


「ああ。貴方の仰る通り、この世界は退屈だと僕は思う」

「では我々の世界を救うために協力してくださいませんか?」

「世界を救う?」


 このおっさん、この歳で厨二病か?孫にどんなことを吹き込まれたのやら。


「はい。実は我々の世界には魔王4人、大魔王が1人いるのですが、その魔王達に世界侵攻の兆候が見られます。世界が魔王領と化してしまう前に、室山様には我々を救っていただきたいのです。」


 痛い、痛いよ、ママ〜。ここに痛い人がいるよぉ〜。え?魔王?何そのファンタジー感溢れる用語。


「真面目に聞いていらっしゃいますか?」


 あ、睨まれた…。


「あ、ああ、真面目に聞いていたとも…」


 さて、どう返したらいいものか…。まぁ、この話が本当ならば俺はヒーローになれるというわけだ。それは願ったり叶ったりである。そして俺は疑いながらも、この申し出を受けることにした。


「それを僕は信じ難いですが請け負いましょう」


 何かといって、俺は頼まれごとに弱いのである。


「そうですか、では一回死んでください」


 そうセバスチャンという男は笑顔を浮かべながら告げるのだった。


「え?何を言って-」


 グシャァ!


 セバスチャンの手が俺の胸を貫き、セバスチャンはその真っ赤に染まった手を引き抜く。


 胸を見るとポッカリ穴が空いていて、自分に何が起こったのか理解する間も無く俺は地面に伏すのだった。


(苦しい…息が…。誰か…)


 --そうして室山 鈴喜は、17年という短い人生に終わりを告げたのだった。






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