第55話 彼らの死亡フラグが留まるところを知らない

NAME:Tenchi Hibino

LV:4

STR:28

AGI:32

INT:38

MP:23/34

SKILL:Seasoning,Magical cooking

(『調味料』『魔法の料理』)



NAME:Hime Hibino

LV:3

STR:29

AGI:48

INT:56

MP:22/22

SKILL:Assassination

(『暗殺』)



NAME:Meguru Amayagi

LV:14

STR:84

AGI:104

INT:301

MP:162/192

SKILL:Writer,Scanning,Bookmark,Hearing ability up

(『作家』『解析』『ブックマーク』『聴力上昇』)



NAME:Ronin Flockhart

LV:13

STR:127

AGI:169

INT:159

MP:128/146

SKILL:Photographer,Flash,Dynamic visual acuity up,Luck up

(『写真家』『フラッシュ』『動体視力上昇』『運上昇』)



NAME:Gouken Kogarashi

LV:38

STR:665

AGI:513

INT:402

MP:327/398

SKILL:Buster swing,Guard break,Hard crash,Physical strength up,Vitality up,Flame resistance,Cold resistance,Hardening,Recuperative power up,Guts,War cry

(『バスタースイング』『ガードブレイク』『ハードクラッシュ』『筋力上昇』『体力上昇』『炎耐性』『冷気耐性』『硬化』『回復力上昇』『根性』『雄叫び』)



 悲しい……悲しい話をしよう。


 俺達には、ダンジョンでも十本の指に入る実力者であらせられる頼もしき元ヤクザ、マユパパというチート級の心強い『舎弟』(←ここ大事)がいた。

 ゆえに、俺はどんな相手が現れようと「ビビってんのかオェーイ!」と安全な後方から中指を立ててイラっとくる煽りを披露するだけでオールオッケー。

 ……の、はずだった。

 はずだったのに…………。



NAME:Susuki Shinonome

LV:36

STR:351

AGI:412

INT:629

MP:512/512

SKILL:Electric shock,Thunder storm,Thor hammer,Thunder wall,Bind chain,Speed down,Power down,Intelligence up,Reflection speed up,Thunder resistance,Magic penetration

(『電撃』『サンダーストーム』『トールハンマー』『サンダーウォール』『バインドチェーン』『スピードダウン』『パワーダウン』『INT上昇』『反射速度上昇』『雷耐性』『魔法貫通』)



 なーーんかめっちゃ強い人キターーーー!

 おいおい、この人どちらさんだよ?

 愛しのマユの元まで、あとほんの少しってところで……マジか……。


 ……いやいや待て待て。

 まだ慌てるような時間じゃない。

 まだこの人が敵と決まったわけじゃない。

 どうか、マユの件とは全く全然これっぽっちも無関係な、ただの通りすがりの善良な一般人でありますように……!


「よお、東雲ぇ。相変わらずしけたツラしてやがんなあ。もちっと適当に生きた方がいいんじゃねえかぁ? 堅っ苦しいんだよ、おめーはよぉ」

「あんたがそんなに能天気でいい加減だから、一層は無秩序で不衛生なんだ。まあ、それは勝手にすればいいが……娘の教育くらいはしっかりしておくんだったな。断っておくが、処刑の邪魔はさせんぞ」


 はい、完全に敵でしたー。

 しかも、俺の苦手な……イコール陽芽も苦手な、かなり恐いタイプの人種だよ。

 アウトローでパンチの効いた極悪人面のマユパパとは方向性が違う、堅物で気難しそうでドライな不機嫌面。

 どこまでもヤクザらしいヤクザ、キングオブヤクザなマユパパに対して、偏屈な政治家、あるいは気位の高い裁判官のような印象だ。

 この二人、どう考えても相性が悪い気しかしない。


「へっ、昔は俺の背中にこそこそ隠れてたひょろガリのくせに、随分でけえ態度じゃねえか。あんなバレバレな嘘記事までズル賢く拵えて必死に俺を出し抜こうとしたところわりぃが、全力で阻止させてもらうぜ」

「ふんっ、合理的な戦術として脳筋馬鹿を盾に使っていたに過ぎん。記事に関しても嘘などついていない。情報収集班に活動計画の虚偽報告をするのは規則に反するからな。ただ、予定より少し早く準備が済んだだけのことだ」


 …………うん、予想以上に一触即発な感じ。

 向こうには手下っぽい人達が十人もいるけど、一人残らず戸惑ってる。

 っていうか、ビビってる。

 今にも東雲さんとやらが大爆発を起こすんじゃないかと危惧してるかのように、遠巻きにして怯えてる。


「おい天地、ボケッとしてんじゃねえよ。コイツらはただの足止めだ、マユが危ねぇ……お前らは先に行ってろ」

「この戦力差で大した自信だな、凩。一班は私の援護に回れ! 二班は他の奴らを片付けろっ!」

「おっと、そうはさせないよ。その他大勢は私とローニンが引き受けよう。天地君、陽芽君、二人はマユ君の所へ急ぐんだ」


 ……えーっと、つまり…………?

 マユパパVS敵の恐いリーダー&モブ五人。

 そして、雨柳さん&ローニンさんVSモブ五人……ってこと?

 いや、無理無理無理無理!

 向こうのモブが俺と同じくらいのレベルなら何とかなるかもだけど、さっきチラ見したら平均で15は超えてたし。


「さっさと行け、天地! 天地妹! マユを頼んだぞっ!」

「オーウ! ココはオレにマカせてサキにイケー! ってヤツデース。イヤー、イチドイってみたかったんデスヨ~」


 いや、それ死ぬ感じのやつじゃね?

 お願いだから「俺、この戦いが終わったら転職するんだ……」とか「こんな雑魚共、俺一人でも十分だ!」とか「ここが貴様らの墓場だ!」とか「そんな装備で大丈夫かって? 大丈夫だ、問題ない」とか「消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな」とか「時間を稼ぐのはいいが――別に、あいつらを倒してしまっても構わんのだろう?」とか言わないでくれよ?


「お、お兄ちゃん……ど、どうするの……?」

「どうって…………」


 決まってるだろ。

 明らかに分が悪い仲間を見捨てて先に行くだなんて、そんな無慈悲な人でなしがこの世にいるわけないけどまあでもいっか、行っちゃおう。

 うん、行っちゃおう。


「じゃあ、三人とも気をつけて! さあ行くか、陽芽」

「えぇえええっ!? い、いいの……?」


 清々しい笑顔と挨拶を残してオリンピック代表選手も真っ青な綺麗なフォームで颯爽と走り出そうとした俺に、陽芽が驚きの声を上げる。

 え? 俺何か変なこと言った?


「いいに決まってんじゃん。俺達は別に殺されないだろうけど、マユはこのままだと殺されるんだぞ? なら、優先順位はハッキリしてんじゃん。つーか、マユより優先するもんなんて世界中のどこにもねーし」


 あまりにも当然のことを説明してやったわけだが、陽芽は意外そうに俺をじろじろ見ながら口をパクパクする。


「いや……お兄ちゃんなら、その場の雰囲気っていうか……ノリ? に流されて、深く考えないで、それっぽいこと、するかなあって……。今だったら、絶対勝てないのに、勝手に突っ込んで、秒殺されちゃう、みたいな……」

「お前……俺を何だと思ってんだ……」


 まあ、オルトロスの時は概ねそんな感じだったんだけどね。

 マユを助けるという神託にも匹敵する大義がなかったら、今回もそんな無謀な愚行に及んでしまった可能性は大いにあるだろうな……。


「ふふ、君のマユ君に対する盲目的な感情は実に面白いね。そして好都合で非常に助かるよ。さてと……ローニン、やってくれ」

「オウともサ!」


 雨柳さんは不敵な笑みを浮かべてそう言うと、羽織っていたマントで俺と陽芽の目を覆い隠した。

 そして、その直後――――。


「フラーーーーーーーッシュッッ!!」


 突然、ローニンさんが叫んだ。

 閉ざされた視界からは何の情報も入ってこないが、俺でも分かる単語から察するに、おそらくは一瞬の閃光……すなわち目くらましだろう。

 ちょっとせこいが見事な先制の不意打ち。

 なるほど、敵が塞ぐ通路をどう通り抜けようかと思ったが、ちょうどいいお膳立てをしてくれたわけか。

 グッジョブと思って華麗なクラウチングスタートを決めようとしたら…………。


 がしっ!!


「…………へ?」

「ぬおらあぁあああぁああああっっ!!」


 角ばった太く逞しい腕に襟首を捩じ上げられ……。

 砲丸投げの要領で、野太い掛け声と共に……。

 ぶん投げられた。

 仮に声が聞こえなかったとしても分かる。

 犯人はマユパパだ。

 こんのクソ舎弟がああああああああああっ!


「うわあああああああああっ!?」

「きゃあああああああああっ!?」


 きりもみしながら宙を飛ぶ俺と陽芽の叫び声が重なる。


「ウボァー!!」

「あぅっ!」


 恐怖と驚愕に満ちた無限とも思える数秒の後、兄妹仲良く地面に激しく叩きつけられた。

 割と真面目に痛かった。

 俺が憎しみを募らせながら顔を上げて後方を見ると、未だ閃光に目をやられた敵の向こう側で、やってくれやがったマユパパがドヤ顔でサムズアップしている。

 HAHAHA、ド派手にハッピーなめでたい脳ミソしてやがるぜ。

 東雲さんとやら、やっぱあのオッサン殺しちゃってもいいっすわ。




「あいつ……K……だよな……?」

「当たり前だろが。見ただろ、さっきの奇行」

「でも……何か、雰囲気が…………」


 マユを処刑すべく集まった二層の精鋭達、五十人。

 リーダーの東雲と一、二班を除いた残りの約四十人は、ファフニールの死骸の上できびきびと準備体操に勤しむ少女に、動揺を隠せずにいた。

 それも無理はない。

 なぜなら……。


「ほらほらー、早く帰った方がいーよー! 痛いのはイヤでしょ? ねっ? そうでしょー? これが最後のチューコクだよー?」


 ……いつもとは、明らかに様子が異なっている。

 目は虚ろで表情は不気味、小さな身体ながら凄まじい膂力、白い肌に脱力した奇怪な動きはまるでゾンビのようで、思考は不可解にして理解不能、性格は猟奇的かつ暴力的かつ残虐的――それがいつもの少女、凩マユだ。

 ところが、今の彼女は外見上の特徴こそ本人そのものであるが……似ても似つかない。

 目は生気に溢れて表情は自然かつ明朗、躍動感のある快活な動きはエネルギッシュないたずらっ子そのもので、言動は弾けそうなくらいハキハキとしてキレがあって、どこからどう見ても活発で元気のいい普通の女の子だ。

 寝ている間に叩き込むはずだった魔法の斉射は中断され、二層の強者達は一様に顔を見合わせて次の行動を判断しかねていた。


「もーーっ! みーんなやる気なの? バカなんじゃないのー? わっかんないかなー、あたしの優しさってやつが。まーいーや、カンタンにすませちゃうやり方もあるしー」


 一人でコロコロと表情を変化させながら、緊張感なくペラペラ喋り続ける少女。

 距離を取って様子を伺っていた集団は、唖然としながらも当然ながら警戒を怠ってはいなかった。

 だが、この後に少女が取った行動は、誰もが想定すらしていないものだった。



「スリープミスト!」



 凩マユが――――――魔法を使った――――!!


 サユという内なる存在を知らない者達にとって、それは驚天動地の出来事だった。

 凩マユといえば包丁を武器とする近接戦闘タイプで、魔法は一切使えない――それは、情報収集班が密かに入手したステータスおよびスキルの詳細からも疑いようのない事実。

 しかし――――。

 意気揚々と振り上げられた少女の手から、ぶわっと放射状に広がる濃密な霧。

 一瞬にして部屋全体を覆い尽くした冷たい霧は、すぐ隣に立つ者の姿すらも真っ白にかき消した。

 これは間違いなく魔法だ。


「くそっ! どういうことだよ! Kが魔法を使うなんて聞いたことねえぞ!!」

「何だ、この霧は――!? おい、誰か魔法で吹きとばせ!」

「馬鹿っ! 下手に魔法を使ったら味方……に……あた…………」


 四方八方に飛び交う、焦燥に駆られた声。

 長く続いてもおかしくないパニックだった……にも関わらず、なぜか声は一つ、また一つと途切れて急速に沈静化していく。

 霧を吸った者が、次々と意識を失って倒れだしたからだ。


「ぐっ……睡眠……効果、だと…………!?」

「ふっふーん、思ったよりらくしょーだったなぁー♪」


 事前情報にない、広範囲の睡眠魔法。

 高いINTによって、ほんの一呼吸するだけで大型の魔物であろうと数時間は目覚めることがない強力な魔法。

 完全に想定外の攻撃に、いかに二層の精鋭達といえど為す術もなく、早くも勝敗は決した。

 ――――かと思われた、が……。


「キュアスリープ!」


 陽気なステップでファフニールから飛び降りようとした少女は、部屋の入口付近から発せられた魔法を聞いて足を止める。

 包囲の後方に控えていた補助魔法担当の中に、『睡眠耐性』のスキルと『睡眠状態回復』の魔法を使える者がいたのだ。

 ガチャガチャと金属音を響かせて、眠っていた者がすぐさま立ち上がる。


「トルネードストーム!」


 続けて響く声と共に、少女の目の前に突如巨大な竜巻が発生して霧を散らした。

 視界が開けた部屋の中では、すでに全員が目を覚ましている。

 思いがけない魔法を食らったことで、くしくも精鋭達の当惑は完全に消え去った。

 一同は揃ってギラつく目と、武器と、明確な殺意を少女に向ける。

 少女はがっくりと肩を落として、大きく溜め息をついた。


「あっちゃ~……そーゆーことできちゃうんだぁ……。めんどくさいなーも~~っ!」

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