3 - 4 「猫耳と狐耳と」
目の前の化け物が倒れて動かなくなった。
「あれはジョーカーだニャ。間違いないニャ」
ミーニャを
無事に
ミーニャが落ちていた長剣を拾い、ジョーカーへ近付くと、その剣先でジョーカーをつつく。
ジョーカーはピクリとも動かない。
「し、死んだのかニャ?」
すると突然、仮面からシュコーと音とともに白い靄が零れた。
「ギニャ!?」
飛び上がるミーニャ。
だが、ジョーカーが動き出す気配はなかった。
「お、驚かせるんじゃないニャ!!」
ミーニャが剣先で角をこつんと叩く。
すると、メイリンが「そのまま殺せ! 止めを刺せ!」と叫んだ。
殺せと叫んだ全裸の女を、ミーニャはギロリと睨みつける。
「ミーニャは、そこの女の言葉は聞かないニャ」
「な、なんだと!? なぜだ!!」
周りの女達も、なぜ?という目でこちらを見ている。
だから、はっきりと言ってやった。
「その女は、ミーニャを殺そうとした悪い奴ニャ」
「ふ、ふざけるな! そこの男と一緒にするな!」
「何を言ってるのかミーニャには理解できないニャ。この化け物がいつミーニャを殺そうとしたニャ? 今だって、この化け物はミーニャ達を助けてくれたニャ」
「そ、そんなはずは……」
「見た目が化け物みたいなせいで、きっと皆から虐げられてきた可哀相な人なんだニャ。そうに違いないニャ」
「ば、バカなことを! 手遅れになる前に早く殺せ! 殺すんだ!!」
「殺さないニャ」
「なぜ分からない!? そいつは危険なんだ! 危険な…… そ、そう! 危険な殺戮者だぞ!?」
「違うニャ。ミーニャ達を助けてくれた恩人ニャ」
「ば、馬鹿な! たまたま気絶しただけだ! 気絶していなかったら今頃……」
「もう黙るニャ」
「うっ……」
剣先を突きつけて、目の前の全裸女を黙らせる。
「他にも、この見た目が化け物だけど、ミーニャ達を助けてくれた恩人を殺した方がいいって意見の人はいるかニャ?」
するともう一人……
「お、男は皆野蛮だわ! こ、ここ、ここにいる全員殺すべきよ!」
「過激なのがもう一人いたニャ……」
(確かメサイヤって名前だったはずだニャ。男性恐怖症の貴族様とかだったかニャ?)
すると、その女の足元に転がっていた山賊の一人が、ヒステリックに騒いだメサイヤを挑発した。
「ぐへへ、ここからの眺めはいいぞぉ? おめぇの綺麗な足にむしゃぶりつきてぇ…… はぁはぁ」
そう言いながら、地面に倒された体勢のまま、小刻みに腰を動かした。
「ひ、ひぃいい!?」
気が動転したメサイヤは、手に持っていた剣を、その男の胸へと勢いよく突き刺した。
「ぎゃあああ!?」
胸から血を吹き出しながら絶命する男。
その返り血を浴びたメサイヤが、死んだ男を見て震えあがると、そのまま仰向けに倒れた。
(あ、失神したニャ)
「山賊達を殺したい人は、勝手にすればいいニャ。ミーニャは止めはしないニャ。でも、この化け物はミーニャの恩人ニャ。この化け物だけはミーニャが殺させないニャ」
「駄目だ! 今殺しておけ! お前は、あの惨事を見ていないからそんなことを……」
「黙るニャ。ミーニャは知ってるニャ。この女の方が悪人ニャ」
「ふ、ふざけるなっ! 悪人は貴様の方だろう!!」
「ミーニャは孤児院のお金を奪った卑しい貴族から、お金を取り戻しただけニャ。だけど、お前はそんな優しいミーニャを無理矢理拉致して、その上魔物と殺し合いさせて見世物にした極悪人ニャ」
「い、言わせておけば! ぐっ!?」
メイリンの首に剣先を食い込ませると、メイリンは顔を引き攣らせた。
「じゃあなんでお前は今拘束されてるニャ? ここで植物に拘束されてるのは、山賊とお前だけニャ」
「ぐ……」
「この植物も、きっと精霊の力だニャ。精霊使いに悪人はいないってばっちゃんが言ってた気がするニャ」
ミーニャの言葉を聞いた女達が、ジョーカーへの警戒心を少し緩める。
この世界の住民にとって、精霊は基本的に善の存在だ。
その善の存在が味方となった者であれば、その者も善の存在だというのは信憑性のある話だった。
すると、茶色い髪の娘がおろおろしながら話し始めた。
「こ、この山賊達は、ど、どうするんですか?」
(この子は確か冒険者ギルドの受付嬢って言ってたかニャ? 名前は…… 忘れたニャ)
「この化け…… じゃニャくて、この角の男はジョーカーって名前ニャんだけど、このジョーカーが殺さなかったってことは、きっと殺すなってことなんじゃないかニャ?」
「わ、分かりました」
「でも、念のために鎖で繋いでおこうニャ。あと、このおんニャも」
その後、皆で山賊達とメイリンをそれぞれ鎖で拘束し、万が一、草の拘束が解かれても逃げられないようにした。
そして残るジョーカー。
地面に転がっているジョーカーを前に、ミーニャが皆へ声をかけた。
「誰か、この男を介抱するニャ」
「だ、誰かって…… この人、ミ、ミーニャさんの命の恩人なんですよね?」
「そ、そうだけど、怖いものは怖いニャ」
「えっ……」
ジョーカーは、依然として地面に放置されたままだ。
皆は怖がって近寄ろうともしない。
仕方ないと零したミーニャが、自ら介抱するのかと思われたが、そうではなかった。
「君、そこに転がってる人を介抱するニャ」
その子は、山賊から盲目と呼ばれていた狐人の子供だった。
眼が見えないらしい。
しかもまだ子供だ。
皆がミーニャへ白い目を向ける。
(こ、怖いものは怖いんだから仕方ないニャ!)
ミーニャが皆から白い目で見られていると、話しかけられたのが自分だと思わなかったのか、盲目の子は、怯えながらも、周囲の状況を把握しようとしきりに耳をぴくぴくと動かしていた。
「君ニャ。目の見えない…… えっと、名前なんだったかニャ?」
「わ、わたし……? わたしは、シロ、だよ」
「そっかニャ。じゃあシロくん、君の目の前に転がってる角の生えた、仮面を被っている男を介抱するニャ」
「え、で、でも…… わ、わたし目が……」
「見えなくても大丈夫ニャ。適当でも多分死なないニャ。あ、誰か回復魔法使える人いないかニャ?」
すると、控えめにシロが手をあげた。
「なんだニャ。それなら話が早いニャ。じゃあ任せたニャ。ミーニャはアジトに何か使えるものが残ってないか探してくるニャ。他の人は、山賊の荷物を漁って何があるか把握するニャよ」
そう言うと、ミーニャは一人アジトの中に走っていった。
残されたシロが、おろおろしながらも目の前を手を伸ばして探し始める。
手が角に触れると、一瞬ビクッと身体を震わせて手を引っ込めたが、再びそおっと手を伸ばすと、ジョーカーの大角をペタペタと触り始めた。
「あたたかい……」
そして頭、顔へと触り、少しずつ相手の形を把握していった。
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