第63話 人生とは早食い競争なのだよ

 宝石鉱山と言いつつ、壁にピッケルを打ち付けて採掘するわけではない。

 宝石を求めてやってきた者達は、モンスターを倒してそれを取得するのだ。


 倒したモンスターが宝石をドロップしたところでは、冒険者達がイエーイとかおめでとうと祝福の声が上がっている。

 反対に無言のパーティーでは良いドロップを得られていないようだ。

 まさに明暗がくっきり分かれる様相を呈している。


 モンスターは地面から生えてきたり、壁や天井から生えてきているのを見かけた。

 そしてどこかでモンスターが生えてきたのを見付けると、すぐに近くの冒険者が倒してしまう。

 春太達はなかなかモンスターにありつけなかった。


「ねえねえシュンたん、殆どの人はモンスターが湧くの待ってるね」

 マキンリアが周囲を眺めながら感想を呟く。

 春太はゲームをやっていた頃を思い出した。

「ああ、湧きポイントで待機していた方が効率的だからじゃないかな」


 経験値が沢山もらえるとか、良いアイテムを落とすとか、そんな人気のモンスターが集まっている狩場には当然人が集まる。

 すると、縄張りが出来上がる。

 モンスターが出現しやすい場所があるので、そこで待機する者達が現れるのだ。待機者達は互いに距離を空けて、モンスターが出現するのを待つのである。走り回っても大した収穫が得られないのであれば、そうして待機していた方が効率的だ。ただ、距離を空けて陣取っていても半端な位置にモンスターが湧くと「こいつは俺のだ!」「いいや俺のだ!」みたいに喧嘩になることもあるので注意が必要。


「あたしは待ってるの無理だなー退屈しちゃうし」

「実際退屈だよ。作業になるし」

 ゲームの場合、退屈しのぎにネットサーフィンをしながらでもできる。しかしリアルの場合、どうやって退屈をしのぐかが課題になりそうだ。それでも高額報酬のためなら我慢するという人も多いかもしれないが。

 チーちゃん達はモンスターがいようといまいと関係ないようだった。

 お散歩を純粋に楽しんでいる。

 なお、チーちゃんは黒い毛が多いので見えづらい。

 プーミンもセピア色なので周囲と同化してしまっている。

 純白のセリーナだけが確かな存在感を放ち、その下でちょこちょこ動いているのがチーちゃんとプーミンだろうと分かる状態だ。

「やっぱりあたしは歩き回ってないとダメだなー。それにほら、歩き回ってもモンスターと出会えるし」

 そう言ってマキンリアは手持ちのクロスボウを構え始めた。

 臨戦態勢を見せて、気を抜いていない様子を示しているのかもしれない。

 春太が何の気なしに歩き続けると、マキンリアから呼び止められた。

「シュンたん、モンスターだよモンスター」

「え?」

 春太が振り向くと、頭部にゴンッと衝撃を受けた。

 悲鳴を上げて春太はうずくまる。何か硬い物が当たった。

 春太にぶつかった何かは周囲に着地した。

 その時も硬い音を立てた。

「もーシュンたん、『ほら、歩き回ってもモンスターと出会えるし』って言ったじゃん」

 マキンリアが呆れ混じりに声を漏らす。

 確かにそんなようなことを言ってたな、と春太は思う。

 しかし、その時は『歩き回っていてもモンスターと出会うことは可能』という可能性の話をしていものだと受け取っていた。まさか、今モンスターを見付けた感想を述べているとは夢にも思わなかった。

「紛らわしいよそれ」

 ぶつくさ言いながら春太はモンスターの姿を確認する。


 サンゴをクリスタルで作りました、という感じの見た目だ。

 透き通った体は薄暗い向こう側を映し、少ない灯りの中でも高級そうに光っている。

 クリスタルのサンゴはどうやら天井から生え、落下してきたようだった。

 そこにジャストミートする(しかも呼び止められたことでベストな位置になった)運の悪さはいったい何なのか。


 春太は運というものに軽く悪態をつきながら、モンスターと距離をとる。

 幸い、動きは鈍そうだ。

 素早く弓を構える。

「チーちゃん、プーミン、セリーナ、俺は大丈夫だからそこで見てて良いよ!」

 そんなことを言っている途中でマキンリアがクロスボウを撃っていた。

 サンゴに命中すると硬い音を立て、ダメージが表示される。

『26』

「ねえマッキー俺のセリフ言い終わるの待てなかったの?!」

 春太も慌てて矢を放つ。

「シュンたん、人生とは早食い競争なのだよ」

 マキンリアがニヤリとして人生訓を語る。

 サンゴは避けるそぶりも見せず、春太の矢を受ける。

『14』

 何だかこれまでより与えるダメージが少ない気がする。

 クリスタルでできているだけあって、モンスターの防御力が高いのかもしれない。

 でも動きが無いのなら、単なる的だ。

 これは楽に倒せるのではないか……そう思っていると、キラリと光る物が飛んできた。

「あだっ」

 それが何かを認識するより早く命中してしまう。

 小石をぶつけられた感じだった。

 地面に落ちたそれはクリスタルの欠片で、てんてんと跳ねると消えていく。

「シュンたん、そのモンスター遠距離攻撃してくるみたいだよ気を付けて!」

「どうやらそうみたいだね!」

 身をもって知った春太は旋回を始める。

 念のため自分の残りHPを確認。

『20/58』

「思ったより減ってるー!」

 最初に頭上にくらい、次に欠片をぶつけられ、その二撃だけで38もダメージを受けていたようだ。

 耐えられるのはあと一撃程度、いや一撃耐えられない可能性もある。

 チーちゃんやプーミンがそわそわし始めた。

 彼女達に助けてもらうのも手だ。

 だが回復アイテムもあるので、もう少し頑張ってみよう。

 春太はいったん弓を肩に担ぎ、大食い袋をごそごそ漁る。

 基本的な回復アイテム『HP回復薬』を取り出す。

 これはグミ状になっていて、食べればHPが回復する。

 HP回復薬をもぐもぐしていると、キラリと光る物が飛んできた。

 ギリギリでかわすより、念のためダイブして回避。

 その間にマキンリアが攻撃を加える。

 春太はすぐに起き上がり、また走った。

 今度はマキンリアの方に欠片が投げられた。

「チャンスっ……!」

 春太は一瞬だけ止まり、矢を放った。

 そしてまた走る。

 春太の方に欠片が飛んでくればマキンリアが攻撃、マキンリアに欠片が飛んでいけば春太が攻撃。

 完全に戦いのペースを掴み、勝利。

 サンゴは崩れ去り、天使になって天井へ消えていった。

「大勝利!」

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