第15話 あたしの燃費は、通常の三倍のスピードなの
プラッケ山から帰ってきた二人は買取屋【まごころ商人】を訪れた。
買取専門のため店に商品は並んでおらず、上がり
春太とマキンリアは店主に品物を預け、その間は隅に設置されたテーブルで休ませてもらっていた。
また、この店の娘がマキンリアのクラスメイトということで、その娘も春太達のテーブルに同席している。
そして、流れ上そうなってしまったことで春太は鼻水の心配をしていた。
「この娘はテンリン。とってもしっかり者なんだよ!」
マキンリアの紹介でこの店の娘が明るい顔で挨拶する。
「よろしくねシュンたん。マッキーも冒険者仲間ができて良かったんじゃない?」
テンリンはポニーテールで勝ち気そうな顔である。割と集団の中でも中心付近にいるタイプじゃないだろうか。
「よろしく。『マッキー』?」
春太がおうむ返しに訊くと、テンリンが説明した。
「そう。マキンリアだから『マッキー』」
「シュンたんもマッキーって呼んでいいよ」
マキンリアがそう言うので、春太は頷いた。
「分かった」
何だかあっさりあだ名で呼ぶことがオーケーされてしまったな、と春太は思う。こんなことは初めてだ。姉ズ相手でも定番の『○○
「あたしがテンリンと友達だから、テンリンのお父さんが特別高く買い取ってくれるんだって! だからシュンたんも安心していいよ。他の客だったらすごーく買いたたかれちゃうみたいだけど」
マキンリアが得意そうに言うと、テンリンが肩を竦めて見せた。
「マッキー安心しちゃ駄目よ。それってお父さんが恩を着せるために言ってるだけだから」
そうしたら奥からヒゲ面の店主のおどけた声が挟まれる。
「こらテンリン、本当のこと言ったら商売が成り立たないだろ」
クスクスとテーブルに笑いが起きる。
「そろそろウチが査定するようになるから、そうしたら本当に友情価格で買い取ってあげる! もう殆どのアイテムについては頭に入ってるんだよ。それでさ、さっきシュンたんが査定に出してた物なんだけど、グレイドンのドロップアイテムなんて一体どこで手に入れたの?」
テンリンが訊いてきたが、春太は首を傾げた。グレイドン? 何だっけ。
「あんまり分からないで拾ってるから。ダンルガーのドロップとは違うの?」
「全然違うよ! グレイドンはフルベルト地域で見るようなボスじゃないし、ダンルガーとは比べ物にならないほど強いんだから」
「…………あー、それだとセーネリンガ森のボスかも。昨日倒した時周囲の人が『ここで見るようなボスじゃない』とか言ってたし」
春太が心当たりのあることを話すと、テンリンもマキンリアも唖然とした。
「じゃあ、倒したの……?!」「グレイドンを……?」
それはとんでもないことのようだった。
みんなが驚いてくれるので、春太はニヤリとした。
プーミンを抱き上げ、テーブルの上に乗せつつカッコつけた言葉を吐く。
「俺達が力を合わせれば、1000人力なのさ」
ちなみにこれは本当のことだ。この子達は俺の1000倍強い。1+1000は10001なのだ。だから間違ったことは言ってない。
プーミンは春太にバンザイさせられながら春太の方を振り向き、小さく鳴いた。
「なにこの子可愛い! 名前なんていうの?」
テンリンが黄色い声をあげて目を爛々とさせる。
「プーミン」
春太がニヤけながら答えると、マキンリアが興味を示し尋ねてくる。
「他の子も名前があるの?」
「うん。こっちの小さい子がチーちゃん、大きい方はセリーナ」
「シュンたんって召喚獣に名前付けてるんだね、人間みたいに」
「当たり前じゃないか。人間も動物の一種類でしかない。でも人間に対して『やあ人間』なんて呼ぶやつはいないだろ? それと同じだよ」
するとマキンリアはポンと手を打った。
「……なるほど、そっか! あたしとシュンたんを『人間』って言ったら区別つかないね!」
「そんなの当たり前じゃないか、ねえプーミン? こっち向いて」
そうやって春太がプーミンとベタベタしているとマキンリアが不思議そうな顔をする。
「主と召喚獣って主従関係じゃない。シュンたんには主従関係、無いの?」
春太のベタベタぶりからはプーミン達を同列としているようにしか見えない。
だが春太は、はっきりと答えた。
「ある」
主従関係が無いように見られているのは心外だ。俺達には厳然とした主従関係が存在する。ここらで明確にしてやった方が良いだろう。
春太は不敵に笑い、奥の手を見せつけるように挑発するような声音で言った。
「フッ……良いだろう。見せてやるよ……俺達の主従関係を、な」
そして春太は椅子を離れ、品よくお座りしているセリーナの前でしゃがみこみ、手を差し出す。
「さあセリーナ、俺達の主従関係を見せつけてやろうじゃないか! お手っ!」
するとセリーナは当たり前のようにお手をした。
春太の頭に。
「ね?!」
春太は決まったとばかりに自慢げな目をテンリンとマキンリアに向けた。
「何でそこでドヤ顔できるの?!」
驚愕するマキンリアに春太は「だって姉さんだし」と平然とした顔をして説明を始める。
「母さんが一生親なのが変わらないように、姉さんも一生俺の姉でしょ? 上と下は逆転しないんだよ」
「名言っぽく言ってるけど意味分からないし」
「大丈夫、俺にも分からないから」
春太がてきとうなことを言って煙に巻いていると、テンリンが頬を掻きながら言った。
「要は、シュンたんはプーミン達と仲いいんだね」
こういう纏め的な発言ができるあたり、テンリンはしっかり者なのだろうと春太は思う。
マキンリアは少し考えるような素振りを見せた。
「あたしも召喚獣に名前付けようかな」
「付けた方が良いよ。なんて名前にするの?」
尋ねる春太にマキンリアはこれしかない、といった感じで指を立てる。
「はんぺん!」
「…………何で?」
「おいしそうだから」
理解の難しい理由だった。
そこへテンリンが茶々を入れる。
「マッキーは食いしん坊だもんねぇ?」
「違うよ、ちょっと食欲が強いだけだよ」
マキンリアが慌てているが、彼女の食欲については狩場にいた時からずっと謎だった。
そこで春太が謎をつっついてみることにする。
「そういえばお昼も食べて、俺と会った時におにぎり食べて、しかもさっき狩場から帰る時もおにぎり食べてたよね?」
するとマキンリアは厳かな表情になり、伝説を語るような透明感のある声で言った。
「あたしの燃費は、通常の三倍のスピードなの」
実は身分を隠していたけど王女なの、と重大な境遇を明かすように。
春太は思わず口を開けて固まってしまう。燃費って普通は良い悪いなんだけど、この文脈だと悪い方なんだろうな。通常の三倍もお腹が減りやすいの? そりゃ重大だな、悪い意味で。
「駄目じゃん」
端的な感想を漏らす春太にマキンリアが滔々と説明する。
「違うの。あたし、実は食べることによって魔力を溜める家系に生まれたの。そうして一生に一度、とても大きな魔法を使うことができる。その魔法を使わないとこの世界が形を保てなくなっちゃうんだって。そうして、その魔法を使ったらあたしは死んじゃうの……だからせめて、その時まではおいしいものを食べて過ごしたい」
「え、本当かよ……?!」
「もちろん嘘だよ」
「この野郎ちょっと心配しちゃったじゃないかよウフフフッ」
春太は笑顔で額に青筋を浮かべた。心配して損した。『駄目じゃん』とか俺心無いこと言って傷つけちゃったなあとか一瞬思っちゃったじゃないか。
だがちょっと安心した、とも思った。プラッケ山で会話した時には無邪気だと感じていたが、それが行き過ぎたものになっていないか不安になっていたのだ。だがこうしておふざけの嘘もつくことができるようだ。少し親近感が湧いた。
そうしている内に査定額が出た。
オルカおばさんに今朝聞いてきたが、宿屋ぽかぽか亭は一日1000コロンが素泊まりの値段のようだ。『払えない場合はツケにしてやるから安心しな!』と送り出されたが、最低でもこのラインは超えたいところである。
初日と今日を合わせた稼ぎはどれくらいか。
春太の稼ぎ
6500コロン
これにはマキンリアもテンリンも目を剥いた。
「凄い!」「うわすごっ」
しかし春太にはこの稼ぎがどうなのか基準が無いため分からない。とりあえず六日分の宿代にはなったというところだ。
ヒゲ面の店主がお金を用意しながら教えてくれる。
「ダンルガーのアイテムはそこまで高くないんだが、グレイドンの爪とか体毛とかはけっこうな値段で取引されているからね、これくらいの金額を出しても良いだろうと思ったんだよ。全体のアイテム数が少ない割にけっこうな金額になったね。ベテラン冒険者だとザコモンスターの数をこなして大量にアイテムを持ってくるから、これくらいいくのも珍しくないんだが……駆け出し冒険者にこれだけ払ったのは初めてだよ、おめでとう」
じゃあけっこう良い稼ぎだったのか、と春太は顔を綻ばせた。ベテラン冒険者と同じとは、やるじゃん俺達。
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