【短編】不器用ガールズのバレンタイン事情
柳生隣
2月13日
◇St.one:女子会……。
「おーっし! 着いたぜっ」
開きっ放しになっている自動扉の間を行き交う人々の買い物袋の隙間からチラリと覗くは、明日のイベントへ向けた材料と見られる数々。
そう、明日はバレンタインデー。一年にたった一度切り、女の子が片想いをしている男の子にチョコレートを渡して告白出来ちゃう屈指の胸キュンイベントの日だ。
このイベントの二週間ほど前くらいから女子の間では
「どの男子にあげるの?」
「えー、恥ずかしいよぉ」
「教えろよこのこの~」
「むしろチョコ、皆で手作りしちゃう?」
なんて話題ばかりで持ち切りとなり、前日はチョコレートを渡す相手のことで脳みそが支配され、
「渡せるかな?」
「告白出来るかな?」
なんてことばかり考えて、ワクワクうずうずドキドキが止まらなくなっちゃうのだ。
「……ねぇ、
しかし、この女子二人が、
「ん? 何?」
「そういや
「え?」
上記のバレンタインイベント解説内に登場したような普遍的女子思考を所持していると信じ、買い出しを任せた仁子は大きな選択ミスを犯していた。
「はぁ? 何とぼけたこと言ってんの
「あれって?」
「だからあれだよ! あれ! なっ! あれだよ!」
「梨紗ちゃんも、忘れちゃったんだね……」
「バッカ! んなわけねぇだろ! チョ、チョコレートだよ! チョコレート! つか、それも重要だけど、他にも色々買っていかねぇと……ピッチ上げて買い物して、仁子ん家向かおうぜ!?」
たった昨日のことだ。仁子から伝えられたお菓子のレシピ、あろうことか二人とも最も肝心であるそれをド忘れしていたのだ。
軽い認知症ではないかと疑われても仕方のないレベルだが、それほどまでに、この
どちらかと言えば色気よりも食い気、いや、正直に言えば超食い気。貰える男の側に回ってもいいなら回りたい、友チョコくれよ、それがこの二人の心の奥にあるゲスイ本音だ。作ってあげる(ハァト)なんて甘ったるい言葉とそれに伴う行動イメージは二人の中には通年存在しない。そんな感じであるにも関わらずよく仁子からの“
何より二人が今早急に対処しなければならぬは忘れてしまった材料についてであるのだが。
それに対する不安を取っ払うように梨紗は杏鈴の左腕を鷲掴んでズルズルと引っぱり、店内へと進んでいった。
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