まほろば
ケニア
第1話 二人の出会い -1-
村は朝の静寂に包まれていた。時折聞こえるのは小鳥のさえずりだけである。
そんな村の、とある一軒の家屋から木製の窓が勢いよく開かれた。
「よし! 今日もいい天気だ!」
窓を開けた張本人である早起きの少年は空高く輝く太陽を眩しそうに見ながら言う。身長は高めだが、細身、茶色の髪の毛に寝ぐせのような髪型、顔は人当たりの良い優しい顔をしている。
少年は寝起きの顔を洗い、寝間着から普段着に着替え空のカバンを背に家を出た。行先は【ニース村ギルド支部】、この村のギルド支部であった。
「村長、おはよう!」
少年は今朝と同じ勢いでドアを開け挨拶をする。
「おお、ハルか。おはよう。今日も
支部の中から男のしおれた、でもどこか暖かさを感じる声が返ってきた。
早起きの少年ことハルは支部の扉をくぐり村長の待つ受付に向かった。受付台には3枚の紙が並べられ、それぞれに依頼の内容がこと細かに書かれていた。
ハルは一通り目を通すと、その中から1枚の紙を選び取った。
「村長、今日はこれにするよ」
ハルはそう言うと、取った紙を村長に渡す。
その紙には、拙い字で風邪で寝込んでいる母親のために風邪薬が欲しいと書かれていた。
「ほうほう・・・・・・、ハルよ、どうしてこの依頼を選んだのじゃ?」
「その依頼は、他の依頼に比べて緊急性が高かったからね。それに、ほんとはこんなことはダメだと思うんだけど、依頼主がアニエスだったから・・・・・・」
アニエスはハルや村長と同じニース村に住む8歳の少女。母親と二人暮らしでハルを兄として慕っている。
村長はハルの答えを聞くと満足そうに数回深く頷いた。
「ところで村長、風邪薬なんだけど・・・・・・、どうやって作ればいいかな?」
ハルは頭を掻きながら恥ずかしそうに聞く。村長は少し笑って支部の裏山の頂上にある大樹の根元に万能の薬草があること、さらに薬草の特徴を教えた。
「ありがとう、村長! さっそく出発するよ!」
そう言うとハルは身支度を始めた。家から持ってきた空のカバンに小さいスコップ、ちょっとした飲食料、薬草を入れる保管箱を入れると、最後に自分の腰に短剣を差した。
準備完了と言わんばかりに顔を両手で軽く叩く。今度は荷物の詰まったカバンを背に支部を出た。
「この裏山、結構足腰にくるね・・・・・・」
支部を出発し裏山を登り始めてはや数時間。そろそろ中腹にさしかかろうというところでハルはため息と同時にぼやいた。朝の元気はどこへやら、視線は下に落ち、気だるそうに歩く早起きの少年の姿がそこにはあった。
さらに、追い打ちをかけるように空模様が今朝の快晴にかげりが見えてきた。
「うーん・・・・・・、一雨きそうかな。それにアニエスも待ってるだろうし、使うか」
そう言うと、ハルは背のカバンと自分の体をヒモでしっかりと結び始めた。
結び終わると、次は目をつぶり大きく息を吸い込み始める。そして吸い込み終えた瞬間、ハルがカッと目を見開くと、突如として突風が裏山の下から上へ駆け抜けた。そして、そこには一本の風の道が作られた。ハルはその風の道に乗り、一気に山を駆け上がる。一歩一歩が今までの数十倍程の距離となり、瞬く間に頂上へと登りつめていく。
これは偶然の突風などではなく、風魔法である。この大陸に生まれた
「これが頂上の大樹だね。はやく薬草を手に入れて下山しないと」
明らかに周りの木とは太さも長さも桁違いの木を見上げながら言う。木のさらに上に目をやると、さっきまで見えていた太陽は完全に隠れ、代わりに空は真っ黒な雲で覆われ、おまけに大粒の雨が絶え間なく降り注いでいる。
ハルは大樹の根元を時計回りに丹念に調べて回る。ちょうど、半周したところで村長から聞いた特徴に一致する薬草を発見した。これか、と一言つぶやくと体とカバンを結んでいたヒモを外し、カバンからスコップと保管箱を取り出すと、薬草の根元から薬草を傷つけないように慎重にスコップで掘りあげ、それを保管箱に入れた。
「よし! クエスト完了!」
一仕事終えた感満載で、頬に垂れた汗を手の甲で拭う。そして、スコップと保管箱をカバンに入れ背負い、登ってきた場所にそのまま時計回りに大樹の残り半周を周りはじめた。
「しかし今日は雨も降るし大変だったな・・・・・・。結構疲れを感じるし、帰りは魔法を抑えめにしないといけないね」
ひとりで喋っていた、その時であった。何かにつまずき、前のめりに倒れこんだ。すぐに起き上がってカバンの中の保管箱をチェックする。保管箱はどうやら無傷だったようで、ハルはふう、と安堵のため息をついた。と同時に何につまずいたのか気になって、後ろを振り返った。
そこには髪は長髪、軍服の様なロングコートに膝までのブーツ、腰に一本の刀を差した全身が黒のハルと同じ歳ぐらいの少女が大樹にもたれかかっていた。黒は周りのせいではなく、髪、服、刀すべてがそうであった。
大丈夫ですか!?ハルは何度も少女に対して声をかけた。だが、返事はない。ハルは失礼します。と言って少女の額に手を当てた。手からは雨で冷えた手を温めるには十分すぎる熱が伝わった。よく見ると、息遣いは荒く、苦しそうにしている。
ハルはカバンの中から保管箱以外の荷物をすべて出すと、少女にカバンを背負わせた。そしてその少女をハルが背負い、ヒモでしっかりと途中で離れないように少女とハルを結びつけた。
「最後まで持つかな・・・・・・」
再び山に突風が吹き抜けた。
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