第2話 一日置いたとろとろシチュー

「尹小田口絵さやかさんですね?」


さやかの住んでいるアパートの入り口に立っていた二人の強面男はさやかの姿を見て近付きながら話し掛けてきた。

パンチパーマに黄色のスーツを着た明らかに何か勘違いをしている男と紫の上着を腕を通さず肩にかけてポケットに手を入れているもう一人の男がさやかがアパートに入るのを妨害する。


「そうですけどあなた方は?」

「これは失礼、ワシ等はタカラミートって会社のもんでねあんたの親父さんの借金の取り立てで親父さんを探しとるんですわ」


怪しい…怪しいがサングラスして歩いてる。

大体定年を迎えて働いてない父が大きな借金を作る筈がない。

よく聞く架空請求ってやつなのかな?


「父とは昨年から連絡もしてないので知りません、通して下さい」


さやかは男達の横を抜けようとしたが目の前に一枚の紙を出されて止まった。


「借用書?」


上に借用書と書かれた紙には借り主『雲竜山 四面楚歌』と書かれていた。

これは父の昔からの親友だ。

さやかもよく遊んでもらった記憶がある。

そして、保証人に『尹小田口絵 覇王流星竜巻魁皇山』と父の名前が書かれていた。


「このうんりゅ…ざん?しめんそか?さんの保証人に君の親父さんのゆんこた…ぐちえ?はおうりゅうせい…たつまき…かいおうざん?さんがなっているのは確認できたかな?」


パンチパーマの男は何度も読み返して練習をしてきたのだろう、特に父のフルネームを間違わずに言えただけでもこの男…出来る!


「はい、確かに父の名ですね。」

「うんうん、そうだよね。それで親父さん行きそうな場所に心当たりとか無いかなぁ~?」

「残念ですが父は仕事人間でしたしプライベートで何処かへ行くなんて聞いたこともないです」

「うーんそっかぁ~んじゃあ一応で悪いんだけど部屋の中に匿って無いかどうかだけ見せてくれないかなぁ?」


部屋に男を入れる。

それはさやかにとってトラウマであった。

一度以前住んでいた部屋にストーカーが押し入り襲われたことがあったのだ。

幸い部屋にあったホッチキス2つを紐で結んで作った防御不可能の武器があったから撃退が出来たが今度は二人。

部屋の中ではさやかに勝ち目は無いので即答で。


「お断りします。」

「そうかい、まっいいや。もし親父さんから電話とかあったら教えてくれると助かるわ」


そう言って一枚の名刺を手渡してきた。


『株式会社タカラミート 永遠乃 十八才』


「それでな『とわのおはとし』って読むねん、お互い珍しい名前同士仲良くしようや」


そう言って永遠乃は抜けてる前歯を見せるようにニッコリ笑い帰っていった。

その後、直ぐに実家に電話をしたが誰もでなかった。

とりあえず昨日の残りのシチューを暖めて食べながら父の事を考えていたらそのまま食卓テーブルで眠ってしまうのだった。

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