第3話 佐伯健二兄を救う

「ほらっ次はあっちを探すぞ」


健一は俺の手を引いて人混みの中を進む。

そうだ、俺は佐伯健二。

兄の健一と一緒にこの遊園地に来ていた親の元を離れてしまい迷子になっているのだった。


「兄さん!ちょっと待って兄さん!」


俺が大きく叫んだら健一は目を大きく開いてこっちを見た。


「どうしたんだ突然?いつも兄ちゃんって言うのに?」


兄はきっと俺がこれ以上泣かないように無理矢理平気な顔をしているのが分かるくらい目を真っ赤にしていた。

そして、俺は知っていた。

それは直ぐそこまで迫っていた!

俺は10センチは高いかもしれない兄の顔に右手を急いで伸ばした。


ジュッ


右手の甲が焼ける。

だが俺は守った。

歩きタバコの火に兄の右目が焼かれ視力を失うのを防いだのだ!


「熱っ!」


火傷をした右手でそのままタバコをはたき落とす。

兄の顔の高さが丁度タバコを挟んで歩いてきたおじさんの手の位置だったのだ。

おじさんが驚いた目でこっちを見て謝りだす。

ここからは記憶と同じだった。

違うのはそのまま迷子センターに連れていかれ親が来るまで火傷の治療を受けたのが兄から自分に代わったのと救急車を呼ばなかった事である。


俺の記憶の一番古い記憶、忘れられない記憶…

兄が片目を失明した筈のこの日に俺は戻ってきた。

横で兄が顔をグシャグシャにしながら俺を抱き締めお礼を言っていた。

治療してくれたお姉さんから聞いたのだろう、俺が防がなかったら失明していたかもしれないと。

不良をやってた時にこんな根性焼きを何度か付けた事もあったから今はこの痛みが懐かしく感じて何もかもが高く見える視界に本当に戻ってきたんだと実感した。

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