調査隊
ある昼下がり、妙な胸騒ぎのする晴れた日だった。建物から見える地平線は住宅で覆い尽くされている。ほのかにオレンジの地平と灰色みを帯びた微かな藤色、やけに静かだった。私は外に出た。出れば少しでもまた止まった世界が動き出すかと思ったからだ。道行く人が誰もいない。商店街は多くはシャッターが降ろされていて、店番の姿はどこにも見当たらない。歩いてる自分自身さえ存在が危うくなり、近くの公衆便所に駆け込んだ。鏡で自分の顔を確認する。そこに自分の顔はあるが、なんだか現実味がない。ふと個室に気配を感じた。とても細い蛇のような存在が蠢いていた。ゆっくりと近づくと、それがどうやら生物ではない事に気がついた。それはきしめんのような形状をしている。そして黒く透明で溶けかけていた。どんどん、便器の中へ入り込んでいく。靴のつま先でグッと踏むとプラスチックのちぎれる音がした。マイクロフィルムだ。マイクロフィルムは下水道から何処かへ脱出しようとしている。
私たちの取引は通貨ではなくマイクロフィルムで行われている。どれほどの情報の価値があるかで、自身の自由な時間が決まるのである。私たちは日々拘束されている。
私の踏んだつま先を、硬い靴底が踏んだ。
「ぐ」
思わず声が漏れた。足を引っ込めるとフィルムの切れ端がその靴底に収められた。
「見られたからにはもう見逃せないな。」
腹部に衝撃を受け、目の前が真っ暗になった。
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